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者と物

 目が覚めた時、ふと違和感を感じて目元に手をやると、指先が濡れていた。

 

「……夢を、久しぶりに見ましたね」


 本来なら、夢は起きれば忘れてしまう。

 でも、この夢は忘れなかった。


 悲しくも、嬉しい、この記憶を。

 僕の、もう一つの始まりを。

 


「でも、なんだかやる気が沸いてきました」

 

 この学園に来た目的を改めて強く思う。

 有名になり、力をつけながら、ヒストリカちゃんを殺した犯人を探す、あるいはおびき寄せる。

 ヒストリカが生きていると知れば、きっと正体を探りに来るか、殺しに来るはずだと。

 

 つまりは、囮捜査のようなものなんだけど。

 


 今は、それしか出来ない。

 そして、お母さんも、いつ記憶が退化するか、そしてもしかしたら自分の身を傷つけたり、他人の傷つけたりするかもしれない。

 だから、最短で、走るんだ。

 

「しかし、どうしましょうか」

 

 可能な限り、効率の良い方法を見つけなければ手加減したナナナにも負ける僕ではトーナメントでは勝ち抜けないだろう。

 一度でも負けたら終わりだし、覚えている魔術は大体が一回限りの博打技みたいなものだ。

 

 まあ選んだのは僕なんだけど。

 

「困った時は、図書館ですかね」

 

 身体も問題なく動く。

 あ、服は……っと、そのままか。

 脱いだ服は横の籠に入っているみたいだ。


 ぬ、脱がされなくてよかった。

 ここで着替えるわけにもいかないか。人も居るし一度寮に戻ろう。

 

「保健室の先生、みたいな人は居ないんでしょうか」

 

 一声掛けていこうと思ったが、それらしい人は誰もいない。

 寝ている人に声をかけるのも悪いし、そのまま僕は部屋を出る。

 

 部屋を出て直ぐ近くに玄関があり、開けば久しぶりの外だ。

 空は快晴で、日の位置を見るにまだ昼にはなっていないみたいだ。

 

「さて……寮はどちらでしょうか」

 

 そもそもこの場所がどこか分からない。

 学院の中のようだから、森から戻ってきたんだろうけど見覚えのない景色だ。

 

「あ、学院がありますね」

 

 少し離れたところに、大きな建物があった。

 赤い屋根色をした学院には聞き覚えがある、確か南方の学院だったはずだ。

 ……四方に学院を立てるって凄いよね。

 

「学院なら人もいるでしょうし、まずはそちらを目指しましょうか」

 

 そうして僕は歩き始める。

 事件が起きたのは、学園近くまで来た時だった。

 

半器(はんき)がこの辺歩くなって言ったと思うけど」

 

 そんな、あまり聞きたくない声色と言葉が聞こえてきた。

 ……半器?

 良くわからないけど少なくとも良い話ではなさそうだ。




 …………ダメだ、気になって仕方ない。

 

 声のした方向に進む。

 少し人気を外れた学園の裏、そこで三人の男たちが一人の女性と相対していた。

 近づくに連れて、声が鮮明に聞こえてくる。

 

「困るね、人間のフリするなら人間らしく従順になって貰わないと」

 

「…………」

 

「黙るなよ。半器は話すことも出来ないのか?」

 

 その言葉に三人が笑う。

 ……気分が良くない。



 見れば、僕は女性の後ろ側にいるらしく、正面にいる三人、言葉を話しているのは中央にいる男だ。緑色の髪を縛った男と、その左右に同じ坊主頭の二人が並んでいる。

 後ろ姿をみるに女性の方は足ほどまで長く伸ばした、おお、僕と同じ銀髪の女性だ。

 

 

「すみません。直ぐ離れる様に致します」

 

「はは、そういういうこと言ってんじゃないんだよ……なあ、俺様が声かけてるわけだ。それで断るなら学院に来ない。近寄らない。そう言ったの覚えてないのかい? 脳が無いからかな?」

 


 再び笑い声。

 ……気分が悪い。

 

「それは……貴方が勝手に出した話で、我々としては了承しておりません」

 

「だからさ。認識合わせろよ。俺様の言葉は絶対なんだよ。法と一緒さ。法は必ず守るだろ?」

 

「……失礼致します」

 

「ああそう、じゃあ俺様も失礼させてもらおうかな」

 


 そう言って男は女性の腹に蹴りを入れた。


 

「悪いね、失礼しちゃったか。でもお互い様って事で」

 

 ……最悪の気分だ!




