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頭のなかで星がぐるぐる回る

 拝啓、父さん。母さん。僕、ヒストリカは魔法学院入学初日ですが

 

 

「諸君も知っているとおりこの世界には四法と呼ばれる魔術体型が存在する。それぞれ北方魔術、南方魔術、西方魔術、東方魔術の4つの方。故に四法と呼ばれているわけだが、こう体系化されているのには勿論理由がある。それぞれの魔術には特色があり、消費する魔力も違い、当然発動速度も違う。何より媒体とされる物があるかないかは大きな点だろう。北方魔術は触媒を使う、これは必須だが東方魔術に関しては少し違う。東方魔術は触媒、主に和紙と呼ばれる紙を使う事が多いが、使わなくても出来る。西方魔術と南方魔術は触媒を必要としない。ここの差異はよく覚えておくように。だが最も大きな点はどこか。そうだ、詠唱と魔術名だ。基本的な事項だと思うだろうがだからこそ……」

 

 

 既に限界です。

 

 


 

 

 魔法学院にやってきて一日目の話だ。

 最初に案内されたのは寮。

 中世の建築物が多かった元の家と違い学園の中は白いレンガのようなもので出来ている物が多い。

 いや、レンガと言うよりコンクリートに近いだろうか。

 手触りもよく、柔らかいような硬いような妙な感触であった。

 そんな不思議素材に目を奪われつつも、案内された一室は非常に簡素なものだが広さは結構あり、十二畳ほどはあるだろうか。

 しかし代わりにあるのは木で出来たベットと机とクローゼットの一つづつしか無く、それ以外は自分で用意するものらしい。

 

 ちなみにここは共同寮であり男性、女性ともに同じ寮に住んでいる。

 ただ五階建てで一階は共同空間でなんと風呂もあるらしい。

 二,三階が男性、四,五階は女性の部屋だ。

 

 女性として入学している僕は五階の一番右奥の部屋に案内されている。

 そして、なによりトイレに至っては恐るべきことに水洗式になっていた。

 というか、魔術で水を流しているとか実際の原理は元の世界とは違うらしいが、水洗式なのは少し嬉しい。

 ……元の家は汲み取り式だったからなあ。

 

 と、そんな元の家と現代世界の事を比べながらこれからの生活に少しだけわくわくしていた。

 やはり、魔術という超常的な存在。

 それが存在する世界。そして、それを使える自分に期待をしてしまう。

 

 部屋の案内が終わり、次は学院の中を案内するのかと思いきや早速教室に連れて行かれる。

 案内をしてくれた中年の男性はどうやら僕の担任らしい、廊下で待たれるように言われ、先に部屋に入ると声が聞こえる。

 

「諸君、おはよう。今日から新しい転入生が来る。共に研鑽を積むように、では入り給え」

 

 挨拶も短く、入るように言われ緊張しながら教室に入る。

 入った瞬間突き刺さる多数の視線。

 ……皆髪色凄いな。カラーパレットみたいに色とりどりだ。自分の銀髪を棚に上げておいてなんだけれど。

 

「ローリエ君。挨拶を」

 

 水を向けられ、緊張を隠しながら自信を持って話す。大丈夫だ、行けるはず。

 

「はい。新しく皆様方とこの学院で学ばさせて頂く、ヒストリカ・ローリエと申します。何分知識不足でご迷惑をおかけしてしまう面もあるかと思いますが、どうぞ宜しくお願い致します」

 

 そう言って頭を下げる。

 ……ざわざわと喧騒が広がっていく。

 え、何か失敗したかと不安になる。

 

「ふむ、とても丁寧な挨拶だ。しかし少々へりくだりすぎるな。もう少し肩の力を抜き給え、ローリエ君」

 

「失礼致しました。こういった場所は不慣れなもので」

 

 日本式挨拶は少し硬すぎたらしい。

 よくよく考えれば、貴族制度があるこの世界で頭を安易に下げるのも良くないのか。

 こういった常識はまだすり合わせが出来ていないところを実感する。

 

「気にするな。そういった所を学ぶのもこの学院の役目だ。さて、君の席は一番奥の真ん中だ」

 

 良くある小学校や中学校の一人一席とは違い、大学のような長机を並べてそれに複数人が座る形式だ。

 言葉の通りに席の間を抜けて一番奥に向かう。

 途中、小さく声が聞こえた。

 

「凄い可愛い子だな」

「ちっちゃいなぁ、いくつぐらいなんだろ」

「優しそうな女の子、友達になれるかしら?」

「ローリエ……? あの例の貴族の子か?」

 

