本当にそれでいいの?
「話がそれちゃったわね、つまりは単純にアナタが気に入ったから力を貸したくなった、そういう事よ」
逸れたのは……いやそういう事は言わないでおこう。
しかし、そう言われても……
「信用できない?」
心を見透かされた様にそう問いかけられる。
……前にもおんなじ事があった気がする。
わかりやすいのかな、僕。
「勿論無理に、とは言わないわ。初対面だし、そういう警戒は当たり前だと思うわ」
意外な事にその事をモルガンさんは肯定した。
だが、次の言葉は僕に強く突き刺さった。
「けどね、当たり前のことじゃ、普通の人は天才を抜かせないわ」
笑みを浮かべながら、それでいて真剣な声色でそう言った。
「普通に勉強して、普通に練習して、普通に努力しただけじゃ駄目なのは、アナタも感じているのではなくて?」
「それは……」
それに対して僕は言葉を返せなかった。
何故なら、自分自身そう思っている所があったからだ。
努力した凡人は、努力した天才には、勝てない。
普通に考えれば当たり前の事だ。
同じ努力を重ねれば、元の才能の差が出るのは。
「しょーじき胡散臭いと思うだろうし、こうやって言葉を言うのも何か詐欺っぽい、騙してるんじゃないか、そう言った事を思ってこの話に乗らないのが普通で当たり前」
そう、普通で考えればそうだ。
「もっと安全な人に、安全な方法で、確実に教えてもらう。それも一つの手だし、否定はしないわ。だから私はアナタに聞くわ。これが最後。駄目なら話した事はすっぱり忘れて。ただ、今は何も質問に答えないし。なにもかも全部が怪しい状態で、アナタ自身が決めなさい。……力が、欲しい?」
変わらない妖艶な笑みで、そう僕に問いかける。
まさしく、それは悪魔の問いかけだ。
普通に考えれば、危険だし、危ないし、意味被ってるし、怪しいこんな話は受けないだろう。
例えば、ドレディアさんに今まで通り教わっても良い。
オルド先生にお願いして、誰かを紹介してもらうもの良い。
ナナナに言えば、稽古ぐらい付けてもらえるかもしれない。
「お願いします。私に力を、付けて下さい」
でも、それはきっと、最後の最後、届かない気がする。
だって努力しているのは自分だけじゃないから。
僕は、どうしても勝ちたい。
そして、願いを叶えたいんだ。
他の人に理解されなくても、絶対に。
「いいのね、本当に?」
「はい。もう決めたことですから」
「そう……やっぱり、素敵ね」
そう言って僕の方に身体を伸ばして来ると、頬を撫でながら耳元で囁く。
「食べちゃいたいくらい」
「きゃあ! や、やめて下さい!」
ぞくっと背筋が震えた。
どういう意味でかは、言わないけど!
「ふふふ、分かったわ。これからは、アナタに対して色々教えるわ。強くなるために、ね。じゃあまずは師匠って呼んでもらおうかしら」
離れた後、わくわくした表情でそう言うように告げるモルガンさん。
「その、師匠って言うのは、やっぱり力を与えるって言うのは色々鍛えてくれるという意味でいいんでしょうか?」
「あってるわ。……まさかこう、力そのものを与えてくれるような事を想像してた?」
「いえ、予想通りで助かったくらいです」
……もし、そうだったらどうしただろうか。
願いのために、怪しい力を宿す事は、正しいのだろうか。
それこそ悪人っぽいよねぇ。
「そう。じゃあほら早く、呼んで呼んで」
そう急かすモルガンさんは余程呼んでほしいのか両手で来い来いとジェスチャーしている。
「えっと、師匠」
「んー……もう一回」
「し、師匠」
「んんー……」
それは喜ぶ、と言う感じではなく、唇を曲げて何かを考えていた。
「ちょっと、違うかな。可愛くない。……ちゃんを付けてみよう」
「え? ちゃん、付けですか? も、モルガンちゃん?」
「あん、それも悪くないけど違う違う。師匠の方によ。そう、師匠ちゃんって呼んで!」
は、初めて聞く呼び名だ。
「師匠ちゃん」
「それで行きましょうか」
気に入ったみたいで何度も頷いている。
師匠ちゃん……師匠ちゃん?
「以後、師匠ちゃんの事は師匠ちゃんと呼ぶように」
一人称を師匠ちゃんにする程気に入ったらしい。
でも、え、師匠ちゃん……?
本当にそれでいいの……?