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夢鏡の向こう側

 屋敷に着いた俺は、彼につれられてまずは着替えをする事となった。

 正直、ひらひらしたような服とスカートを履く時には覚悟が必要だった。

 

 流石に女性物の下着を持ってきた時は勘弁してくださいと泣きついてしまったが。

 代わりのものを用意してくれるらしい。

 その間は、なんというか、かぼちゃパンツと言うかドロワーズと言うか、もっふもふした物を履いた。

 ……何かを失った気がする。

 

 

 着替えが終わり、ついに僕は彼の妻、つまりは俺のお母さんに会うことになった。

 彼に連れられ、部屋の前までついた時、流石に緊張をしていた。

 

「大丈夫だ。万が一、何かあっても僕がなんとかするから」

 

 そう言って笑ってポーズを取る。

 

「ふふ、ありがとうございます」

 

「……自信を持っていい。今の君は、ヒストリカだ」

 

 懐かしむような瞳を向けた後、意を決する様に部屋の扉を叩く。

 返事はすぐに帰ってきた。

 

「アナタ? 帰ってきたの?」

 

 綺麗な声だった。

 透き通る様な、透明な声が扉越しに聞こえてくる。

 

「アウラ。ああ、僕だ」

 

「あらあら、ようやくかしら。アルマダ、開けて頂戴」

 

 そう言うと、がちゃりと扉が開けられる。

 開かれた扉の先には、安楽椅子の様な物に座った、歳を感じさせない程美しい女性が座っていた。

 

「待っていたわ。あら……」

 

 視線が、僕に向けられる。

 途端に心臓の鼓動が早くなる。

 ……どう、だ。

 

 すると、彼女はにっこりと笑って

 

「ヒストリカも一緒なのね。外は大変だったでしょう、さあ中に入って」

 

「……ああ、さ、一緒に入ろう」

 

 隣で、彼が安堵したのがわかった。

 俺もだが。

 

「おかえりなさい。アナタ、ヒストリカ。友人に会いに行くって行ってたけど、どうだったかしら。楽しかった?」

 

「うん。凄く、楽しかったよ」

 

「あらあら。それなら良かったわ」

 

 柔和な笑顔を見せる。

 流れるような、白銀の髪が椅子に座ると床につきそうになっているが、絵になるほどサマになっている。

 

「寂しかったから、今日は皆でお話したいわね。いいかしら?」

 

 扉の近くにいた、メイド……メイドさん居るんだ。

 先程アルマダと呼ばれた人だろうか。その人は黙って頷く。

 すると一礼して、部屋から出ていく。

 

「二人共座って頂戴。お話、聞かせて。仲間はずれは悲しいわ」

 

「ああ、一杯、話そうか。三人で……」

 

 二人共、嬉しそうな笑顔で話し始める。

 俺は時々相槌を打つぐらいだったが、二人はよく、俺の顔を見てくる。

 ……きっと、ずっと、こうして話をしたかったのだろうと、俺にもわかるぐらいに。

 

 それは、夜が更けるまで続いた。

 

「今日は、一緒に寝ましょうか。いいわよね、ヒストリカ」

 

「おいおい、僕も一緒に寝かせてくれよ」

 

「あら、恥ずかしいじゃない」

 

「まいったなあ……」

 

 困り顔で頭をかく。

 でも、それはお互い本気で言っているわけじゃない。

 家族の団らんで、じゃれあいだ。

 

「ふふふ、冗談よ。家族皆で寝ましょうか」

 

 そうして、俺達は一つのベットに入って寝ることになった。

 寝間着に着替える際に一悶着、主に着替えさせたいというお母さんの事だが……ともあれ、なんとか抑える事が出来、三人で同じベットで眠る。

 

 その少し前に、彼に耳打ちをした。

 

「あの、良いんですかね。一応男なんですけど奥さんと同じベットで寝て」

 

 そう言うと、彼はきょとんとした顔をした後、口に手を当てて笑いをこらえていた。

 

「……いやまあ、確かに俺はまだ幼いですけどね」

 

 十二歳といえば、まあまだ子供だけどね。精神年齢はもうちょっと高いんですよ、とは言えない。

 

「いや、何も気にすることはないんだよ」

 

 そう言って頭を撫でる。

 ……この人、撫でているのが男って事をわかっているんだろうか?

 

 

 

「ヒストリカ」

 

 ベットに入って、うとうとし始めた時に声が聞こえた。

 

「はい……?」


「ごめんなさいね、起こしちゃったかしら」

 

「いいえ、どうしたんですか?」

 

「……なんでもないのよ。ただ、名前が呼びたくなったの」

 

 そう言って、ぎゅっと俺を抱きしめる。

 僕の背中には彼が、正面には抱きかかえた彼女が。

 

「恐い、夢を見たの。貴方が居なくなる夢。とても、悲しい夢を」

 

「…………」

 

「私は悲しみが怖くって、逃げ出してしまった、そんな不思議な夢」

 

 それは、俺に話すでもない、独り言の様な独白だった。

 

「おやすみなさい。私の、可愛い……」

 

 俺の髪を撫でながら、寝息を立てる。

 

「おやすみなさい。お母さん」

 

 小さな声で、声を掛けた後俺も目を閉じる。

 直ぐに眠りはやってきた。


 でも、これは……夢……?

明日朝に更新します。

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