賭けるもの
「さて、ヒストリカちゃんは魔力が精神力と密接に繋がっているという事は知っているかしら」
「はい、聞いたことはあります。信念や覚悟を持った人ほど魔力が高かったり、怒りによって魔力が増大したりすると」
「そうよ。さて、そうするとずっと怒っている人は強いのかしら?」
「えっと、いえ、魔力の増大は結果的には自分の力量以上の力を発揮しているので、継続して発揮すると身体に支障を起こします」
「良い答えね。その通りよ、120%の力を発揮する、と言うのは20%分負荷が掛かっている状態。でもね、それはつまり最低でも20%の力は精神で何とか出来る、と言う事よ」
確かに、そうとも言える。
「そして、何度も言うように普通の人が普通にやっていても、到底天才には勝てないわ。勝てないということはつまり、有名になれない、と言う事。だからね、これからやる修行は普通じゃない修行。辛いわよー覚悟はいい?」
ごくりとつばを飲む。
しかし今更引き返せないし、それで強くなって有名になれるなら!
「はい、お願いします!」
「うん、いい返事ね。じゃあこれ」
そう言ってどこからともなく取り出したのは一つのガラス瓶。
なんだろう、試験管みたいな小さく細長いガラス管に怪しい紫の液体が入っている。
「それを飲んでね」
「これは、何なのか聞いてもいいですか?」
「毒薬」
「毒っ……!?」
殺人事件が起きてしまう。
「冗談じゃないわよ。毒薬を飲んでもらう、それが最初の修行」
手を顎に当てながら、どことなく優雅にそう言う。
「理由を、お聞きしても?」
「簡単よ。魔力を強化するために、精神を強くする。精神を強めるために」
そして、師匠ちゃんは言った。
「死の淵を、さまよってもらう。毒薬でね」
「死の、淵を……」
「そう、人間というのはね、死の間際で凄い力を発揮するの。毒薬で意図的とは言え、その状態になれば魔力は上がるはずよ。その後もね」
確かに、死ぬ直前になって覚醒、と言うのはありがちな話といえば、そうだ。
しかし……かといって。
「恐い? そうよね、だから誰もしないわ」
「……」
「やめるかしら?」
これで本当に強くなれるのか。
もしかしたらそのまま死んでしまうのではないか。
そう言った色々な事が頭に浮かぶ。
どこかで、やめとけと言う声が聴こえる気がする。
「それでも」
だから声に出す。
「やらなきゃいけない事が、あります」
それでもと、進まなきゃ行けない時があるんだと。
覚悟を決めて、薬を飲む。
苦! マズ! 舌痛!
「おお……やっぱりヒストリカちゃん最高よ。聞きたいことを飲み込んで、毒を口にする。その覚悟は尊いものだわ……」
……意識が、薄れていく。
「……聞こえるかしら? その後、激痛が走るわ。それを耐えなさい」
夢を、見ているような感じだ。
身体からゆっくりと離れていく。
次の瞬間、全身が悲鳴を上げだす。
「あぐっ……あぁああ! ああああああぁぁぁぁアアアアアああ!」
痛い! 痛い! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!
全身が削られるような痛み。
血液が針になって、全身を巡っている。
心臓が跳ねる度にナイフが突き刺さった様な鋭い痛み。
「助け、たすけ……」
声は出ない。
かわりに真っ赤な血液が胸を、地面を汚す。
……血だ。血を噴いている。
「さむい……いたい……」
全身が、さむい。
けれど、灼熱のようにあつい。
全身がいたい。
なみのように、おしよせ、ひいて、おしよせる。
「ごぷ……」
口中もまわりもは血の泡でおおわれている。
てが赤い。
「いや……いやだ…‥しにたくない。しにたくないよぉ……」
すぐにでも逃れたい。
むしろ、楽にして欲しい。
それぐらいのいたみ。
たすけてほしい。
やめてほしい。
いたい。
いたい。
もういやだ。
「助けて欲しい?」
そうこえがした。
このいたみからたすけてくれる。
たすかる……助かる!
「たすけ……」
「駄目よ」
そして悪魔は微笑む。
残虐で妖艶な笑みを浮かべて。
「アナタはここで死ぬの」
こころに、ぜつぼうがひろがった気がした。
短くてすみません。
明日朝か昼ぐらいに2話更新予定です。