天才でも凡人でも成果はある
「……え?」
喉を裂いた後にも関わらず、エルさんのそんな言葉が漏れたような気がした。
正直言えば初見殺し過ぎて、頑張っていたエルさんが少し可哀想になるが負けれない僕としてはやむを得ない。
と、そこでバタリと身体を倒れたと同時にスピーカーらしき物が震えだした。
『決着ぅうぅぅぅうう! なんという電光石火! なんという速攻決着! 勝ったのはヒストリカ・ローリエだあああああ!!』
そう言われて、ようやく僕は一回戦を勝ち抜いたのだと実感できた。
なにせ、あっさり過ぎたのだ。
勿論苦戦せずに勝つのが一番だけれども! ただそれでも僕も一瞬で決まったためあんまり現実感がなかったりする。
と言うより、勝利感? うーん、なんといえばいいのか、肩透かし……って言い方はエルさんに失礼だよね。
『あーヒストリカ選手。元の場所にゲートが出来ているのでそこにむかうように』
「エルさんは、このままでいいんでしょうか?」
こっちの声が聞こえるか不安だったが、『コッチで回収します』と回答が帰ってきたためよろしくお願いしますと伝えて僕はゲートに戻る。
身体がなにか引きつけられるような感覚のあと、戻ってきたのは控室。
時間にして、おおよそ数分だろうか。
……短いな、色々と。
こんな一瞬で終わっちゃうんだと、不安になる。
逆に、自分が一瞬で倒されることもあるということなのだから。
油断は禁物だ。というか、先程の試合も余裕があるわけじゃなかったし。
「でもよかった。結界内だと、負傷具合も抑えられるんだな……おっと」
思わず口調が戻ってしまう。
危ない危ない。流石に気を抜きすぎだ。
先程の試合で、僕は喉を切り裂いた。
……ぐろいなって思わなくもないけど、首から血がぶっしゃー出てホラーも真っ青な状態にはならなかった。
いや、僕は知らなかったから一歩間違えばそうなっていても不思議じゃなかったんだけど!
と、ともあれそういったR18的な描写はなく、血は出たものの発禁にはなりそうにない絵に抑えられていた。
結界って凄いよね。
「身体は、大丈夫みたいですね」
右腕を動かして、首を動かして、色々身体を動かしているとラジオ体操になっていってしまった。
だけれど痛みも無いし、なんとか制御できたみたいだ。
「限界強化、師匠ちゃんも口が上手いんだからなあ」
悪魔だからなのだろうか、と言ったら種差別になるかな?
僕が師匠ちゃんに教えて貰った魔術は一つだけ。
それに間違いはないけど、魔力強化の上位版である限界強化も教えてもらっていたのだ。
効果は簡単、魔力強化の強化量を増やした。
文字通り身体が耐えうる限界までの強化。だから限界強化。
(これは魔術じゃないから。技術みたいなもんだから。嘘は言ってないわ)
とは僕が魔術は一つだけでは? と聞いた時の師匠ちゃんの答えだ。子供っぽいなあ。
「でも、それを差し引いても結構……余裕がありましたね」
もっと苦戦すると思っていたけれども、相性が良かったのもあるが簡単に避けれたし、使った魔術も限界強化ぐらいで魔力もかなり節約できた。
強く、なっているのだろうか?
「……いや、流石に失礼ですね」
もう一つ思い浮かんだ想像を打ち消す。
人を馬鹿にする言葉は思うことでも出来ればしたくない。
「はぁ、それに予想以上に口調が辛い時がありますね」
意図的に言葉を口に出して、その口調を女性らしく、というかヒストリカちゃんらしくしているのだが中々に辛い。
最初はともかく、続けているとだんだんと自分が男だよなあっと矛盾を感じ始めてしまう。
うーん、一度どっかで女装を止めて普通の姿で羽を伸ばそうかな。
ずっとずっとこの姿だし、気を張り詰めすぎてもあれかなあ。
「この戦いが終わったら……」
いや、悪ふざけでもやめておこう。
『ヒストリカ・ローリエ選手。聞こえますか?』
と、そこで先程試合上で聞こえたあの声が控室に響き渡る。
最初に声を出す時にハウリングの様な甲高い音がするが、そういうところはマイクとか現代的だなと思いつつ聞こえますと返事を返す。
『次の試合が始まりますので準備をお願いします』
「え? もうですか?」
『そうですよ。初戦は皆速攻で沈めたがりますからねぇ、試合展開が早いんですよ。あ、一応サービスで言うと一番早かったのはヒストリカ選手でしたよ。やったね』
やったね、じゃないんだけれどなあ。
「わかりました」
『それではゲートが出来たら中にお入り下さい。個人的にも応援してま 「馬鹿野郎!」 あ”あ”あ”あ”痛っ』
悲鳴らしき声が上がると同時にぷつりと声が途切れた。
マイクの電源を落とされたらしい。
「あはは。うれしいですけど、選手に肩入れはマズイですよね」
答えは返ってこない。
でも多分そういうことなんだろうなと笑いながらも、内心の緊張がほぐれる。
「行きましょう。二回戦」
果たして次の相手は誰になるのか。
このトーナメントは8人だから3回勝てば優勝だ。
つまり、次がもう準決勝であり、勝てば、決勝戦。
だから、そう、違うな。
「準決勝、勝ちます」
そう、こう言うべきだろう。
足を前に踏み出し僕はゲートを潜って、試合場に着く。
「必ず、勝ちます」
そう告げる。
強い意志を持って。
何故なら、そう教えてくれたのは。
「良い啖呵ですわ。ですが」
いつものポーズ。
両腕を組み、大地を強く踏みしめ、顔を上げて大声で。
「勝つのは、わたくしですわ!」
そう、ドレディアさんは試合場全体を震わせるほどの大声量で言い放つ。
『さあ! 第二回戦。いや、主席戦準決勝! 幼き幼女 ヒストリカ・ローリエ選手と』
「え、あの」
『燃える脳筋 ドレディア選手だ!』
「ちょっと!?」
お互いに顔を見合わせる。
ちょっと紹介に異議が……
『それでは試合初め!』
「「ああっ!」」
文句を言う前に試合が始まった。
ああもう! 折角ドレディアさんへのリベンジなのに! もっとちゃんとした人を司会にしてほしかったなあ!!