最強の敵
幸運にも虹の指輪を見つけた僕だったが、それが運の尽きだった。
「魔力強化! 魔力強化!! 魔力強化!!!」
僕は今全力で走っている。
効率があまり良くない魔力強化を使いながら、森の中を疾走する。
理由は簡単だ。
「居たぞ! 追え! いや、囲め囲め!」
「うわあああああ虹持ちだ! ぶっ倒せ!」
「お前にいいかっこさせるかよ! 俺が追う!」
「馬鹿野郎、万年赤点の淵をさまよっている奴は黙って見てろ! 俺がやる!」
「どけな! お前ら童貞じゃ無理だ! 女なら俺に任せろ」
「「「やろうぶっころしてやる!」」」
皆で鬼ごっこの真っ最中である。
鬼の数が多いんだけどね!
何故彼らが結託して襲っているのか、それは彼らがまず指輪を持っていないからだ。
だから裏切って奪い合うものはないし、とりあえず虹を確保しよう、と言うのが一つ。
虹、目立つんだよね……若干光ってるし。
誰かと目があった瞬間、左手に眼が吸い寄せられるからね!
……誘蛾灯ってこういうことなのかなあ。
しかし、指輪って結構見つからないものなんだなあ。
逃げている間、色々回っても宝箱も見つからないし、どこにあるんだろう。
……あれ?
そこで、足を止める。
「声が、消えた?」
後ろから騒がしいぐらいに叫びながら追ってきていた人達が、居ない。
……うわあ、嫌な予感しかしない。
集中して、周囲を警戒する。
…………。
「!」
半分無意識ながらも高速で逆手にて剣を引き抜き、そのまま正面に構えた刹那、金属音が擦れる様な甲高い音が森に響く。
「な、何?」
正直何を防いだかも分かっていないが、黒い何かが影から飛び出したと思ったら僕の横を掠めていった。
「……凄い。防いだ。皆。駄目だったのに」
「え? その、声は」
聞き覚えのあるその独特な話し方と、声は後ろから聞こえてきた。
思わず振り向くと。
「さっきぶりだね、ヒスちゃん」
「ナナナ、先生」
「だめ。呼び捨てって。言ったでしょ」
そう言って柔らかく笑う猫耳少女。
試験官の一人、ナナナがそこには居た。
───虹の指輪を付けて
「その指輪は……」
「うん。勝てば。虹が貰える。一応手加減。する。よ」
虹の指輪が二つ。それは相当なリードになる。
なにせ、赤を10個揃えるのと同じと考えれば、両手の指全てに指輪をつけているのと同じ。
だけど。
「でも。言っておくけど」
眼が鋭く僕を射抜く。
「講師。なめないで。ね」
教える立場の人間。
それは、遥か格上の存在だ。
事実、先程の動きも目で追いきれなかった。
「準備。良い?」
けれど、超えなければならない。
「宜しく、お願いします」
剣を逆手から構え直す。
集中するんだ。
何かも、見逃さないように。
「うん。行くよ」
声を共に、ナナナの手が黒い毛で覆われ、爪が伸びる。
猫の手、あるいは熊の手に似ている。
「一つ」
「っ!」
一瞬後、甲高い音が響く。
剣と爪がぶつかった音だ。
「二つ」
だが正面にはもう居ない、背後を振り向きながら反射で動く。
たたらを踏みながらも二撃目を防ぐ。
「三つ」
上段からの振り下ろしは避ける暇がなく、片膝を付いてなんとか堪える。
「四つ」
そして、下からのすくい上げが剣へとぶつかり、剣は上空を舞った。
少しして、カランと音を立てて剣が地面に落下する。
「……さーびす」
そこで、追撃されれば終わっていた。
だけれど、ナナナは何も言わずに後ろ跳ねて距離を離す。
「もっと集中しないと。次。終わり。だよ」
「…………」
追撃しないのは、情けとも、傲慢とも、油断とも、慢心とも、きっと違うのだ。
文字通り、サービスなのだろう。
「期待。してるから」
教師として、育ててくれている。
それを、僕は嬉しく思うと同時に、負けん気があがってくる。
もっと、もっと集中しないと。
勝てないどころか、善戦も出来ずに終わってしまう。
「……一つ」
正面からの横薙ぎを剣で防ぐ。
「二つ」
裏回って背後からの斬りつけを横にステップして回避する。
「三つ」
今度は真っ直ぐ突き出してくる爪を顔を背けて、薄皮一枚で避ける。
「四つ」
くるりと回転しながら裏拳の要領で殴ってきた拳を頭を下げて、凌ぐ。
「避けるだけじゃ。だめ。その間に。詠唱とか。攻撃。挟んで。てんぽ。ずらす」
そうアドバイスをしてくれる。
……見てわかった。
彼女、ナナナは右手しか使っていなかった。
そして、攻撃も四回まで。
きっとそういう制限なのだろう。
手加減という、縛りがきっとナナナにあるのだ。
……流石に手加減無しで来い、なんて格好いいことは言えない。
言ったら最後、かっこ悪いことになるのは間違いないのだから。
「はい。火よ」
「だめー」
手の平を押し出してくるナナナに、剣を横に構えて受ける。
……し、真剣なのに手の平の肉球に傷一つ付かないんだ。
「詠唱。攻撃。そういうのさせないのが。攻撃側」
「っく、魔力強化!」
無理矢理力任せに押し込む。
だがするりと力を抜いて、押し込んだ方向にそのまま逃げるナナナ。
「火よ。猛き火よ。炎弾となりて敵を撃て『火球』!」
だがその行動が見えた僕は同時に詠唱を完成させて、火球を撃ち出す。
「魔力強化」
だが、それも肉球で受けられる。
煙は上がるが、まったくダメージを負ったようには見えない。
「……見えるように。なってきた?」
「なんとか、ですけれどね」
影ぐらいだったのが豪速球くらいには見える程度だが、なんとか反応している。
ただ、長くは持たないかもしれない。
それほど薄氷の上だ。
「なら。速度あげるね」
その言葉が届くとほぼ同時に。
「一つ。二つ」
構えた件に二度の衝撃が襲いかかる。
タイムラグが殆ど無い……!
「三つ。四つ」
ダメだ、また黒い影に変わる。
だが、もはや意識と無意識の狭間で身体が勝手に動き、なんとか最後の攻撃まで防ぎ切るが
「ふう。一つ」
一呼吸だけ置いて、再度爪が襲いかかった。
だめだ、防ぎきれないっ!
「っつ! 剣が……!」
横薙ぎの攻撃を防ぐ力が弱かったのか、剣が跳ね飛ばされる。
「残念。だね」
そう言って拳を振るう。
「『風式:翠華』!」
早口で唱えた東洋魔術が発動し、僕の身体から一瞬だけ強力な風が吹き荒れる。
投稿が遅くなってしまいすみません。
本日は一話だけです。明日は八時か九時に二話更新します。
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