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機会

 許さない。


 悲しみは、絶望から沸々と湧き上がる怒りへ変わる。


 辺りに落ちる、しおれた数本の花。

 おミヨの小さな身体を草の上に横たえて、手の平で瞳を閉じさせた。


 連れて帰るからね、ちょっと待っていて。


 落ちた手を胸の上に重ねようとして、硬く握った手に触れた。

 何か握り締めている?


 ゆっくりと開く小さな手の中にはクシャクシャになった和紙。

「鬼封じの札。

 何でおミヨが」

 取り出すと、はらりと落ちる漆黒の羽。


 アイツだっ!


 憎しみの中で一瞬、脇腹の痛みを強く感じる。

 まだ九つのおミヨの身長では、大岩の札には手が届かないはず。

 妖魔も自分では触れられないと悟って、おミヨを抱えて飛んだのか?


 かたきはとった形になったが、だからと言って気が晴れる物ではない。

 あの妖魔は他の子供も狙っていた。


 鬼封じの札を手で伸ばす。

 見慣れた兄様の文字。


 これだ。

 この札を持っていたから、妖魔はおミヨの亡骸を傷つけられなかった。

 兄様。


 まるで計ったかのような偶然。

 いや、機会を伺っていたんだ。

 元々兄様は明後日には京都みやこに立つ予定だった。


 札をふところにしまい、歩みを進めた。


 砕けた大岩の中を覗き込む。

 やはり何もいない。

 ひんやりとした空気は、日影から出る物だけでなく、染み付いた禍々まがまがしさを感じさせた。


 確かにここには何かが居た。

 そう感じさせるには充分な程。


 どこかへ行ったのか?

 ここへは戻らないのか?


 自問したところで答えは出ない。

 夜には兄様が帰ってくる。

 せめてそれまでは、何事もなく過ぎてくれ。


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