人間定義
ベッドに寝転びながら僕は主席戦の事を思い浮かべる。
主席戦……勝てば、王様になれる可能性もあるなんて、全く思っても見なかった。
勿論、勝てるかどうかはわからない。
むしろ、勝てない可能性のほうが高いだろう。
今日だって、引き分けとなったけど実質的にも実力的にもドレディアさんに負けていた。
やっぱり、まだまだ弱いんだよねぇ……僕って。
「それをなんとかするために、師匠ちゃんに教えを受けているわけですけれども」
独り言兼練習でそんな言葉を口に出す。
でも最終的には僕の実力不足である事は間違いない。
漫画やゲームじゃないんだから、練習して直ぐ強くなってなんて言うのは甘い考えだって言うのもわかってはいるんだけどなあ。
「何か、無いものですかね……」
何にせよ、格上に通じるような武器が必要だとは思う。
一応、黒触やステイシスがそうなんだけど……そうじゃなくて。
「燃費が良くて格上に通じる、ですか」
思わず苦笑いをしてしまう。
それは理想論すぎるなと。
「何にせよ、残りの時間を修練に使うしかありませんね」
ドレディアさん。そしてアクターさん。
優勝にはおそらく最低でもこの二人を倒さないといけない。
それが一ヶ月もない期間で追いつけるかと言えば、正直自信はない。
「このお二人も、止まっているわけじゃありませんし……」
僕が修練している間、二人も成長している。
だから、その実力差は迫るどころか広がっているかもしれない。
……いや、弱気はやめよう。
今日も言われたじゃないか。
「魔力は、精神力」
強い思い。
それならある。
有名になる事。
そして、ヒストリカちゃんの死の真実を知ること。
それを、家族に教えること。
それは願いだ。
僕の一度決めたことは、貫き通すんだ!
……ん、でも何でそう思うようになったんだっ
───ザッ
脳に、ノイズが走る。
───どうして
男性が、見える。顔は見えない。誰。だ。ろう。
───どうして***しないんだ
「……っはぁ、はぁ。い、今のは、記憶? 僕の?」
わからない。
顔も見えなかったし、いつ、どこの、誰の、そういった情報は全く頭には浮かばない。
けれど、何となく、かつての、記憶のような、そんな気がしていた。
ああ、なんだか、眠い……このまま、寝ちゃおう。
「ああああ! 寝過ごしました!」
朝起きた時は既に太陽が高く登りつつあった時だった。
しまった、つい心地よくてそのまま二度寝してしまった。
うう……今からでは今日の師匠ちゃんの修練には到底間に合わない。
「か、髪と身だしなみだけは整えて……」
どこから男って事がバレるかわからないからね!
……そういえば髭とか声とか大丈夫なんだろうか?
今はまだ問題ないけど、この学園に何年居ることになるか次第では隠しきれないんじゃ……
い、いや、今は未来のことは置いておいて早く行かなきゃ!
いつもの剣(セール品)と学生服を着て……なんかスカートを履くのに違和感がなくなってきたのが逆に恐いなあ。
鏡の前で身だしなみチェック。
髪のハネはなし、寝癖も無し、よし、どこから見ても女性だ。
…………いこう。
自分で自分を傷つけつつ僕は部屋を出た。
「ん……天気が良いですね」
手で目に日陰を作りながら空を見上げる。
異世界でも変わらない真っ赤な太陽と青い空、白い雲。
……現実逃避は止めて走ろう。
そうして魔力強化を使ってまで走ろうとしたその時だった。
「っ! ………なんでしょう」
足を止めたのは、自分でもわからない。
ただ、なんとなく。
いや本当に根拠のない勘なんだけれども。
「南、そう、南方の学園に行かないといけないような」
凄く不思議だ。
全くもって、非科学的な勘なんだけど確信がある。
今僕は、前に行った、そうあのアクターさんと会った、あの南方学園に行かないと行けない。
「~~~! ごめんなさい、師匠ちゃん。後で謝りますから!」
普段の僕では、決して取らない行動だったと思う。
なんとなくで、人の約束を破るような真似は。
そして僕は反対を向き、魔力強化を全開で走り抜けた。
道を、人を抜け、せかされるように早く。
何かに背を押されるように速く。
ただひたすらに、あの学園の裏。
かつて、あの人。テルミドールさんに出会った場所へと向かっていた。
そして、その勘は見事に的中する事となる。
どれだけ走ったか、息を切らしながらようやく着いた、学園裏。
周りを見回すが、誰もいない。
「やはり、ただの勘違いだったのでしょうか」
そう口では言いながらも視線をせわしなく動かす。
何か、何かないのかと。
本当に何もなければ、それでいい。
僕が師匠ちゃんに怒られるだけで、それでいい。
だから、お願いだから。
何も、起きてないでくれ。
「いいか? 頭に当てれば10点。胴体なら5点。手足なら1点だ」
期待を裏切るように。
そんな愉快そうな男の声が小さく風に運ばれてきた。
内容からして、決して楽しい話ではないのは確かだった。
「っ! 一体、どこから」
そうだ、耳を澄ませて、場所の特定ができないだろうか。
そうして、耳を済ませて、集中する。
声が聞こえて欲しい気持ちと、聞こえてほしくない気持ちを抱えながら、僕は待った。
「お! これで25点だ!」
「やるなあ! って結構離されちまったなぁ、こうなったら連打戦法しか無いぜ!」
「あ、卑怯だぞてめえ! なら俺も!」
「おいおいお前らなあ……ルールも守れんのかよ~」
複数人の声。
そのうち一人は聞き覚えがある。
けど今は、何よりも!
「あちらですか!」
聞きたくもない内容だったが、複数人の声がしたおかげで場所がはっきりわかった。
ここから少し離れているぐらいだ、急ごう!
「魔力強化!!」
強く大地を踏みしめて、更に駆ける。
頼む、できれば、言葉の内容が聞き間違いか、僕の勘違いか、あるいは思い違いでもなんでもいい。
嫌な想像を振り払うようにして走り抜けた先、それは森の中にある小さな切り開かれた様な広場。
本来は、憩いの場としても使えるような、昼寝には適しただろう、森の休憩所の様な場所。
そこに、彼女は居た。
僕と同じ銀の髪は一部焼け、煙が立ち上り
地面には、銀色の髪が落ち
身体にはいくつかの火傷と凍傷と裂傷
手足には、ヒビのようなものがはいっていて
右足には光った輪の様なものがついており
伏せた表情は、見えない
けれど、その痛ましい姿を
その、声一つ上げない姿を見て
「頭に当たれ! 『炎弾』!」
「確実に胴を狙うぜ! 『氷矢』!」
「とりあえず 『風刃』!」
「状態異常は加点ねえ? 『雷牙』!」
「おいおい、お前ら一斉に打たれると点数付けるのがむずいだろうが……あん?」
「……えっ」
「へへ、おい。こいつはとんだ客だ。なあ……」
何が来ようとも、彼女を庇う事を迷うことはない!
「また会ったな、ガキ」