 

「待ちなさい」

 

「……は? 誰だよアンタ」

 

「誰でも良いでしょう。 ……大丈夫ですか?」

 

 駆け寄って手を差し伸べるが、彼女はお腹を抑えて動かない。

 大分強く打ったみたいだ……。

 

「恥ずかしくないんですか? 無抵抗の女性に手を挙げるなんて」

 

「ふうん。お子様にはわからないだろうけどさ、俺様の物をどう扱おうが、俺様の勝手なんだよ。正義感で首突っ込むなよ、寒いな」

 

「正義感じゃありません」

 

「へえ、じゃあ何なのかな」

 

「ただの、お節介です」

 

「ふうん、いいね。ただ正義を気取るやつより好感持てるよ。元々マイナスだけどね」

 

「なあ、どうするんですコイツ?」

 

 と、そこで横の男が口を出してくる。

 

「やっちまいますかぁ?」

 

「ガキ一匹どうとでもしますよ」

 

 上から目線でそんな事を男たちは言い始めて、腰に差したナイフを撫で始める。

 脅しのつもりなのだろうか。

 

「黙れよ。口を開くな、俺様ごと品性が落ちるだろ」

 

 が、それをたしなめたのは驚くことにその緑髪の男だった。

 ギラリと鋭い目を細めると、怯えるように男たちは首を振って後ろに下がった。

 



「……貴方が品性を語りますか」

 

「語るさ。俺様の尺度で品性を図っているんだ。んで、アンタはどうしたいの?」

 

「勿論、この人を休める所につれていきます。少なくとも貴方達の前から」

 

「へえ、んで、その後はどうするの?」

 

 予想外の問を、その男は愉快そうに投げた。

 

「それは、特に考えてないですが」

 

「今回限りって事か。てっきり、そいつを使いたいからかと思ったけどね。言っとくけど、近づかなきゃ俺様はなにもしないけど、近づけばおんなじ事をするよ。それは放って置くんだ?」

 

「助けを求められれば行きますし、見かければ助ける。ただそれだけです」

 

「……面白いな。アンタ。なあ、ちょっと遊んでけよ」

 

 と、そんな事を突然に言い出すと、彼は右手を水平に上げる。

 

「来たれ人形。 『Create(土の)Golem(傭兵)』」

 


 地面から生えるように生まれてきたのは、土の人形。

 サイズは2メートル半はありそうな巨体で、全体的にずんぐりした体型に指は三つ、頭の部分には一つ目の模様が浮かんでいた。

 

「そいつ、なんとかしてみてよ」

 

「何故、そんな事をするんです?」

 

「気分以外に何かあるのかよ。逃げてもいいよ。対象が変わるだけだし」

 

 対象、と言うのは彼女の事だろう。

 まだ、彼女動けそうにないなあ。

 連れていく、にもしても、人一人って結構重いからなあ。

 


 そう思っている間に、その土人形。ゴーレムは僕に向かって走ってきた。

 わ、わりと機敏!

 回避、すると彼女に当たるかもしれないか。仕方ない!

 

「魔力強化! はあっ!」

 

 前へと飛び出し、幸いにも持ってきていた剣を引き抜いてすれ違いざまに横腹を斬る。

 ……つもりが、途中で剣が埋まって止まる。

 

 硬! あと重!

 


「そんなんじゃだめだよ」

 

 ゴーレムの左手が僕を目掛けて振るわれたので、仕方なくゴーレムを蹴って強引に剣を引き抜いて後ろに逃げる。

 眼の前を巨大な土の手が通過する。


 うわあ痛そう……当たったら保健室に逆戻りかなあ。

 


 しかし、どうしよう。

 『火球』は文字通り焼け石に水っぽいし、風式もこの重い巨体じゃ吹き飛ばせないだろうし、うわあ相性悪い。

 …黒触しかないかなあ。

 

 

 幸い動きは機敏だけど、それでもナナナに比べれば全然遅い。

 やるしかない。

 

「我が剣に宿れ、魔を喰らい、力奪う虚脱の虚刃。それは幽麗たる刃!」

 

 構えた剣に魔力が集まり始める。

 

「……三大資質、知ってるよな。俺様はその中でも魔力操作が一番大事だと思ってる」

 

 突然、そんな講義のような事を言い始める。

 ゴーレムが此方を向いた瞬間、魔術を完成させる。

 

「『奪い尽くす黒(ヴォーバル・)触の大太刀(アバター)』!」

 

 黒い霧が剣を覆い、巨大な長刀になった。

 僕はそのまま、ゴーレムを真っ二つに切り裂く。

 












「遅い」



はずだった。

おそらく夜更新になります。

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