「小説家になろう」で読んではいけない小説 ―注文の多い小説―
読んではいけません。しかし少しでも読み始めたら最後までお読みください。
また、注文はでき得る限り実行してください。
さもないと、死にます。
ちょっとした息抜きのつもりだった。
何か新しい面白そうな新作は投稿されているかな?
僕はポケットからスマホを取り出して、「小説家になろう」のページを開く。
画面の上で指を滑らす。この小さな氷上では僕の指はフィギュアスケーターだ。指滑らせ、タップする。滑らせて、ジャンプをする。少し指を踊らせていると、一つの作品が目に留まった。
――「小説家になろう」で読んではいけない小説 ――注文の多い小説――
なんだろう?
少し興味をそそられた僕はそのページを開く。
――読んではいけません。しかし少しでも読み始めたら最後までお読みください。また注文はでき得る限り実行してください。さもないと、死にます。
えっ!? と思った。
まさかね。小説読んで死ぬ訳ないでしょっ。読んでやろうじゃないの。僕は画面を下にスクロールさせる。
――これは家で、夜、ひとりで読まなければいけません。もし外出中だったら、ブックマークし、帰ってからお読みください。ブックマークをして一週間経っても読まなかったら、死にます。
これか。
「注文の多い小説」とあったけど、こうゆう注文か。まあいっか。こうなったら最後まで付き合おうじゃないの。短い「短編」みたいだし。
僕はブックマークをして、ページをいったん閉じた。
○
夜、僕は風呂の後、自分の部屋にいた。布団の上に横になり、ぼんやり寛いでいた。無意識のうちにスマホを取り出して、ネットサーフィンをしたり、ゲームをしたが、ふと昼間の小説が気になって「小説家になろう」のページをまた開いた。
――「小説家になろう」で読んではいけない小説 ――注文の多い小説――
――読んではいけません。しかし少しでも読み始めたら最後までお読みください。また注文はでき得る限り実行してください。さもないと、死にます。
――これは家で、夜、ひとりで読まなければいけません。もし外出中だったら、ブックマークし、帰ってからお読みください。ブックマークをして一週間経っても読まなかったら、死にます。
ここからだったね。僕は続きを読み始めた。
――窓は開いていますか? 閉まっていたら鍵を外して、開けてください。
ずいぶん変わった注文だなぁ、と思いながら、僕は起き上がって窓を少し開けた。それからカーテンを閉めると、布団の上に座り直し、また続きを読んだ。
――カーテンは開いていますか? もし閉じていたら、少し隙間を空けてください。
なんだよ。カーテン閉めちゃったよ、と思いながら、僕は起き上がってカーテンを少し開けた。それから布団の上に座り直すと、また続きを読んだ。
――部屋の扉、押し入れや、クローゼットは開いていますか? 少し隙間を空けるように開いてください。
注文が多いなぁ、と思いながら、僕は押し入れの襖を少し開けた。部屋の扉は開けたくないので、鍵だけ外した。
――部屋の扉を開けたくなかったら、鍵を掛けないだけでも結構です。
うっ、なんか気持ちを読まれているのかな? 僕はちょっと薄気味悪く感じた。
――部屋の電気を消してください。
僕は部屋の電気を消した。カーテンの隙間から外の光が少し入って来るが、ほとんど部屋の中は見えない。スマホだけが煌々と冷たく光っている。
――これで準備が整いました。お疲れ様です。読んでいる間は動き回ってはいけません。
――もし動くと、死にます。
僕は暗い布団の上にじっと固まって読み始めた。
○
――ちょっとした息抜きのつもりだった。
――何か新しい面白そうな新作は投稿されているかな?
――あなたは「小説家になろう」のページを開く。
――「小説家になろう」で読んではいけない小説 ――注文の多い小説――
――なんだろう?