 ごめんなさい、可愛いとか言われてますけど男です。ごめんなさい。

 そういえば、気にしてなかったけど同じぐらいの年齢の子はいない。

 大概が年上、およそ高校生くらいに見えるが……自分が特殊なのかはまだわからない。

 

「さて、気になる者もいるだろうがそれは自由時間に個別で話すように。交流も学術の一つだ。では早速授業を始めよう。ああ、ローリエ君はまだ教科書を持っていないだろうから、とりあえずは聞くだけで良い」

 

 え、このまま授業を始めるんだ。

 ……まあ確かに今日来たばかりで何もわからない。

 とりあえずは聞くだけでも勉強になるだろう。

 

 そんな甘い考えを粉砕したのは直後だった。

 

「諸君らも知っているとおり、それぞれの魔術、四法は奥が深い。故にこの学園でも四つに別れてそれぞれの魔術を講義している。一度は全てを受ける事をおすすめする。それは各個人に資質があるからだ。自分がどの資質を得意とし、何を苦手とするのかを把握した上で長所を伸ばすか、短所を補うかを決めたほうが効率が良いからだ。だがあえて君たち一年生に言うとするならば西方魔術を推す。その理由は西方魔術の特色が資質に左右されづらくまた魔術を行使するにあたり魔術暴走、暴発を防ぐ魔術になっているからであって……」

 

 凄い。何を言っているかよくわからない。

 魔術と魔力は知っている。……いや本当に知っているというだけだが。

 

 えっと、確か魔力は誰しも持っているエネルギーで、生き物だけでなく無機物、土とかにも宿ってたりする。

 その魔力自体は皆持ってるけど、その量と回復量が違って、量も回復量も多い人間がいわゆる魔術師と呼ばれる。

 そして、その魔力を使って、詠唱と魔術名を唱えることで魔術が発動する。

 

 詠唱はそのまま、魔術を使う前に唱える呪文で、魔術名はその魔術の名前で、それを詠唱の後に唱えないと発動しない。

 うん、ここまでは知ってる。

 

 でもね、四法とか、資質とか、触媒とか……要勉強である。

 が、このまま聞いていても頭にはてなしか浮かばず何の意味もない。

 それじゃダメだ。折角この学院に入れてもらったんだ。

 

 ……よし、教科書を見せてもらおう。

 見てわからない可能性も高いけど、だからって何にもしないのはよくないよね。

 

「あの、すみません」

 

 声を掛けたのは隣の少女だ。

 

「…………何?」

 

 凄く不機嫌なんですが、来たばかりで何かしでかしたのだろうか。

 

「ええと、教科書を見せてもらえないでしょうか? お話を聞いていてもあまり、その、理解が進まなくて」

 

 そう答えると彼女は怪訝な顔をしたあと。

 

「っは、そんなんでこの学院に来たの?」

 

 と、軽く笑いながらそう言葉を発した。

 

「お恥ずかしい話で、恐縮です」

 

 何も知らずに学院に入る。

 当然、何かを習うために入るのだから知識不足はあるだろうが、だからといって何も知らずに入っていいというのはまた違う。

 だからこそ、そう言われるのもやむを得ないだろう。

 知ろうとすれば調べることも出来るのに、それを怠ったという証明に違いないのだから。

 

「……あんま良い子ちゃんぶるんじゃねえぞ」

 

「?」

 

「アタシはアンタみたいなぶりっ子が大嫌いなんだ。ちょっと可愛いからって、媚び売ってんじゃねえよ」

 

「……?」

 

「トボけた面して演技するんじゃねえ、イラつくんだよ」

 

「す、すみません。何か不快にさせてしまったみたいで……」

 

 正直、何故こんなに睨まれるのか全く分かっていないが、私非常に不愉快です、と言うのは表情どころかオーラで出ているので謝る他にない。

 彼女は鼻を鳴らすと、そのまま視線を正面に映した。

 

 うん、やはり今日は黙って聞いておくだけにしよう。

 よく考えれば学院と言っても、確かこの学院を卒業すれば魔術師として働くことになる。

 つまり、就職だ。逆に言えば重要な学業生活に対して何も知らない人間が、勉学の邪魔をしてくれば良い気分にはならないだろう。

 

 それ以外にも、まだ僕はこの世界の礼儀作法を完全に理解していない故の失礼が合った可能性も十分にある。

 僕はこの一件を教訓として、授業が終わった後図書室の様な物がないかを教師の方に教えてもらう。

 幸いにも図書館自体があるらしく、礼を言って場所を教えてもらった。

夕方頃にもう一話投稿致します。

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