別視点:???
ヒストリカが爆風の反作用で空を駆けるその姿を見て、観客達は大いに盛り上がっていた。
口々に思い思いの感想を言い合うほどに、ソレは衝撃的だった。
何故なら、実は彼女が行った事は非常に高度な魔術行使であったからだ。
勿論彼女、ヒストリカはそんな事は知らない。
だからこそ、ドレディアも想像の埒外であったのは確かだ。
「驚いたな、まさか魔術の反作用を起こさせるなんて……」
喧騒の中、呟いた声はただの独り言だ。
その声は中性的で、男性なのか女性なのかもはっきりしなかった。
この騒がしい中ではそんな独り言、それも小さく呟いた言の葉は直ぐに舞い散ってしまうだろうが、それを掬い上げた人物が直ぐ横に居た。
「それは反作用を起こした、と言う事の驚きではないのじゃろ? 通常、魔術を行使する際の反作用に目をつける者は居ない、故にその事に目をつけた、と言う事自体が驚くべき事。そうじゃな?」
偉そうな口調でそう答えた。
こちらは女性、いや少女のような声をしている。
だが、不思議とその二人の姿は全く見当たらない。
「ええ、まあ貴方には言うまでもありませんが、現象には必ず反作用が存在しますが魔術はそれがない、それが常識でしたからね」
「そうじゃな。強力な魔術なんてぶっ放せば普通に考えれば反動で吹き飛ぶはずが、そうならないのは反作用を抑えているからじゃが、それに手を加える、なんぞ普通は考えれんなあ」
この二人が手放しで褒めるのは非常に珍しい。
つまりはそれほどに重要な、いや革新的なことであった。
「常識に疑問を抱いたのか、いやはや、どうやって思いつくんですかね」
「ただの無知ゆえか、それとも異なる常識でもあったか」
「異なる常識、ですか。面白いですね、例えば未踏破区域の常識ですかね?」
そんな冗談に対してもう一つの声は少し考えた後、見えぬ口元を歪めて言った。
「そうじゃなあ、例えば異世界の常識じゃったりな」
そんな声に対してあっけにとられたような雰囲気を出してから、やれやれと言った具合に言葉を返す。
「異世界ですか、随分とメルヘンチックな事を仰るのですね。歳の割に」
「歳なんぞ関係なく、そのほうが夢があるじゃろ?」
「夢見る歳は随分昔に終わっているでしょうに。数百年生きている婆さんが何を今更」
辛辣な言葉を返す人物だったが、そんな暴言に対して怒りもせずに同意する。
「歳を取りすぎたババアではあるがの、ええじゃないか。異世界と言う別世界がある、と言う夢物語を見ババアが見てはいけないという事はあるまい?」
「やれやれ、そこで婆さん扱いされることに怒るぐらいが愛嬌ありますよ?」
「事実を言われて怒る程子供ではないのでなあ。大体ワシから見れば皆子供で、子供からババア扱いされるのは歳を取れば皆同じじゃろうに」
達観した言い方でそう告げるその影。
「しかし、冗談はさておき実際どうですか? 彼女は」
「彼女、それはどっちのことかの?」
「決まっているじゃないですか。当然、ヒストリカの方ですよ」
「ふふふ、わかっておるだろうに」
ぞわりと、背筋が寒くなる。
お互い認識できない魔術が掛けられており、声だけは届く状況。
それでも、その恐怖心を呼び起こす程の、ナニカ。
「欲しいのお。ああ、欲しい。あの娘を育てたらどうなるか……」
「で、では、どうしますか?」
「決まっておるじゃろう」
もしも、その表情が見えていたら誰もが恐れおののいただろう。
牙を剥き、爛々と光る紅の瞳。
「欲しい物は奪い、攫うのがオニよ」
鬼人種の天武はそう告げた。