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世界が違う故に

 本来は、僕には到底発動すら出来ない程の魔術。

 大体中位クラスすら発動できるか怪しいぐらいなのだけれど、この魔術だけは特別だ。

 

 手を大きく上に持ち上げ、発動。

 

「『その名は世界である(ステイシス)』」

 

 僕の全身を覆うようにして幾何学的な模様の球体が構成される。

 そして、その球体は一気に広がって周囲を飲み込む。

 すると、ドームのように外には模様の膜が出来た。

 

 そして、男二人はあちこちに同じような幾何学模様の帯の輪が複数、身体に巻き付いていた。

 

「終わりです」

 

 普通と比べると範囲も落ちているし、発動までが長い。

 ただ、効果は絶大だと僕は思う。

 

「何が……起こってやがる!」

 

「う、動けねえ」

 

「もう貴方方は動けませんよ。だから……」

 

 そう言って手持ちの剣を抜く。

 深呼吸して、更に深呼吸をして。

 意識を高めて、言った。

 

「このまま、首をはねることも出来るんですよ」

 

 僕は彼らに剣を抜きながら歩いて近づく。

 途端に、彼らに怯えが走った。

 

「な、う、嘘だろ……こ、ここは結界内じゃないんだぞ!」

 

「そ、そんな事、出来るわけが……」

 

「そうでなくても、痛めつける事は出来ますよ。この魔術、解くまでは動くことは出来ませんから」

 

「ぐ……でも口が動くなら、風よ! 荒れ狂う風よ! 嵐のごとく薙ぎ払え 『風見の嵐』!」

 

 同じ魔術を放とうとするが、口に出しただけで、何も起きない。

 

「ま、魔術が、出ねえ……」

 

「この魔術はただ動きを止めるだけではありません。魔力が固定されてますから、魔術は使えませんよ」

 

 魔術に発動する魔力を固定化することで、一切魔術の発動をさせない封印術、それがこの魔術だ。

 身体が動かないのは付加効果だ。

 もっとも、本当の力を発揮させれば、心臓も何もかも動かない用にすることも出来るみたいだけど……。

 

「私が求める条件ただ一つ。二度と彼女に、テルミドールさんに手を出さない事。でなければ」

 

 剣を首に当てる。

 

「ひぃ! わ、わかった! わかった!」

 

「貴方もですよ」

 

「ああ! 手を出さない! だから命だけは!」

 

 この世界では、命は軽い。

 勿論、人を殺せば罰せられるし、投獄もありうる。

 でも、元の日本よりも罪は軽い。だからこそ、命までは取らない、と言う様な考えをするのはこの世界では甘え、らしい。

 

「……約束ですよ。『星は正しき位置へ(リワールド)』」

 

 その言葉と共に辺りを覆っていた膜は消え、同時に彼らについていた帯の輪も消える。

 

「はぁはぁ……い、行くぞラット!」

 

「くそ! 覚えてろ!」

 

 そう言い放つと慌てて逃げていく二人。

 ……良かった。正直色々と辛かったから。

 

 脅迫なんて柄じゃないし、何よりあの魔術、発動中も魔力を使うから凄いきっついんだよね。

 決まれば勝ち、ってぐらいは強いんだけど……正直トーナメントとかで使う暇があるかと言われると……。

 かと言って、ため無しで直ぐ使ったら身体ぱーんだよ。ぱーん。

 

「っと、テルミドールさん、怪我は無いですか?」

 

 と、そこで今まで黙ったままのテルミドールさんに声をかける。

 だが、神妙な顔をして、彼女は言った。

 

「その、ヒストリカ様。何故私の為に、助けてくれるのですか?」

 

「え? 何故って……困りましたね」

 

 特に無い、としか言いようがない。

 目の前で人が襲われていたら助ける、ただ、そんな普通の事を普通にしただけだ。

 

「人形種である私を、何故……」

 

「人形種じゃないよ」

 

 その言葉に、目をパチクリさせる。

 表情は全く変わらないけど。

 

「テルミドールさんって言う、一人の女性だよ。人形種であるテルミドールさんじゃなくて、テルミドールさんが、人形種なんですよ。……ごめんなさい、うまく伝えられないですね」

 

 こう、あんまり口はうまくないのよね!

 国語も成績で言うと2だったし!

 作者の気持ちなんてよくわからないし!

 

「……やはり、不思議で、珍しい方だと思います」

 

「そうでしょうか? ……あ!」

 

「どうなさいましたか?」

 

「あ、いえ。ちょっと約束を思い出して、ええと、テルミドールさん。後は一人で大丈夫ですか? どこか行くならお送りしますが」

 

「いえ、目的はこの図書館でしたので」

 

 ああ、そう言えばここは図書館の前だったか。

 懐かしい、ここでドレディアさんと待ち合わせしてたんだよね。

 

「お待ちしておりましたわ!」

 

 そうそう、こんな感じで赤髪をたなびかせて腕組みをしたドレディアさんが……。

 

「え?」

 

「お待ち、しておりましたわ!!」

 

 より声量を大きくしてそう叫ぶ女性は。

 

「ド、ドレディアさん?」

 

「ええ! ドレディア・フェルリッヒ・フォン・ロシェットですわ。……ヒストリカさんっ!」

 

 な、何やらご立腹の様子。

 

「寂しいじゃありませんの! あれから一度も会いに来てくれないなんて!」

 

「え、えっとごめんなさい。色々と合って……その、中々」

 

「それに、聞きましたわよ。総合三位になって主席戦に出られると、全くその時お祝いくらい言わせてほしかったですわ! ……おめでとうございます、ヒストリカさん」

 

 最後は優しい口調で、そう言ってくれた。

 

「ありがとうございます、ドレディアさん」

 

「いえ、本当は直ぐに言いたかったんですけれども、ね」

 

 う、根に持っているみたいだ。

 

「……なんて、冗談ですわ。少しすねてみただけですわ」

 

 そう言って、くすりと笑う。

 

「最近色々と頑張っているようですから。 所で、ヒストリカはここで何をしていたんですの? 図書館にご用事が?」

 

「あ、いえ。私はこの後魔術修練場に行くつもりです」

 

 ……揉め事があった事はわざわざ言わなくてもいいだろう。

 

「あら、訓練ですの? 熱心ですわね……そう言えば、訓練も途中でしたわね。ご一緒しましょう! またお教えしますわ」

 

 え、っと、どうしようかな。

 連れてって良いのか、どうなのだろう。

 ……別に駄目とは言われてないから、いいのかな?

 

「はい。あ、ただドレディアさん、私は今別の方に教えていただいてまして……」

 

 言ってからちょっと失礼だったかな、と思ってしまう。

 断り文句みたいだったし、途中まで教えてもらって違う人に教えを受ける、というのもドレディアに悪かったかも……。

 

「あら、そうでしたの。そうなると、突然お伺いするのは失礼かしら……」

 

 が、ドレディアさんはそれで気分を害すること無くむしろこちらを気にしてくれた。

 やっぱり、この人は凄く良い人なんだなあ。

 

「多分大丈夫だと思いますよ。良ければ一緒に行きますか?」

 

 ……さ、流石に一緒と言っても師匠ちゃん、ドレディアさんに対して無茶な訓練はしない、はず?


「ええ、勿論ですわ」

 

 二つ返事で返すドレディアさん。

 そして、僕はもうひとり、テルミドールさんの方を向く。

 話の間一切口を挟まなかったけど、無口な人なのかな?



 いや、急に話に入ってくるのも難しいよね。

 そういう所の気遣いが僕には足りない様な気がする。



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