別視点:ナナナ
「……凄い」
感嘆の意を込め、そう呟いたのは属性学の教師でありヒストリカの友人でもある、ナナナだった。
「四撃。手加減とはいえ。防がれたのは。久しぶり」
ヒストリカの想像通り、ナナナは今回の試験として相手をするにあたり、学園からある条件を付けられていた。
連続攻撃は4回まで、右手しか使わない事。
ここまではヒストリカが分かっていたことだが、更に縛りがあった。
それはまず、獣人種の一部のみが行える特性、全身獣化を行わない事。
そして魔術を使わない事だ
実質的にナナナは自身の身体能力だけで戦う、と言う事だ。
しかし、それでも彼女の元々の身体能力は高い。
一年生の、更にまだ始まってすぐのこの時期の学生では太刀打ちは出来ないのが普通である。
事実、ナナナが一撃で倒した学生たちは決して弱いわけではない。
ただ、心構えが出来ていない事と、魔術に注視し近接戦の心得が無かったからだ。
彼らもまた、それなりの学生であるのだ。
が、それなりでは勝てないのが、教える立場であるナナナだ。
もっとも、一部の生徒、その中に問題児も居るが……善戦くらいなら出来る程度の実力者もいるのだが。
「魔力も。魔術も。近接も。まだまだ」
その顔は彼女を知る者なら驚いただろう。
滅多に見せない優しい笑みを浮かべていたのだから。
「面白い。まだまだだけど。先が楽しみ」
期待を受けるヒストリカだったが、その彼女はと言うと地面で寝ており、全身から煙を噴いていた。
「……ちょっと。やりすぎた」
流石のナナナも反省する。
「それに。『黄雷の大蹄鉄』を使っちゃった……」
最後の魔術。
あれはヒストリカのものではなく、ナナナのものだった。
だが彼女は魔術を使わない条件。
勿論、ナナナも使う予定は無かったし、負けそうになったとしても使うつもりもなかった。
「知らない。詠唱だったけど。なんだった。のかな」
ナナナは魔術を使う瞬間、ただ無意識に止めなければと思った。
それは経験則だったのか、それとも本能だったのか。
「……本当。先が。恐い」
ナナナが最初、オルドからヒストリカの話を聞いた時、興味を惹かれた。
生徒を公平に扱うオルドから、一人の生徒について言葉を発したのは久しぶりだったからだ。
そして、今までオルドがそう言って目を付けた生徒は、例外なく大成している。
だから、実際にあってみることにしたのだ。
最初見た時は、特に力は感じなかった。
だけどひと目見て姿が気に入った。
話してみたら、性格が気に入った。
そして、戦ってみて、その先が気になった。
「どこまで。育つのかな」
贔屓目に見て、正直資質は高いとは言えない。
だけど、オルドもナナナも、何かそれよりも重要な所に何かあると感じ取っていた。
「……さて。どおしよう
若干舌足らずに困った顔を見せる。
なにせ、使ってはいけない魔術を使って生徒をノックアウトしてしまったのだ。
流石のナナナもこれには反省である。
「……はあ。仕方ない」
結果的に、彼女の脳内ではごまかすか正直に話すかで揺れた結果、正直に話すことにしたらしい。
「ごめんね。ヒスちゃん」
最後にそう謝ると、ヒストリカを担ぎ上げる。
そして、背負った人間の重みなど感じさせないほど軽やかに、地面も蹴って、木々を蹴って、中空を飛んで森の外を目指すのだった。
ヒストリカの指に輝く、左手の人差し指と薬指から放たれる虹色の光が、森の中でテールライトのように残光を放って。
もう一話投稿します。