スカイハイ
限界強化で身体全体が張っているようなそんな感覚を受ける。
この感覚は強化のしすぎによる異常感覚。その前兆という事は予め師匠ちゃんから聞いているため、これ自体はどうでもいい、とまでは言わないにしろ分かっているだけまだ良い方だろう。
しかし、眼の前の巨大な土のゴーレム。
そびえるその巨兵が10人分並んでいる姿を見れば思わず冷や汗と脂汗も滝のように流れ落ちてしまうのもやむを得ないと言い訳したくなる。
一人分でも辛い相手で、当然のことだけれど黒触を使っても一人倒せるぐらいで、それだけでは10分の1である。焼け石に水だろう。
なにより、一番怖いのは。
「……もう一度、使われるという事もありますよね」
一度きり、と言うわけではないと言う所だ。
「ふぅ……行きます」
それでも、今ここに立っているだけでは何も出来ない。
足に力を入れ、飛び込むように走り出す。
剣を抜き、地を駆ける僕と鈍重ながら僕に向かってくるゴーレム。
その二つが、闘技場で交錯する。
まず、先手を取ったのはゴーレム側だった。
剣も届かないギリギリの間合いで振るわれる巨腕は地面に水平に、滑るように飛んでくる。
勿論、周りのゴーレムにも当たらない絶好の位置だ。
この距離感を遠隔で完璧に把握する相手、アクターさんに対して改めて脅威を感じながらトンっと軽く跳ねる。
大きくではなく、僅かに腕を避けれる程度に。
何故なら、跳ぶことを先読みした土の腕がもう一つ、別方向から襲ってきたからだ。
振るわれた最初の土腕をタイミングよく、踏みつけ再度ジャンプをする。
空中での、二段ジャンプ。正確には空中で振るわれた土を足場にして、だが。
決して遅いとは言えない腕をリズム良く踏むのは非情に難しい所ではあったが、リスクを犯さないとどうにも現状は打破できない。
おかげで、その巨大さがじゃまになっているのか一斉に攻撃できるのは二体だけだ。
だけれど、それはまだ今の段階ではだ。
他のゴーレム達は回り込むように動いており、あと少しすれば周りを完全に取り囲まれてしまう。
浮遊感を感じつつも二つ目の腕が足元を通過すると更に、その腕を足場にして跳躍。
今度は、全力で。
そして僕は数十メートルの大跳躍を決めた。
流石のゴーレムも手が届かない位置だ。
上から見渡せば、なるほど。
既にもう後ろにゴーレムが近寄っていた。
意外と、と言うと失礼かもしれないが、見た目的にはもっと遅いと思っていたが予想よりは動きは機敏だった。
さて、僕は上に高く飛んだだけ。
このまま降りれば待ってました、と言わんばかりに。
あるいは餌に群がる鯉の様に、僕をぼっこぼこにするだろう。
「御身に願い奉る。風霊よ、今ここに精霊の風にて厄災を祓い給え」
うん。だからこそ、良かった。
詠唱時間も含めて、皆僕の所に集まっていたから。
後述詠唱も出来ると言うだけであって、しなくても大丈夫な所。
そして、魔力の調整によっては自分自身にも影響を与える事が出来る事。
そう言った絶妙に便利な所をちゃんと選んでおいてよかった!
『風式:翠華』
そうして僕は爆風を受け、空を飛んだ。