――少し興味をそそられたあなたはそのページを開く。
――読んではいけません。しかし少しでも読み始めたら最後までお読みください。また注文はでき得る限り実行してください。さもないと、死にます。
――えっ!? と思った。
――まさかね。小説読んで死ぬ訳ないでしょっ。読んでやろうじゃないの。あなたは画面を下にスクロールさせた。
――これは家で、夜、ひとりで読まなければいけません。もし外出中だったら、ブックマークし、帰ってからお読みください。ブックマークをして一週間経っても読まなかったら、死にます。
――これか。「注文の多い小説」とあったけど、こうゆう注文か。まあいっか。こうなったら最後まで付き合おうじゃないの。短い「短編」みたいだし。あなたはブックマークをして、ページをいったん閉じた。
僕はここまで読んで気が付いた。これは僕の話だ。暗闇の部屋。僕はひとり、自分の話を読んでいる。
妙な気分だ。
いったいこの話はどんな展開を見せるのか、僕はちょっと期待して先を読み続ける。
――夜、あなたは風呂の後、自分の部屋にいた。布団の上に横になり、ぼんやり寛いでいた。無意識のうちにスマホを取り出して、ネットサーフィンをしたり、ゲームをしたが、ふと昼間の小説が気になって「小説家になろう」のページをまた開いた…………。
たった今僕がしたことがそこに書いてある。僕はひとつひとつ確かめながら読んでいった。
――あなたは部屋の電気を消した。
――これで準備が整いました。お疲れ様です。読んでいる間は動き回ってはいけません。もし動くと、死にます。
――あなたは暗い布団の上にじっと固まって読み始めた。
そう、ここまでだ。ここまで読んだがすべて同じだった。僕は続きを読んだ。
――あなたは今、誰かに見られています。
えっ、と僕は周りを見た。部屋は暗いので誰がいるかは分からない。カーテンには人影が写ってないので、窓の外には誰もいないだろう。押し入れには隙間があるが、暗くて見えない。
――窓の外にはいませんでしたね。部屋の中は暗くてよく見えませんでしたね。
まるで話しかけられているようだった。
――その人は、あなたの部屋にはいません。別の家の、別の部屋で、あなたの話を読んでいます。
僕が僕の話を読めるのだったら、他の人が読むことも出来るかもしれないな、と僕は思った。
でもその人とは誰だろう。
――その人はちょっとした息抜きのつもりだったのです。
――「何か新しい面白そうな新作は投稿されているかな?」と思いました。
――その人は「小説家になろう」のページを開き、一つの作品に目を留めました。
――「小説家になろう」で読んではいけない小説 ――注文の多い小説――
――その人は「なんだろう?」と思い、このページを開いたのです。
――読んではいけません。しかし少しでも読み始めたら最後までお読みください。また注文はでき得る限り実行してください。さもないと、死にます。
――その人は、そう書いてあるにも関わらす、ここまで読んでしまいました。
――その人は「まさかね。小説読んで死ぬ訳ない。読んでやろう」と思ったのです。
――これは家で、ひとりで読まなければいけません。もし外出中だったら、ブックマークし、帰ってからお読みください。ブックマークをして一週間経っても読まなかったら、死にます。
――その人は、気付いていませんでした。自分もまた物語の主人公であったことに。そして自分が、死の崖っぷちに立っていることに。
――あなたのことですよ。
――今は夜ですか?
――ひとりですか?
――もし違うのならブックマークし、夜になってからお読みください。ブックマークをして、初めからお読みください。一週間経っても読まなかったら、死にます。
――どうするか、今、決断してください。
――先に進みますよ。
――窓は開いていますか? 画面から目を離し、窓を見てください。閉まっていたら鍵を外して、開けてください。
――ご確認ください。閉まっていると死にます。
――早く開けてください。
――カーテンは開いていますか? 画面から目を離し、カーテンを見てください。もし開いていたら、少し隙間を開けてください。
――ご確認ください。閉まっていると死にます。
――早く開けてください。早く開けてください。
――部屋の扉、押し入れや、クローゼットは開いていますか? 少し隙間を空けるように開けてください。
――ご確認ください。閉まっていると死にます。
――早く開けてください。早く開けてください。早く開けてください。
――部屋の扉を開けたくなかったら、鍵を掛けないだけでも結構です。
――ご確認ください。閉まっていると死にます。
――早く開けてください。早く開けてください。早く開けてください。早く開けてください。
――天井を見上げてください。誰かいますか? 誰もいなければ、それで結構です。
――部屋の電気を消してください。
――ご確認ください。部屋が明るいと死にます。
――早く消してください。早く消してください。早く消してください。早く消してください。
――準備は整いましたか? 本当によろしいですか? これから読んでいる間は動き回ってはいけませんよ。
――もし動くと、死にますよ。
――死にますよ。死にますよ。死にますよ。死にますよ。
――その人の準備が整うまで少々お待ちください。
――その人の準備が整うまで少々お待ちください。
――その人の準備が整うまで少々お待ちください。
――その人の準備が整うまで少々お待ちください。
――その人の準備が整うまで少々お待ちください。
――その人の準備が整うまで少々お待ちください。
――その人の準備が整うまで少々お待ちください。
――その人の準備が整うまで少々お待ちください。
――あなたのことですよ。
――あなたのことですよ。
――あなたのことですよ。
――あなたのことですよ。
――あなたのことですよ。
――あなたのことですよ。
――あなたのことですよ。
――あなたのことですよ。
――あなたのことですよ。
――あなたのことですよ。
――あなたのことですよ。
――ほら、これを読んでばかりいないで、重い腰を上げてください。
――ほら、これを読んでばかりいないで、重い腰を上げてください。
――ほら、これを読んでばかりいないで、重い腰を上げてください。
――大丈夫ですか? もう時間がありませんよ。
――大丈夫ですか? もう時間がありませんよ。
――窓は開いていますか? カーテンは開いていますか? 部屋の扉、押し入れや、クローゼットは開いていますか?部屋の電気は消えていますか?
