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悪魔

「負けた……っ!」

 

 ナナナの時とは違う。

 同級生に、圧倒的な力の差を付けられて負けた。

 

「力が、足りなかった。知識も、足りなかった」

 

 ゴーレムに対する対策も、魔力操作に関する知識も、それらを打破する力も。

 

「こんなのでは、到底トーナメントで勝つことなんて出来ません!」

 

 自惚れるな。

 自分は凡人だ。

 ドレディアさんにも、ナナナさんにも、アクターさんにも、勝てない弱い僕だ。

 だから、代償や癖があっても、強力な魔術に絞ってなんとか習得した。

 だけど、ダメだった。

 

「でも……どうすればいいのか」

 

 わからない。

 ただ勉強すればいいのか?

 ただ修練すればいいのか?

 

 本当にそれで、勝てるようになるのか?

 勉強や修練の時間を増やすぐらいで、勝てるようになるのか。

 

 わからない。

 

「力が、欲しい」

 

 ……闇堕ちしそうなセリフだと自分で苦笑する。

 でも、気持ちは本当だ。

 その為には……

 

「ヒストリカ様……?」

 

「!?」

 

 はっと声がした方向を向くと、そこには学園に向かったはずのテルミドールさんが居た。

 

「テ、テルミドールさん。どうしたんですか? 午後の講義のために学園に言ったはずでは?」

 

「いえ、忘れ物を致しまして。……失礼致します」

 

「え、ええ……」

 

 そう言って彼女は去っていった。

 み、見られたかな?

 うわー恥ずかしい……

 

「力が欲しい?」

 

「!?」

 

 こ、今度は誰だ!

 後ろを振り向くと、そこには青い髪をポニーテールにした女性が立っていた。

 ……いや本当に誰!?

 

「力が、欲しい?」

 

「あ、あの。恥ずかしいのでその言葉はやめてもらえませんか……」

 

 こ、この人には聞こえてたみたいだ。

 

「あら、青春してていいじゃない」

 

 妖艶な、と言う表現が似合う様に微笑む彼女。

 

「それで、どうかしら? 力が欲しい?」

 

「い、いや欲しいですけど……そもそも、貴方はどなたなんでしょうか?」

 

「あら、今も昔も、力が欲しいと求める人に声をかけるの存在なんて、相場が決まっているでしょう?」

 

 そう言って、彼女はその名を口にした。

 

「悪魔よ」

 

 実は後にわかることになるが

 これが僕と彼女の二度目(・・・)の出会いだった。




 

「悪魔……?」

 

 それはその、魂を持っていく系のアレだろうか。

 いや、いくら力が欲しいからってそんな魂を捧げるみたいな悪の親玉みたいな真似はしたくない。

 

「ええ、悪魔種のモルガン。宜しくね」

 

 青髪のポニーテールを掻き上げるとそう堂々と宣言する。

 どこかドレディアさんと似ているが、こう、なんだろう。決定的にタイプが違う。

 

「モルガンさん、ですか」

 

「そうよ、ヒストリカちゃん」

 

 ちゃん付けだ! 僕は心のなかでヒストリカちゃんの事をそう呼んでるけど実際に自分に対して言われたのは初めてだ。

 な、なんか、子供っぽく扱われているみたいでうーん、ちょっとだけもやっとする気もするな!

 ってあれ、僕って名乗ったっけ?

 

「何処かで、お会いした事がありましたか? 何故私の名前を知っているのでしょう?」

 

「答えてあげてもいいけど、先にアナタの答えが聞きたいわね。どう、力が欲しい?」

 

 覗き込むように顔を突き出して僕の瞳を覗いてくる。

 青い目が、一直線に僕を貫く。

 思わず息を呑むが、それでも僕は答えた。

 

「力は欲しいです。でも、その、犯罪行為や魂を捧げたりするのは嫌です」

 

 そうきっぱりと答えた。

 自信を持って答えた。

 

 ……はずが、何故か目を丸くした彼女、モルガンさんは少しして破顔した。

 

「あらら、ごめんなさいね。怖がらせるつもりはないし、そんな事をしてもらうつもりも無いのよ。けど、そうね、お詫びとサービスで先に教えちゃおうかしら」

 

 話の流れがまだつかめない僕は頭をひねったが、その様子を見てますます笑いをこぼすモルガンさん。

 

「簡単に言えば、貴方が強くなりたいなら、お手伝いをしようかなって思ったのよ」

 

 そう言いながら、座ったら? と言いながらモルガンさんが座ったので僕も座ることにして、その言葉の意味を少し考える。

 お手伝い、と言うのはどういうことなのだろうか。

 

「そのお手伝い、と言うのは何かモルガンさんがしてくれると言うことでしょうか?」

 

「ええそうよ。口で説明するのは難しいけど、そうね、期間限定のお師匠様って所かしら」

 

 人差し指を頬に当てながらニッコリと笑う。

 師匠、か。

 ドレディアさんみたいに色々教えてくれると言う事だろうか。

 しかし、気になる点はとりあえず二つあるから聞いてみないと。

 

「それは、ありがたいですがお二つお聞きしたいです。一つは何故、私の師匠となりたいと思ったのか、もう一つはその対価は何なのか……この二つです」

 

 他にも聞きたいことはあるけど、直ぐに確認したいのはまずこの点かな。

 正直この人何者なのかって言う所とか、そもそも何でここにいるのか凄く怪しいっていう所とかあるけど。

 

「そうねえ……理由については簡単だわ。アナタが好きだから」

 

 …………えっ?

 

「…………えっ?」

 

「悪魔種はね、魂に引かれるの。顔とか性格もあるけど、その魂の輝きが一番。アナタの魂、とっても綺麗よ。惚れ惚れするぐらい」

 

 これはやはり魂を狙われているのでは!?

 と、いうか魂って本当にあるの?

 そもそもこの人女性なのでは?

 大体僕の魂なんて穢れまくってますから!

 人に嘘付くし! 結界内とは言え人を傷付けたりしたし! 性格も良くないし!

 

「そんなに引かないで、傷ついちゃうわ。恋愛的な意味じゃない」

 

「最初に言って下さい。驚きました……」


「……とは限らないけど」

 

「!?」

 

「恋愛なんてそんなものよ」

 

 どんなものなのかわからないよ!

 

「あの、失礼ですけど女性、ですよね?」

 

「あら、この豊満な身体を見てわからない? 脱ぎましょうか?」

 

 そう言って胸を掴んで揺さぶる。

 思わず目をそらしてしまう僕であった。

 

「い、いえ結構です……」

 

「ふふ、安心して、ちゃんとした女性よ」

 

「そ、それなら尚更恋愛なんてあり得ないですよね。女性同士ですから」

 

 本当は違うけど。

 

「お姉さんそういう恋愛もありだと思うの」

 

「なしだと思います」

 

 そういうのは駄目です。

 

「男の子同士でもありだと思うの」

 

「無しです!」

 

 そういうのは絶対駄目です!


次は明日夜になります。

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