試験結果、そして
「……ここ、は」
眼が覚め、自分がベットで寝かされている事を知った時、自ずと自分の試験の結果を想定できてしまった。
「負けました、か……」
最後の瞬間、僕は魔術の詠唱が間に合わず、逆に倒されてしまったらしい。
ただ、どう倒されたのかは、意識にない。
凄い衝撃が来たことはなんとなく覚えているのだけれど。
……? なんか焦げ臭いような、気のせいかな?
周りを見回してみると、何台かベットがあり、いくつかこんもりしているので誰か寝ているのだろう。
という事は、医務室かなにかかな?
「起きた……?」
「きゃあ!? な、ナナナ……?」
見回したときには居なかったはずのナナナに声をびくりと身体を震わせて驚いてしまった
「ご、ごめん。……あ。その。試験で」
落ち込んだ顔を見せ、口ごもるナナナに対して、僕は少しだけ笑いながら。
「いいんです。試験ですし、私の力が足りなかったのが原因ですから」
そう、力が足りなかった。
勉強して、鍛え上げても。
結局は駄目だった。
「ちがうの。魔術。駄目なのに。使った。だから……ごめんなさい」
そう言って頭を下げて謝る。
魔術が駄目?
ああ! 手加減って魔術も駄目だった事?
「魔術も駄目だったんですね」
相当手加減されていたんだなあ。
「うん……あの。もう。ともだち。じゃない……?」
「え? 何でですか?」
「そ、その。凄く説明して。ヒスちゃん悪くないって。言ったけど。だ、駄目で。結局。試験。終わっちゃった……」
あ、確かに窓の外を見ると茜色に染まって、もう色も大分夜に近づいている。
…‥試験時間短かったなあ。
「そうでしたか。試験終わったんですね。……それと友達じゃなくなるのと何か関係が?」
「え?」
「え?」
「だ、だから。るーる違反して。ヒスちゃん。試験を全然。受けれなかったから」
「はぁ……でもそれはそれですよね?」
ミスなんて誰にでもあるわけだし。
そりゃ、確かに試験を受けれなかった時間は長かったけど、逃げる事を諦めて戦ったのは僕だ。
つまりは、最終的には僕が決めたわけだし。
「今でも私はナナナの友達ですよ」
「ヒ、ヒスちゃん。天使……女神」
いや、女神ではないと思うな。間違い無く。
「あ。でもでも。一応」
「起きたか、ヒストリカ君」
「ひゃ!? オ、オルド先生?」
背後から声が聞こえて驚きながら振り返ればオルド先生が立っていた。
先生方は音もなく背後から声かけて驚かさないといけない決まりでもあるのだろうか。
訓練してなかっったら悲鳴でアウトだよ!
「あ、ひげだ」
「ひげと呼ぶのは止めろと言ったはずだ。ナナナ教諭」
「ひげは、ひげ」
どうやらナナナはオルド先生のことをひげと呼んでいるらしい。
どこぞの魔法学校の校長みたいなひげではなく、あごひげが軽くあるぐらいだが、ひげらしい。
「そうか。今回の件で50%給料カットの所を今までの功績を考えて30にしようと思ったが構わないらしいな」
「今日も素敵な顔をしてらっしゃいましてまことにほんじつはめでたいことでしてけいぐ」
「無理に話さなくていい。さて、ヒストリカ君、彼女から実技試験の結果は聞いたかね?」
「結果ですか? いえ、実技試験が終わったという事は聞きましたが」
「なるほど。60」
「ふにゃあ!」
数字とともに猫のような悲鳴を上げるナナナ。
……カット率なんだろうなあ。
「結果から言えば、君は五位だ」
五位……全体数から見れば高い、のだろうか。
流石に虹一つでは厳しかったか。
「先程集計が終わって、全体結果が出た。今頃全員に通知が言っているだろう。さて、筆記試験の結果も踏まえ、実技試験の点数を加算したヒストリカ君の最終総合結果だが……」
もう結果が出ているのか。
……どうなったのだろう。
筆記は悪くなかった、はず。
実技は五位だが、全体的な総数からすれば高い、はず。
そして、緊張する中オルド先生から答えた試験結果は……
「総合三位。それが君の最終成績だ」
…………三位。
「そう、ですか」
届かなかった。
最初から無理な目標だなんて、そんな言い訳はみっともないからしないけど。
やっぱり、悔しい。
「実技試験は中々だったんだがな、虹二つは立派だった」
あれ、虹二つ?
