お騒ぎ禁止
「人は魔力を持つ。だがその魔力量は平等ではなく、それの多寡によって魔術師と呼ばれるかが決まる。当然、魔力量が多いほうが才能があり、大成する可能性は高いが、勿論それだけでは上位になることは出来ない。魔力の才能と言っても幾つかあり、特に重要な三つの要素は三大資質と呼ばれ、それぞれ魔力量、魔力操作、魔力出力となる。これら全ての平均が高い者が好まれるが、宮廷魔術師試験では魔力量が特に重視されたり、魔技師を志す者は魔力操作、魔導師を目指すものは魔力出力、と言った具合に目指す先によって重視されるポイントが違うので注意する様に」
相変わらずの洪水のような量の知識を流し込むような授業を僕は受けていた。
が、今回はちゃんとメモを取っている。ドレディアさんと別れた後、ちゃっかりと購入していたのだ。
てっきり中世自体に近いと思っていたので、羊皮紙かパピルスの様なものかと思っていたがちゃんと普通の紙がおいてあったのだ。
図書館でみたとおり製本技術もあるので活版技術は現代と似ているのかもしれない。
なのにシャープペンやボールペンはなく、何故書くものは羽ペンなのか、こういった微妙な差異が気になる所ではある。
が、残念な事に今は授業を聞いてメモを取って調べるだけで精一杯であり、それ以外には中々手が回っていないのだ。
ええと、三大資質と、魔力量、魔力操作、魔力出力……魔力ってそもそもなんなのか、というところなのだが、現状はとりあえず不思議パワーという事で解釈している。
後は、そうそう魔術師と宮廷魔術師と魔技師、ソーサラー……専門用語ばかりである。
今度図書館行った時は辞書を借りることにしよう。
しかし前回といい、知らないことが少し多すぎる。
やっぱり一度、まとめて確認しよう。
その時はドレディアさんにもお願いすれば教えてもらえるだろうか……?
……ドレディアさんか。
今日この授業が終わった後、図書館で待ち合わせして、魔術修練場に向かう事になる。
そこで気になるのは昨日の男である。
この事をドレディアさんに話すかどうかは正直迷う所だ。
「おい、てめえ」
と、そこで声を掛けてきたのは隣の女の子だ。
「よく分かってねえような顔しやがって。その顔が凄えムカつくんだよ。来月試験があるんだ、てめえが落ちようがどうでもいいが人の邪魔だけはすんなよ、このへんの資質は試験にも出てくる重要な所なんだ。試験に落ちでもしたら劣等生扱いされちまう、いいか、絶対アタシの邪魔すんじゃねえぞ」
ぎろりと強い視線と口調でそんな言葉を放つ彼女はそれだけ言うと正面を向いてしまう。
……これは、口調は荒いけど教えてくれたのかな。
「はぁん? ツンデレ?」
その彼女の奥からそう声を掛けてきたのは一人の青年。
年は彼女と同年代ぐらいだろうか。
薄緑色の髪をした、眼鏡を掛けた青年が愉快そうに笑っていた。
「は? ぶっ殺すぞ」
「冷たい言葉の中にさり気なくテストの時期と内容を教えてあげるエルちゃんマジツンデレ」
「全然違うし。こじ付けすんなクソメガネ」
「眼鏡キャラ全員を敵にするスタイル嫌いじゃない」
「アタシは顔面ごと眼鏡を叩き割ってやりたいぐらい嫌いだ」
恐ろしいほどに苦々しい顔でそう答える彼女はエル、というのだろうか。
「おっと、自己紹介してなかったね。前回オレは出席して無くてさ。オレの名前はハイテルテルネス。長いからハイトで良いよ」
そう言って手を出してくる。
僕は迷わずその手を取って握手しながら自己紹介をする。
「ありがとうございます。ハイトさんですね、私はヒストリカ・ローリエと申します。ヒストリカで構いません。今後共宜しくお願いします」
この世界に名字、いわゆる家名やミドルネームが無い人も大勢いる。
だがそれ以外でも家名を無闇に名乗らないようにしていたり、何らかの事情で隠していたり言う人も居るため、大概は名前だけ名乗るのが礼儀なのだ。
……それを知ったのは昨日だけどね!
今更ということと、特に隠す必要はないので僕はフルネームで名乗ることにしよう。
そもそも名前を売ることが目的のところもあるし、むしろ良かったんだよ。うん。
「へぇ……いいね。うん、君良いよ。今までにない清楚なお嬢様タイ」
「アタシを挟んで握手してんじゃねえロリコン眼鏡!!」
「ちょ、やめ、脳が飛びでちゃあああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
エルさんがハイトさんの頭を鷲掴みするとみるみる大きな悲鳴を上げ始める。
「エ、エルさん? そのあたりで……」
「名前で読んでんじゃねえ!!」
手が離れた僕はエルさんこっそりと耳打ちしたが、時は遅かった。
「随分と楽しそうだな」
「あぁ? 誰だアタシに生意気な口をきいて……」
そこエルさんは動作を止める。
「魔術学及び魔力学の講師でありこのクラスの受け持ちであるオルド・ゴーストウォーカーだが生意気な口を聞いて良いか?」
授業中、大声で話せばそうなるよね……。
彼らの前に現れたのは僕を案内してくれた人であり、今回と前々回の授業で教鞭をとっていた、30台前半程の若草色の髪を後ろにまとめ上げた先生だった。
「皆の邪魔になる。外に出ていなさい」
有無を言わさぬ口調でそう告げる。
エルさんは恨めしい目を僕とハイトさんに向け、ハイトさんは……やっちゃったぜと言う感じの軽さで立ち上がった。
このまま、二人は黙って外に出るのだろう。エルさんも立ち上がっていた。
「オルド先生」
「……? どうかしたかねローリエ君」
「お二人は授業の内容が分からない私に内容を教えてくれていたのです。そのせいで言争いになってしまい、うるさくしてしまったのであれば、私が罰を受けるべきだと思います」
この授業はテストに出ると言っていた。
なら、分からない自分よりもこの二人が聞いているべきだろうと思う。
実際、本当のことだし。
「ふむ……どうなんだね?」
と、エルさんとハイトさん二人に顔を向けて質問する。
「ふん……そんな事知らねえよ」
と、ぶっきらぼうに答えるエルさん。
「知らないでやんす」
奇妙な言葉で返すハイトさん。
「……まあいい、次騒いだら問答無用で追い出す。では授業を続けよう」
そんな二人に対応に慣れたように、あるいは呆れたようにそう言うと見逃してくれた。
硬そうな先生だったが、意外と、と言ったら失礼だろうが優しい人のようだ。
「怒られちった」
「テメエらのせいだろうが」
流石に二度目は起こさないように小声で話す二人。
ぴくりと先生の眉が動いたので、二人の声は聞こえているみたいだけど小声なら見逃してくれるのか、そのまま授業を続けているので特に言及されることはなさそうだ。
その後、何やら二人は小声で話していたが暫くすると二人共授業を真面目に受け始めた。
合わせて、僕もメモを走らせるのだった。
明日また2話投稿します。
感想等あればどうか宜しくお願いします!