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緑陰2

 物陰から様子を伺いつつ、大きくわだかまる瘴気の元を探す。


 焼け落ちる家、倒れ伏す数人からはすでに生気が感じられない。


(ひどい有様だな)

 漆黒の翼を広げ、頭上を舞う妖魔に見つからないように、軒下を繋いで移動する。


 辺り一面が薄っすらと瘴気に覆われ、ねっとりと身体に巻き付く霧の中を行くような感覚が、一種の悪夢を想像させた。


 自分が現実を歩いているのか、思考の中まで侵されていくような……。


(いかん。瘴気に当てられたか)


 近くの壁にもたれ掛かり、破邪の札を仕込んだたもとを口元に当ててゆっくりと息を吸う。


「それ程までに辛いのなら、無理をせずこちらにおいで」

 優しい女の声が耳に届いた。

 この殺伐さつばつとした現状にそぐわない、柔らかく甘美な響きに、一度は引き戻された意識が頭の中でぐらりと揺らぐ。


 日も落ち始め、薄暗い家屋の影から長い黒髪を揺らして背の高い女がゆっくりと現れた。


 浅黒い肌、胸元の大きくはだけた着物からは、こぼれ落ちそうなほどの豊かな胸を惜しげもなくさらし、紅い唇がことさらに強い色香を漂わせる。


「鬼か」

 絞り出すような緑陰の一言に、紅い唇が小さく微笑んだ。


渧幻姫ていげんき

 でもいいわ、覚えなくても」

 徐々に近づいて来る渧幻姫に、一定の間合いを保つように後退する。


「んふふ。

 貴方、強いのね。

 身体中から熱い霊力が溢れ出ているみたい……。

 あんっ。美味しそう」


 身体をくねらせ、紅い唇を細く長い舌が舐めずる。

 先の割れた蛇を思わせる舌に、緑陰の頭に浮かぶものがあった。


「昨日、鬼を封じた大岩でトカゲの妖魔をけしかけたのは、そなただな。

 自分は林の奥から高みの見物か」


 クスッ。

「当・た・りっ!」

 歪んだ口元が言葉を強く吐き出すと、大地に落ちる家屋の影がバタバタと動いた。


 見上げると、こちらを覗く多数のトカゲ。

(囲まれたかっ!)


 上からの攻撃を考えれば、軒下の狭い隙間は仇となる。

 飛び降りてきた数匹のトカゲを避けつつ、家屋の隙を縫って集落の中心に飛び出した。


「破邪っ!」

 九字を切り、集まってきた妖魔に数枚を放つが、札の枚数にも限度がある。


 襲撃を予想していなかったわけではないが、この数は想定以上、そして鬼封じの札は一枚しか用意できなかった。


 二体を黒焦げにした事で警戒したのか、トカゲは一定の距離を置いて周りを囲む。

 その数、十あまり。

 頭上の妖魔も気にかかる。


(渧幻姫。

 そして未だに姿を現さない、白い鬼)

 手持ちの札が尽きれば勝機はほぼ無いと言ってもいい。


(仕方がない)

 緑陰は携えた腰刀を引き抜いた。


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