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先見

「は! 何気ぃ抜けたような声を出してやがる。何だ、もう勝てるって油断でもしてんのか?」

 

 馬鹿にしたような声を出すエルさんだったが、それが真意で無いことぐらいは僕でもわかる。

 本当は優しい彼女は、自分が手加減しないように憎まれ役を買って出てくれているのだと。

 

「……っち、妙な目でコッチを見るんじゃねえよ。全く」

 

 そう言いながら武器を構える。

 エルさんの武器は、斧だ。

 身の丈ほどの大きな斧は、彼女の体躯と比べると対比でより大きく見える。

 振り回したら逆に振り回されるのではないか、というぐらいだ。

 

 だけど、主席戦に出てくる人がそんなレベルのはずはない。

 実際、斧を担いたエルさんの姿は堂を行った物で、迂闊に攻め込めば脳天唐竹割りされてしまうだろう。

 ……いくら結界内だからってそれは嫌だなあ。

 

「まあ、なんだ」

 

 と、珍しく照れた様子でエルさんはなんどか逡巡した後。

 

「言葉を交すのは好きじゃねえ。だから、やろうぜ。んで、勝っても負けても恨みっこなしだ」

 

 ぷいっと横を向きながらそうぶっきらぼうに告げるエルさんに対して僕は当然の答えを返す。

 

「勿論です」

 

 そうして僕も剣を構える。

 

『準備は宜しいですね! それでは主席戦の第一回戦を開始します! ……初め!』

 

 その開始の合図と同時に駆け出したのはエルさんだった。

 重いはずの斧を担いだまま、即座に距離を詰めてくる姿は若干恐怖を覚えるが、恐怖心を押し殺して次の手を考える。

 迎え撃つのはリスクが高い、斧の一撃を剣で防御したら折れてしまう。

 後ろに逃げたら、追ってくるだろうなあ。となれば方法は一つ。

 避けるしか無い。つまりはカウンターだ。

 

 ……つい魔術を打ちたくなるけど、火球を撃っても絶対弾かれるだろうからなあ。

 それ以外は、うん。

 

「うらあああああああ! ブったおす!」

 

 そうして行ったのは振り下ろし。

 真っすぐ行って真っ直ぐ振り下ろすという非情に男らしい戦術だ。

 エルさん女性だけどね!

 

 それを僕は横に避ける。

 それも危険性を予期してかなり離れ気味にという女々しい戦術だ。

 僕は男性だけどねっ!

 

「でやああああ! おらああああ! ふんぬううううう!!」

 

 それから暴風雨のように暴れまわるエルさん。

 一撃一撃が全力で、一つでも直撃したら僕はあっさりと逝ってしまうだろう。

 

「エルさん! あの、もう少し女性らしい声を」

 

「おんどりゃあああああああああああ!」

 

「聞こえていませんねっ!」

 

 ひらりひらりとかわし続ける僕。

 

「はぁ、はぁ……くっそが! 当たらねえ!」

 

「エルさん言葉遣い!」

 

「今それ関係ねえだろうがクソ!」

 

 流石に疲れてきたのか、一度斧を背負い直す。

 地面に突き刺すわけでも、置くわけでもなく背に背負う。

 きっとそれが彼女、エルさんのスタイルなのだろう。

 

 多少の疲れはあるものの、疲労困憊というわけではない。

 スタミナなども含め、身体能力ではエルさんの方が上だろう。

 では何故僕は攻撃が当たらないのか。

 そして珍しく余裕があるのか。

 その理由は、エルさんがほぼ正解を付いていた。

 

「くそ、木の葉みたいにひらっひらしやがって、それになんか先を読んでる(・・・・・・)みてえに動くしよぉ!」

 

 当たりである。

 師匠ちゃんと戦っている中、ようやくわかった僕の一つの力。

 それは、先見だ。

 

 師匠ちゃん曰く、強い集中力が生み出す洞察力と観察力から導き出される無意識の計算がどうのこうのいっていたけどぶっちゃけよくわからなかった!

 

 そしたらつまり未来予知ができるかもしれないわね、と簡単にまとめてくれた。

 まあ実際未来がわかるわけではないけど、こう集中して相手を見ると、何となく次はこうするんだろうなってわかるようになった。

 

 勿論絶対にその通りになるわけじゃないから過信して安全地帯と思った所に行くとそれを読んだ全力の腹パンが待っているから気をつけないといけない。……気をつけないといけない!

 

 話がずれたが、こういうことを言うとエルさんに悪いんだけれど。

 

「うおおおおおお! あったれえええ!!!」

 

 多分、凄く僕と相性がいい。

 いや、エルさんによっては相性最悪なんだろうけれども。

 

 エルさんは近接戦でパワーとスタミナで押していくタイプだ。

 詠唱とかをさせないで一気に攻め込む、と思う。

 

 けど、一撃が重い代わりに僕にとっては避けやすいのだ。

 だからフェイントを仕掛けたりとか先見を読んで魔術撃ってくるような悪魔の様な人と比べればかなりやりやすい。

 

 とはいえ、僕の使う魔術に有効打は無い。

 どれもこれも消費が大きいからだ。

 

 なら、どう勝つかという事になるのだがそれについてはアドバイスが有る。

 悪魔的なアドバイスが。

 

 それを仕掛けるのは、そろそろだ。

 

「や、やるじゃねえか。なら、とっておき行くぜ!」

 

 斧を構えなおして、大きく上に掲げる。

 

「土よ! 太祖たる土よ! 我が一撃は」

 

「ごめんなさい」

 

 一言、告げて。

 

「限界強化」

 

 一言、放った。

 

 

「…………」

 

 そうして、決着が付く。

 僕は彼女の後ろに立っていた。

 






 

 彼女の喉を切り裂いた後で。

 

短くてすみません。

明日は夜更新の予定です。もう少し文量増やしたいですね……

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