――本当にいいですね?
――本当に良かったら、続きをお読みください。
――準備が整ったら、続きをお読みください。
あなたは暗い部屋で、ひとりで小説を読んでいます。窓とカーテンは少し開いていて、微かな冷たい風が入って来ます。寒いので布団をかけました。ドアの鍵は閉めていません。押し入れやクローゼットの扉は少しだけ隙間を開けてあります。
あなたはこのまま読み続けようか迷いながら、ずるずるとここまで来てしまいました。もう後戻りはできません。
ここでやめたら待つのは死だけです。
あなたは今、誰かに見られています。
あなたが部屋で、ひとりでこれを読んでいる話を、誰かが別の部屋で読んでいます。その誰かは、これからあなたに何が起こるか、どきどきしながら見ています。
それだけではありません。
そのカーテンの隙間。そこから誰かが覗いています。起きて窓を閉めに行ってはいけません。その誰かは、あなたが動いた瞬間、風のように窓から入ってきます。
絶対に動いてはいけません。
押し入れやクローゼットの黒い隙間。そこから誰かが覗いています。起きて閉めに行ってはいけません。その誰かは、あなたが近づくと、腕をつかんで闇の中に引きずりこんでしまいます。
二度とこの世に戻って来れません。
絶対に動いてはいけません。絶対に動いてはいけません。
部屋の扉。ちゃんと開けておきましたか? 鍵はかかっていませんね。確かめてはいけません。トイレに行きたいですか? まだ行ってはいけません。
まだ行ってはいけません。
今、行ったら危険です。そこは別の世界につながっています。死者の国です。一歩足を踏み出すと、扉は消えて、もとの世界に戻れません。
もとの世界に戻れません。
今は部屋の中で自分の身体を守ってください。必ず助かる方法があります。
言い忘れましたが、そこにある布団はいつものあなたの布団ではありません。とてもよく似ていますが、別物です。
この温かい布団はあなたを徐々に消化します。このまま朝まで入っていると身体は溶けてなくなってしまうので注意してください。
注意してください。
助かる方法はこうです。
一回、目を閉じてください。目を閉じたまま深呼吸をしてください。そのまま、今まで生きてきた中で一番楽しかったこと、幸せだったことを思い出してください。
思い出したら、目を開けてください。
思い出せなかったら、もう一度、目を閉じて考えてください。
思い出せましたか?
窓の外の誰か、暗い隙間の中の誰か、部屋の外、死者の国の誰かは、少しずづ、あなたに近づいて来ます。
あなたに近づいて来ます。
急いでください。急いでください。
彼らの近づく音が聞こえますか?
彼らの臭いを感じますか?
あなたは、その誰かに触られると、死んでしまいます。その誰かはもう死んでいます。自分の仲間を探しているのです。誰でもいいから、自分の仲間にしたいと思っているのです。
急いでください。急いでください。
あなたの幸せな記憶、思い出せましたね?
思い出せたら、あとするべきことが二つあります。あと二つです。
●一つ目は、「色不異空 空不異色」と三遍唱えてから、「感想」の「一言」欄に「色即是空 空即是色」と打ち込んで送信すること。
●二つ目は、この小説を別の誰か、知人や友人、ご家族に紹介して読ませること。
いいですか? この二つです。できますね。
それが済みましたら、部屋の明かりをつけて結構です。
つけましたか?
次に窓の外を確認してください。誰かいますか?
もう誰もいませんね。
押し入れやクローゼットの中を確認してください。誰かいますか?
もう誰もいませんね。
部屋の扉を少し開けて見ましょう。死者の国はありますか?
もうありませんね。
ご安心ください。これであなたは安全です。
死ぬことはありません。死ぬことはありません。
ただし、注意してください。注意してください。注意してください。
もし、またあなたが、別の誰かから、知人や友人、ご家族から、この小説を読むように勧められたら、もう一度、幸せな記憶を思い出し、先ほどの二つのことをやらねばいけません。
やらねばいけません。やらねばいけません。
彼らは、いつも近くの隙間から、あなたを見ています。
見ています。
必ず、やらねばいけません。
さもないと、今度こそ…………
昔、不幸の手紙とか流行りましたねー。
宮沢賢治『注文の多い料理店』のパロディです。ホラーディかな。
ご意見ご感想おまちしてます。
そうそう、唱える方が、「色不異空 空不異色」で、
「感想」の「一言」欄に打ち込む方が、「色即是空 空即是色」ですからね。
もし、間違っていたら、死にますよー……。
不幸の手紙とかネズミ講的な要素が最後にあるので、「読んではいけない」と書いてありますけど、みなさん読んでねっ。
実際に動いて体感すると、結構おもしろいと思いますー。