「あの、私は宝箱で見つけた虹一つのはずですが」
「何? ああ、なるほど。ナナナ教諭がルール違反をしたので、勝ちとみなして虹を獲得としてあるのだ。……だから一概にナナナ教諭の所為で実技の結果が落ちた、とは思わないで欲しい」
「……慰められた?」
「事実を言っただけだ。慰めたつもりはない。実際その後動けなかった事も考えると微妙だがな」
「……落とされた?」
「事実だ。後は筆記に関しては大部分は問題なかったが、加点要素の部分。いわゆる応用部分や詳細が甘いところがあった。しかし、ヒストリカ君、途中から入学して総合三位は大したものだ」
そう言って褒めてくれるオルド先生だったが、結果的には一位になれなかったのだ。
「ありがとうございます」
ただ、それを言っても空気が悪くなるだけだろう。
流石の僕でもそれぐらいの空気は読めるのだ。
「不服そうだな。十分な成績だと思うが、何かあるのかね?」
が、そんな内心を見透かしたようにそう口にしたオルド先生。
う、これは確信を持って言ってるし、誤魔化しは通用しそうにないなあ。
「ええ、その。高望みとはわかっておりますが、一位を目指していたので……いえ、十分な成績だと私も思っておりますが」
「ふむ、向上心が高いのは良いことだ。が、ただ一位を目指しているわけではないようだな。何か一位になる目的があるのかね?」
サトリか何かなのだろうかこの先生は。
「一位になれば、主席になれると聞きました。私は、主席にならないといけなかったので、それで……」
そう言うと、少し眉をひそめるオルド先生。
「ふむ」
髭をなぞりながら何かを悩む、いや言い淀んでいる。
……髭をなぞっていると、ナナナの「ひげ」を思い出して少し笑いそうになってしまう。
「なるほど、わかった」
何故か一人でに頷くオルド先生。
「ヒストリカ君は図書館でその主席の事を調べたのではないかね?」
「はい。そうですが……」
「やはりな。結論から言うとそれは古い情報だな」
「古い情報ですか? ……と言うと、今は違うんでしょうか?」
「ああ、元々は総合成績が一番高い者が主席だったのだがな、それでは本当の実力が測れない、試験をこなすためだけの身にならない魔術師が増えたため、形式を変えたのだ。……学園長がな」
……学園長が、かあ。
「形式を変えた、と言うと今はどんな形式になっているのでしょうか?」
「───主席戦」
若干、声色が変わった様な言い方でそう言った。
「主席戦、ですか? それはどのような……」
「ふ、そう焦るな。今説明をする」
オルド先生から軽くたしなめられる。
どうやらワンチャンスあるんじゃないかという事に、前のめりになりすぎてしまったらしい。
深呼吸をして、少し心を落ち着ける。
よし、大丈夫、僕は冷静です。
「まず、先程の総合成績の上位五名が主席戦に参加出来る権利を得る。つまり、ヒストリカ君はその権利を持っていると言う事だ」
やりました!
大勝利です!
「……説明を続けても?」
「す、すみません。お願いします」
思わず出てしまったガッツポーズをがっつり見られてしまった。……恥ずかしい。
「次に教諭からの推薦が二名。最後に特別枠の一名で合計八人。その八人でトーナメント戦を行う。そして、そこで一位になったものが、主席となる戦い。それが、主席戦だ」
「トーナメント、ですか」
「個人的には好ましいことではないが、確かに対人戦を実体験する事は悪い事ではなくてな……結局その形式になった。無論幻境結界は貼るが、相手は同じ学生故にルールは一切無い。故に、危険も多い。そのため、棄権者も居る。その場合は成績順に繰り上げだがな」
「なるほど……特別枠とはなんでしょうか?」
「特に決まっていない。課外で優秀な成績を残したものだったり、学園長の紹介者だったり、金に物をいわせた……おっと、今のは聞かなかった事にしてくれ給え。まあ変動可能な万能枠だ」
うーん、とりあえず誰でもねじ込める枠を一つ作っておいたって感じだろうか。
枠の参加者を聞いた限りは、なんとも言えないラインナップであったけど。
「話を戻すと、ヒストリカ君は主席になりたいのだね?」
「はい。どうしても」
「ふむ、ならば主席戦で勝つしか無いな。ああ、参加方法は教諭の誰かに言えば良い。良ければ手続きをしておくが」
「ありがとうございます、宜しくお願いします」
「では参加にしておこう。主席戦は準備期間も踏まえて一ヶ月後になる」
「一ヶ月後……」
「評定も兼ねているのでな。実技試験からの伸びも評価するのだよ」
なるほど、この一ヶ月を有効に使えということなんだな。
「まあ今日はこのまま休んで起き給え。休養をしっかり取らない者は途中で無理が帰ってくる。忘れずにいるように」
うーん、見透かされている。
確かにこの後色々調べたり修練したりしようと思っていたけど、確かに言われる通り休める時は休むべきだよね。
今日はゆっくり休んで、ベストの状態に戻す事に全力を尽くそう。
「では残りの仕事があるのでこれで失礼する。ナナナ教諭、君もだ」
そう言って見送ろうとしていたナナナの頭をつかむ。
「猫使い。荒い」
「ならば荒くならないように賢くなり給え。……ではな」
「あ、オルド先生! 一つ教えて貰えますか?」
「む、何だね?」
答えてくれるかわからないし、意味があるかわからないけど、これは一応聞いておきたい。
「あの、一位の人は誰だったんですか?」
「……結果は皆に出るから教えよう。アクター君だ。ではな」
「ヒスちゃん。またね」
頭を掴まれながら手をブンブン振るナナナに微笑と共に手を振り返す。
二人が居なくなり、僕はベットに戻り身体を休めながら、頭を回転させる。
残った時間は後一ヶ月。
無理に主席を目指す必要はない、と思うかもしれない。
でも、だめだ。
僕には残り時間がわからない。
だからこそ最短を走らないといけない。
彼女の、ヒストリカちゃんの事を、真実を知るために。
だから主席になることは必須だ。
進まないといけない。
「父さん、母さん……」
知らず知らず、まぶたが落ちてくる。
疲れのせいだろうか、眠気が強くなってくる。
僕はそれに逆らわずに静かに意識を落とす。
直前に、そんな事を思っていたせいだろうか。
その日、僕はかつての過去を夢に見た。
明日も投稿します。
なんでも構いませんので感想をいただけると嬉しいです。
宜しくお願いします。




