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鬼呼神社

 薄く雲のかかる空に、朝焼けの輝きが彩りを添え始める。

 ひんやりとした空気を吸い込むと、身体の芯がスっと引き締まるような感覚にゆっくりと瞳を開いた。


薄紅(うすべに)、朝のお勤めに参るぞ」

 あくびを噛み殺し、神主の正装に袖を通した兄様の後ろから、巫女服に袖を通した私は白木造りの三宝台に、御神酒(おみき)とお(さかき)を持って続く。

 清らかな空気の中、鮮やかに塗られた朱色の回廊は、辺りを照らし始めた澄んだ光により一層の佇たたずまいを見せた。


「兄様、寝癖がひどすぎる。昨夜は村長(むらおさ)達と随分遅くまで酒を交わしていた様だけど」

 後ろから見る姿は鶏のトサカの様に髪が逆立っている。

 全く、もうちょっと外見に気をつけて欲しいものだ。

 兄様ももうすぐ十九歳あんまり構わずにいると、嫁のきてが無くなるぞ。


「ここ半年以上は妖魔の類もなりを潜めているからな。鬼呼(おにこ)神社のお陰だと勧められれば飲まぬ訳にはいかないよ」

 困ったような優しい声に、大きな手が髪を撫で付ける。

 手櫛(てぐし)で髪をといたくらいではどうにもなりそうにない寝癖具合だが、一応の格好はついただろうか。

 朝のお勤めへと歩き出す背中を追いながら、私も心を落ち着かせるように息を整えた。



 ここ数年、飢饉(ききん)疫病(えきびょう)(ちまた)(あふ)れて人々の心にも闇が濃い。


 京都(みやこ)より勅令(ちょくれい)を受けてこの地に鬼呼(おにこ)神社建立(こんりゅう)となった折、真っ先に兄緑陰(りょくいん)の名が神主候補に上がった。


 鬼を呼び込み、封印する。

 そんな解釈だっただろうか、十八とまだ若い兄が神社を任されるとは両親も私も誇らしく思ったのをよく覚えている。


 弟もまだ幼く、京都の総本山を離れられない両親に代わり、十五になっていた私が修行も兼ね、身の回りの世話係として彼の地に同行して一年が経っただろうか。

 巫女としてお仕えし、兄とともに修行の日々。


 鬼と言ってもこの辺りではせいぜい餓鬼の妖魔が出るくらいで、封印するに手こずることもないが。




「京都にはいつ参られる?」

 朝食後のお茶を出し、柔らかな風を通す縁側(えんがわ)から外を眺めていた兄様に声をかけた。

 田畑の先、鬱蒼(うっそう)と茂る林の奥。兄様の視線はさらにその先を見ているかのような感覚にとらわれる。

「京都へは三日後に立つ」

 心做(こころな)しか、兄様の声に不可解な重みを感じて、私も林に目を向けた。


 背の低いあの山の入り口には昔、鬼を封じたと言われる大岩があったはず……。


「この後は時間を取れるな。薄紅、一度大岩に参っておこう」

 こちらを振り向いた兄様は、いつもの柔らかな笑みで湯呑(ゆの)み手を伸ばした。


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