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互い

 以前もおんなじ事を思ったが、幻境結界内では痛みも抑えられるし、切れた断面もある程度ぼやかすという色々不思議な状態にしてくれるのだ。

 ……いや本当不思議すぎるんだけどね。

 調べてみても誰がどう作ったかわかっていないのにも関わらず活用法だけは受け継がれている。

 中には短時間ながらも個人で発動できるらしいから魔術としても発動できるらしい。

 

 つまりは、見た目は凄く派手に見えるが僕にとっては凄く痛いレベルで収まっている。

 多分ドレディアさんも同じぐらいだろう。

 だけど

 

「金色を示す針の鐘は曇天に笑う」

 

 一つだけ、僕がドレディアさんに勝っている、かもしれないところがある。

 

「!? この状態で詠唱を!? っく、負けていられませんわ。炎よ! 噴き上がれ炎! 風を雲を空を……がふっ!」

 

 ドレディアさんの声は自身の声で途切れる。

 意図的ではない中断、それは僕が行った行為によるものだ。

 

「ふ、ふふふ……まさか、とは思っていましたが」

 

 口角を上げて、笑いながら彼女は言った。

 

「自分も刺さっている状態で、剣をねじるなんて、驚きしかありませんわねっ!!」

 

 剣を回す。

 わかりやすく言えば、傷口をえぐる、広げる、そういった行為だ。

 

 勿論、痛みは激しくなるし、地面に流れる血はどんどんと広がっていく。

 だけど、止めない。

 

 僕は痛みを押し込めるのだ。

 出来るんだ。僕は。

 やるんだ。僕は。

 

 かつて、毒薬を飲んだ時よりも痛くない。

 かつて、テルミドールさんをかばったときより痛くない。

 

 ならば、相手の詠唱に合わせて捻って痛みを加速させるぐらい簡単だろうと

 自分でやるのだから、タイミングもつかめるだろうと。

 

「そこまでの、覚悟があるんですわね。一応、言っておきますわ。結界内でも、痛みで死ぬことは有るんですのよ?」

 

 その声は続きをそのまま口にする、

 

「勿論、わたくしはありえないことですが、ね?」

 

 彼女は詠唱をしなかった。

 無駄だと、思ったのか。

 それとも痛みを避けたのか。

 

 それはわからないけれど

 

「わたくしが後、何をしようとヒストリカ。貴方は剣を離しませんし、痛みを堪えるでしょう。だからわたくしは何もしない。だから、降参もしませんわ」

 

 そう言って僕の眼に緋色が映り込む。

 強い、ルビーの様な宝石を思わせる瞳が僕の視界を照らす。

 

 ああ、そういえば

 

「刻の戒めは全てに平等を告げる。其れは誰が告げる評決か」

 

 つい、カッとなって、ドレディアさんの事を名前で呼ばなくなった時もあったけど

 

「でも一つだけ言わせて頂きますわ」

 

 今は互いに血を流し、口からも雫が溢れる状態で、抱き合うような奇妙な状況でありながら、笑みを絶やさないドレディアさんは、剣に貫かれたポーズでも堂々と言い放った。

 

「負けたらぶっ飛ばしますわ!」

 

 そんな激励と脅しを。

 それを聞いた僕は思わず

 

「っぷ、ふ、ふふふ」

 

 笑ってしまう。

 口から同じ様に雫をたらし、眼からも雫が溢れる。

 

「ええ、負けません。もう、二度と」

 

 そう告げると、彼女はあらく鼻息を吐き出して満足そうに頷く。

 

 そこで、ようやく僕の魔術が完成する。

 そうして、僕は気づいたことを告げるのだった。

 

「ドレディアさんは、私を呼び捨てにしてくれるんですね」

 

 手を上げて、その名を唱える。

 

「『その名は世界である(ステイシス)』!」

最近ペースが遅くてすみません……

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