決着。そして主席の意味
賭けは、勝った。
剣を引き抜き、唱える。
「我が剣に宿れ、魔を喰らい、力奪う虚脱の虚刃。それは幽麗たる刃!」
黒触の詠唱をほぼ彼女と同時に始めていた僕。
魔力切れ? 次で負ける?
いや、違う。
次じゃない、今、温存して負けるなら結局は同じことだ。
しかし危なかった。
もし魔術じゃなくて、普通に拳とかで迎撃されていたら完全にアウトだった。
でもなんでだろうか、なんとなく魔術を使うんじゃないかなって思ったんだよねえ。
「面白いですわ! 真っ向勝負と、行きましょうか! 『煌炎の真紅槍!』 」
「『奪い尽くす黒触の大太刀』!」
紅に輝く炎の槍が真っ直ぐに僕に向かって大気を灼きながら飛来する。
それに対して僕は黒色の大刀を形成して、槍ごと叩き切るように大きく振りかぶり、振り下ろす。
黒と紅が衝突する。
魔力の衝突現象で周囲に僅かな電撃が走った。
賭けには勝った、でも勝負に勝つのはまた別の話だ。
「はぁああああああ!!」
刀で押し込むように、負けぬように、ただ力を込めて炎の槍を押し返す。
がりがりと音がしているのは魔力を喰らう黒触の特性だけれど、それでも炎の槍は簡単に消えないっ!
「魔力の放出、そして操作を、確実に、しっかり行えば簡単には負けませんわ!」
「流石、ドレディアさんですね……正直、貰ったと思いましたけれど!」
「簡単に負けるなど、仮でも教えていた身として負けられませんわ!」
魔力を奪うというこの黒触は特性上魔術に強い。
それでも、気を抜けば押し負けそうなこの圧力は、正直才能……いや、努力の差を感じる。
ちょっと死にかけただけで、ちょっと努力したぐらいでは。
今まで努力をしてきた人に簡単に勝つなんて出来ない。
それは、その人の努力の否定だからと、僕は思う。
でも
それでもと
「勝ちたい……っ!」
そう、思ってしまうのは。
僕も、男の子だからだろうか。
「勝ちたい!」
「駄目ですわ!」
そこで叱咤する声を出したのは、ドレディアさんだ。
視界は黒と赤と電撃でもはや何も見えない。
「勝ちたいではなく、勝つと言い切るのですわ!」
だけど、きっとドレディアさんはいつものポーズで、その言葉を力強く言い放ったのだろう。
……全く、僕にはもったいない程の、友人だと思うよ。
「ええ、そうですね。 ……勝ちます!!!」
そう言い切る。
すると、少し黒刀が奥へと押し込まれる。
「魔力は!」
ああ、そうか。
僕は当たり前の事をわかってなかったんだ。
知らずに笑みを浮かべていた。
だから、そのドレディアさんの声に対して大きな声で返事を返す。
「精神力! 行っけええええええええええ!」
より激しく視界が明滅する。
暴れまわるように電撃と光が辺りに舞い散る。
電撃音も激しくなってきているが、黒触の時間も残り短い、押し、切れ!
いや
押し、切る!!
「はあああああああああっ!」
斬っ! と、音が聞こえる様に黒い刀は赤い、炎の槍を真っ二つに断ち切る。
「見事ですわ」
そう声が聞こえた気がした。
でももう視界は光にやられて今はすぐには見えない。
僕は半分以上勘で、落下しながら剣を振るった。
「どう、なりましたか?」
地面に降りた感触はあった。
黒触は既に消えており、ただ形がない剣の所為か切った感触もなかった。
「ヒストリカさん。戦闘になると凛々しくなりますわね」
その言葉が聞こえた、背後の方向を振り向く。
ようやく眼が慣れてきて、視界が戻ったその先には、いつもの腕組みの王者ポーズを取ったドレディアさんの姿。
「え、あ……」
そういえば、戦闘時には何となく考えも硬いというか、そんな気はしてたけど、口でもそんな感じだったのだろうか。
って、それってもしかしたら男と思われ……いや、そうじゃなくて、ドレディアさんが普通に立っていると言う事は。
「負け、ましたか……」
肩を落とす。
自信があった、といえばむしろ自信過剰ではあるだろうけど。
最近負けっぱなしな気がする……勝ったのって一人だけだよね? あ、あの二人にも勝ったかな?
