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師匠ちゃんの講義

「大丈夫……?」

 

「な、なんとか、少し休めば……」

 

 吐き気がする。

 頭がぐらぐらして、口から何か漏れそうだ。

 視界はふらふらして、立つことも難しい。

 

「よしよし」

 

 背中を優しく撫でてくれるモルガンさん。

 

「師匠ちゃんよ」

 

 ……本当に心を読んでるんではないだろうか。

う……うわあ、気持ち悪いけど、でもだんだん収まってきた。

 転移って、こんなキツイんだ。

 

「初めてだと一番辛いのよね。でもだんだん慣れてくるから」

 

 そう、僕はモル……師匠ちゃんの魔術であの場所から自分の部屋へ転移してきた。

 ほんの一瞬で、僕は自分の部屋に移動したのだ。

 

「便利……ですね、転移って……」

 

「結構魔力使うし、事前の準備も時間かかるし、知ってる場所しか行けないし、一部は転移禁止だったり、沢山の物は運べなかったり色々制約はあるけどね。……最初に凄い気持ち悪くなったりする人が居るのは忘れてたわ……」

 

 色々、面倒な事も多いらしいけど……いや、あれだ、凄い、あれだ。

 なんかもう、全身がシェイクされたというか、頭を掴まれて何十回転させられたような、例えようがない気持ち悪さが。

 っぐ、気を抜くと、尊厳が放出されそう……。

 

 

 それから、何十分か経ってようやく気分が回復し、僕は寝かされていたベッドから立ち上がる。

 と言っても、腰を掛けた状態だけど。

 

「じゃあ、まず師匠ちゃんの教え一つめを教えるわ」

 

「……あの、何で隣に?」

 

「何か問題でも?」

 

「ちょっと、近いような」

 

 ほぼ真横、と言うか若干密着する位の距離で同じベッドに腰掛けている師匠ちゃん。

 

「まずね、白紙の小切手は切っちゃ駄目よ」

 

 あ、スルーなんですね。

 って、白紙の小切手?

 

「何でしょうか。白紙の小切手というのは」

 

「師匠ちゃん、今回何も言わずにヒストリカちゃんを了承させたよね? その時対価の話、してないでしょ? つまり代わりに何をする必要があるのか、何をいくら払うのかを相手に全部委ねる事を、白紙の小切手って表現するのよ。文字通り相手が好きに数字が書ける白紙の小切手」

 

 ああ、なるほど。

 小切手と言うのは値段を書いた紙の事だ。その人のサインが書いてあって、それを銀行に持っていけばその金額を書いた人の口座からお金を出してくれる、いうなればお金の代わりだ。手形、とも言うんだったかな。

 だからそれを白紙で渡せば、例えば貰った人が5000兆って書いたらそのお金が支払われるわけだ。

 ……いや勿論そんなお金は無いから実際は無理だけど。

 

 そうそう、前に考えた通りこの世界の言葉は僕にわかるように翻訳されている。

 だから実際はこの世界に小切手と言うのは多分、存在しない。

 でも僕にわかるようにそう伝えたい事を変換、翻訳しているみたいだ。

 今だ、何故かっていうのはわかってないけど……便利だからいいか。

 

「だから対価を聞かずに約束はしないこと。これは凄く大事だからね」

 

「わかりました……でも師匠ちゃんはそうさせましたよね?」

 

「そうよ。だから言ったでしょ。当たり前に考えたらこんな話蹴っちゃうのが普通なんだから」

 

 そう告げた後、少しだけ真面目な口調で更に言葉を続ける。

 

「でもね、時には切らざるを得ない(・・・・・・・・)事もあるわ。だから、認識をしてほしいの。白紙の小切手は切っちゃいけない事を。それでも良いと言う時だけ、使いなさい」

 

 一概に、駄目と否定するわけではない。

 駄目な事を認識した上で、決定しなさいと教えてくれているのだ。

 

「わかりました」

 

「うんうん。素直なのは良いことだわ」

 

 そう言って褒めてくれる。

 なんか、最初と違って口調が軽い、と言うか自然な感じだ。

 僕の師匠になったからだろうか。

 

「さて、じゃあまずヒストリカちゃんには一つ、決めてもらわないといけない事があるわ」

 

「決めなければいけない事? それはなんでしょうか?」

 

「どこまで強くなりたいか、その目標地点よ」

 

 面白そうに、そう言った師匠ちゃんは黙って僕の回答を待つ。

 どこまで、か……。

 主席戦まで?

 いや、そしたらその後はどうするのか。

 じゃあ世界最強?

 ……子供じゃないんだから

 

「私は、俗かもしれませんが有名になりたいんです。だから、最低でも主席戦に勝てる様になりたい、けれど、それでは」

 

「その後が続かない、か。なるほどねぇ、有名になりたい。良いじゃない、どこまで有名になりたいの?」

 

「……わかりません。全員に知ってもらえるのが理想ですけど、それは現実的ではないですから。でも、出来る限り限界まで有名になりたいんです」

 

「まあ、皆知ってるって王様ぐらいかしらね。……わかってると思うけど、その目標の高さに比例して修行は厳しいわよ」

 

「はい。覚悟してます」

 

「わかったわ。じゃあ、師匠ちゃんも本気を出そうかしら」

 

 と、気合が入っている師匠ちゃんだったがふと、思い出したので答えてみる。

 

「そういえば、対価の話をしてましたね。その、修業を付けてもらう対価はなんでしょうか? その、お金はあんまりなくて」

 

「対価? そうね……」

 

 そこで、少しだけ薄い笑みを浮かべると。

 

「可哀想な王様を、いつか止めてあげて」

 

 そんな、不思議な事を言い始めた。

 

「王様を、止める? その王様って言うのは、この学園の学園長ですか?」

 

「さあ、誰でしょうね。ふふ、今は気にしなくていいわ」

 

 そんな気になることを言ったらそりゃ気になるけど、答える気はないらしい。

 残念だけど、とりあえずは何かするってことはないみたいだ。

 

「さてと、じゃあ訓練できる所に行きましょうか。近くにあるかしら、できれば人がいない所がいいわね」

 

「それなら魔術修練場があります」

 

「それじゃ、そこに行きましょうか」

 

 そう言って立ち上がったので、僕も合わせて立ち上がる。

 ここから、何が始まるのか。

 少しドキドキしていた。

 

「……あの、どうして腕を組むんですか?」

 

「気分」

 

 ……転移は出来ないらしいので、僕たちはそのまま魔術修練場まで歩いていった。

明日夜更新します。

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