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入学前日


「それでは行ってきますね」

 

 玄関の扉をメイドさんに開けてもらいながら父さんに挨拶をかわす。

 そのまま進もうとするが、その声に足を止める。

 

「ああああ、心配だ。大丈夫か? 無理しなくても良いんだぞ?」

 

 頭を抱えながら不安そうにこちらを見る父さんに少しだけ苦笑いを浮かべる。

 

「大丈夫ですよ」

 

 そう答える。

 これから向かう中央魔法学院『リズべルド』、そこに僕は今日入学する。

 目的はただ一つ。それは父さんと母さんの願いの為。つまりそれは、僕の願いだ。

 

「ヒストリカお嬢様?」

 

「ごめんなさい、少し待っていてもらえる?」

 

 僕は一言メイドさんに声を掛けて父さんの元に駆け寄って、他の人に聞こえないように囁く。

 

「僕が絶対に、絶対に、ヒストリカ(・・・・・)ちゃんの真実を、必ず掴んできますから」

 

 それは決意だった。一度決めた事は絶対に、貫き通すと言う決意。

 そして、何を置いても達成する、目標。あるいは願い。

 だが、その言葉に顔を振って否定をする父さん。

 

「違うよ。確かに、それを知りたい。だけれどね、君も、もう家族なんだ。だから、無理は本当にしてはいけないよ」

 

 そういって頭を撫でる。

 少しくすぐったい。それは頭だけではなく、心もだった。

 ……父さんはわかっていてこういうことするからなあ。

 

「わかってますよ。……長期の休みには帰りますからご心配せずに」

 

 最後だけちょっと声を大きくする。

 今の話を聞かれているとは思えないけど、一応そう言った心配をされたていを装ってみた。

 

「レ……ヒストリカ! 頑張ってなあ!」

 

「旦那様」

 

「ん、すまない。歳かな、涙もろくてね」

 

「いえ、それと……」

 

 そうして父さんのお付きのメイドさんが掌で指し示した先を僕と父さんが見ると僕たちは目をむいた。

 

「お、お母様!?」

 

「アウラ!?」

 

 そこには母さんの姿があった。

 な、何で……?

 

「ごめんなさいね、どうしてもヒストリカが行く前にひと目見たくて、無理言って連れてきてもらったの」

 

 綺麗な白銀の髪を陽光に煌めかせて、入り口の馬車の近くに立っていた母さんに僕と父さんは大いに驚く。

 ある理由から、部屋からも出させてもらえない(・・・・・・・・・・)母さんが、外に出ていたからだ。

 と、父さんの横のメイドさんが小さく耳打ちする。

 

「……奥様は強くヒストリカお嬢様に会うことを希望しており、会わせないほうが危険だと判断してお連れしました。本日は安定しており、大丈夫かと思います。……この勝手な行動に対する処罰はなんなりとお受けします」

 

「いや……ヒストリカの門出だ。アウラがそう思うのも仕方ない。むしろ、良くやってくれた」

 

「恐縮です」

 

「あら、来ちゃだめだったかしら?」

 

 少し表情を暗くする母さん。

 ちらりと父さんに目線を送ると、頷く。

 その合図を受けて、一礼をすると母さんのもとに急ぐ。

 

「お母様、来てくださって嬉しいです」

 

「あらあら、私も会えて嬉しいわ。……綺麗になったわね」

 

 そう言って母さんと同じ、僕の銀髪を撫でる。

 父さんも母さんも40ちょっとのはずだが、そんなことを思わせないほど若く美しい。

 

「魔法学院に行くんですってね。ヒストリカなら、なんでも出来ちゃうわ。でも辛くなったらいつでも帰ってきていいのよ」

 

「お父様にも同じことを言われました」

 

 苦笑しながらそう答える。

 それに同じく苦笑して返す母さん。

 

「こういうところが夫婦なのかしらね。……頑張ってね。何もなくてもいいから時々は帰ってきてね、その時は色々とお話きかせてね」

 

 最後に、頬を一撫でしてからぎゅっと抱きしめられる。

 

「はい、私は、ヒストリカ(・・・・・)は頑張ります」

 

「あ、でも頑張り過ぎちゃダメよ。お父さんもかーくんも頑張り屋だったけど、すぐ無理して身体を壊しちゃうんだから」

 

 昔を懐かしむような目を見せる。

 

「もう20近いのに(・・・・・・)そうやって無茶ばかりして、いつも後始末は私がしてるのよ? 困っちゃうわ」

 

「奥様、そろそろ……」

 

「あら、もうそんな時間? それじゃあ、怪我しないようにね」


 そうして、家族との別れを済ませて馬車へと乗り込む。

 酷く揺れるかと思ったが、予想よりも揺れは少なく、快適な旅になりそうだ。

 と言っても、およそ3日程の、小旅行のようなものだが。

 

 僕がこの世界に来てから13年の月日が経った。

 当初はこの世界が元の日本と違う事に気づいて酷く狼狽した物だ。

 だけれど、もう一人の母さんに拾われ、この世界を学んだ。

 もう一人の父さんからこの世界で生きる心を教えてもらった。

 

 そして今の父さんと母さんの為に、この世界の中心。

 魔法学院と言う、元の世界から最もかけ離れた場所へと向かう。

 

 

 そこで僕が成すべきこと。

 

「誰よりも……」

 

 拳を握りしめる。

 窓の外を見れば、中世の町並みが水のように流れていく。

 

「誰よりも有名になる。誰よりも強くなる。そして」

 

 握った拳を解いて、ゆっくりと再度閉じた。

 

「ヒストリカちゃんを殺した人物(・・・・・・)を誘い出す」

 

 それが僕の役割。それが僕の望み。

 と、そこでふと自分の姿を見る。

 家から出てきた時のドレスに似た衣装の凝った蒼と白の服。

 淡い紺色をしたスカートに革靴。

 どこぞのお姫様のような格好をしている自分に、ため息を吐いてしまう。

 

「今更だけど」

 

 これから向かう先の学園では制服が採用されている。

 この時代に? と思わなくはないが、そういうものなのだろう。

 当然、学園では自分は女性で入学する事になっている。

 

「これからずっと、女性の恰好なんだよね……」

 

 ヒストリカ・ローリエ。それが僕の名。それが嘘の名。

 銀髪の背の低い少女。それが僕の姿。それも嘘の姿。

 性別、男性。それが本当の僕。それは偽の僕。

 

「でも、やらなきゃいけないんだ」

 

 名前から何から全てが嘘の僕。

 魔法も存在するような世界で、馬車で移動するような世界で。

 そんな世界で、僕は大嘘を付き続ける。

明日また二話更新です。大体同じぐらいの時間だと思います。

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