「惜しかったですわ。いえ、お世辞や同情ではありませんわ、もしあの黒い刀が直撃していたら」
「いえ、当たらなかった。それだけです。たらればは、言っても仕方ありません」
「ふふ、そうですわね。ああ、ヒストリカさん、負けたというのは違いますわ。貴方は負けてませんわ」
「え? それはどういうことでしょうか? 私の黒触は当たらなかったのですよね? それなら」
「まぁまぁ、そう結論を急がないで、ヒストリカちゃん」
言葉を遮ったのは師匠ちゃんだった。
あれ、いつの間に真横に?
「中々いい勝負だったわ。確かにヒストリカちゃんのあの黒刀は当たらなかった」
青髪をかきあげる動作をしてから、師匠ちゃんは言った。
「でもね、ちょっと師匠ちゃんズルしちゃったの。だから勝負は引き分け」
「引き分けですか? ズルと言うのは一体」
「ま、それは内緒。 ……不完全燃焼って感じなのはわかるけど、白黒付けるにはふさわしい舞台があるでしょ」
「相応しい舞台ですか? ……も、もしかして」
「わたくしも主席戦。トーナメントに出るからですわ!」
その言葉を待っていたように堂々と言い放ちながら、金髪をかきあげるドレディアさん。
……この二人どこか似てるなあ。
「やっぱり、ドレディアさんも参加されるんですね」
ドレディアさんの実力なら入っているんじゃないか、と思ってはいたけれど。
「ちなみに、失礼かもしれませんが総合何位だったんでしょう?」
「二位ですわ」
さ、流石に強い。
しかし、これで一位のアクターさん、二位のドレディアさんとワンツーフィニッシュはわかった。
「でも総合順位が強さの指針じゃないのよ?」
と、本当に心を見透かした様に言葉を投げたのは師匠ちゃんだ。
「え? でも順位が高いと言う事は、それだけ実技で結果を出したということではないんでしょうか?」
……何故苦笑いをするんだろう。ドレディアさんも。
「ええと、ヒストリカさん。えっと、その、ですね」
「筆記試験が全然出来てないけど実技が高いバカも居るのよ」
言葉を濁しただろうドレディアさんの言葉を一刀両断する厳しい言葉を放つ。
よ、容赦ないね。
でも、言いたいことはわかりやすかった。
筆記で点が取れなかったのに、総合が高い、つまり実力が高い人物も居るってことなんだね。
「そうそう、悪い話の代わりってわけじゃないけれど、良い話をしてあげましょうか。主席戦は何で主席戦って言うと思う? はい、ヒストリカさん」
びしっと指を突きつける師匠ちゃん。
先生、のつもりなんだろうなあ。
「えっと、それは主席を決める勝負だからではないでしょうか?」
「間違ってはないわ。でもね、それって首席って言わない?」
そう言って指先で文字を書く。おお、凄い。紫色の文字が空中に描かれて、なにこれかっこいい。
言葉じゃわからなかったけど、首席と主席。並べられるとわかりやすい。
ああ! そう言えば最初の方に主席筆頭候補って聞いた時違和感を感じたんだ!
そっか、そういうことかあ。
「首席と言うのは成績トップの人を差す言葉ね。だから普通に考えればこっちよね?」
「そうですね。そうなると、主席と言うのは……えっと、どういう意味になるんでしょうか?」
「主席って言うのは会議とかの議長やあるいは会長と言う意味もあるけど……ここでいう主席っていうのは別の意味よ」
少しだけ、声のトーンが下がる。
「国家元首。つまりは、この五大国の一つ、魔法学院『リズベルド』の王様になれる可能性がある、そう言う意味よ」
明日夜7~8時頃に投稿します。