痛みはなれるもの
正直な話をすれば現状で僕が打てる手というものは殆ど無い。
僕が使う魔術は基本的に近距離で使うものばかりであり、遠距離で活躍できそうな魔術は一切習得していないからだ。
火球? 流石に力不足だし、使うだけ魔力を消費するだけだ。
ステイシス? いや、流石に詠唱を始めた段階で警戒されて、攻撃されるか中断されるのがオチになるだろう。決まれば勝てるかもしれないけどリスクが大きい。
結局は、方法は一つしか無い。
まずは何とかして、魔力強化だけでドレディアさんに勝つ事だ。
……凄く無茶な事を言ってるのは分かっている。
なにせわざわざ相手の得意分野に飛び込もうとしているのだ。
が、現状では全くもって完全にどうしようもない。
負け確定が決まっているのであれば、勝率が低かろうと有る方向に進むしかないだろう。
「限界……いえ、魔力強化!」
頼りっきりになっている限界強化だが、無敵ではない。
魔力強化よりも消費は大きいし体の負担も有るため、魔力強化を使って再度前へと足をすすめる。
「強化して地面に足を踏み込ませましたわね。それでいて向かって来る、楽しいですわね! 大概の相手は、接近戦を嫌がるんですの」
風が収まった凪の状態で話すドレディアさんはそれはもう嬉しそうにそう言っていたが当たり前である。
本当なら僕だって接近戦はしたくないのである。なにせ、体術を修めている相手に素人が勝てるわけがないのだから。
が、かと言って遠距離はどうしようもない。
今度は綴り法と一緒に遠距離での手段も獲得しようと決めながら、上に跳ねる。
「前と同じですわね。でも、前と同じ結果にはさせないことですのよ!」
そう言うとなんとドレディアさんも上に跳ねる。
お互いの眼が交差し、どんどんと近づいていき。
「っふ!」
「はぁ!」
呼気と共に剣と拳を交錯させる。
突いた剣は顔の横を通り、互いの剣圧で頬が僅かに切れる。
「そのまま、首を!」
手首をひねり、容赦なく首をはねようと剣を滑らせるが
「そうはさせませんわ!」
腕につけた手甲で防がれ、一瞬の拮抗の後
「やああああああああ!」
肘を曲げて剣を下へ弾きながら空中で身体を水平にするという曲芸じみた事を行い、下方面に弾かれた剣はドレディアさんの身体の下をくぐるというとんでもない状況になった。
「食らって下さいまし!」
「ひゃう!?」
水平になった身体を回して、回し蹴りの要領で頭を狙ってくる蹴りを的確にこめかみを狙ってきたこともあり頭を下げることでなんとか回避する。
というか、空中戦で格闘戦なんて聞いてない!?
「ほらほらほら! どんどん行きますわよ!!」
テンション高めで拳を振るうドレディアさん。
剣を戻して防ぐも、ギリギリである。
このまま続けば防ぎきれずに拳を食らう羽目になるのは目に見えている。
「そこですわ!」
それは直ぐに来た。
防御のスキを見つけたドレディアさんは真っ直ぐに拳を打ち出し、僕の腹へと拳を直撃させる。
強い痛みが腹から全身まで広がる。
「ぐ……でも、捕まえましたよ」
しかし、想定通りだった。
手を掴み、引き寄せる。
「なっ! し、絞め技ですの!?」
引き寄せたドレディアさんをそのまま正面から抱きしめる。
勿論絞め技なんて出来ない。
チョークスリーパーぐらいはりろんはしっている、ぐらいはわかるが実際ちゃんと出来るかどうかと言われれば首を傾げる。
「にしては、全然練度が足りていませんわよ!」
正面から抱きついただけの僕の背中に対し、拳を振るう。
力がうまくこめられていないものの、痛いものは痛いのである。
この状態で、僕は
「な!? がっ……しょ、正気ですの……?」
「正気、のはずですよ。覚悟していた分、私のほうが気持ちダメージは少ない気がしますが」
互いに口から血を滴らせる。
そう、僕は後ろから自分ごと剣で貫いたのだ。
串刺し、とも言う。
あるいは自殺だろうか……。