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死は君の背にいる

「よ、ようやく着きましたね……」

 

 遠い、遠いよこの森。

 東の森ってあれなのね、学園から東ってことで、つまりは国の外って事で。

 県外より遠いなんて聞いてないよ……間に合ってよかった。

 

「ええと、皆さんどこに居るんでしょうか?」

 

 入り口まで馬車で送ってもらったが、誰もいない。

 場所を間違えたのかと不安になったその時

 

「ここ」

 

「ひぅ!」

 

「……可愛い」

 

 突然背中を撫でられた僕は変な声を出してしまう。

 よ、良かった。普段から女性らしい声を出しておいてよかった。

 背中を撫でられ、男の声が漏れて学園生活終了、なんて情けない終わり方はせずにすんだ……!

 

 振り向くと、ぴょこぴょこと可愛らしい猫耳が揺れている。

 視線は同じぐらいの少女に、見覚えが合った。

 

「属性学の先生、ですか?」

 

 獣人種の少女は、確か属性学を教えていたはずだ。

 必修は一度だけだったので、講義を受けたのは最初の一階だけだ。

 

「そう。名前はナナナ。宜しく」

 

「はい、宜しくお願いします。……あの、午後の試験はここで良かったでしょうか?」

 

「あってる。ヒスちゃんはこっち」

 

 そう言って僕の手を取って歩き始める。

 しかし、ヒスちゃんって、多分ヒストリカだからだよね。

 ナナナ先生は何歳くらいなんだろう。

 同じくらいの身長だし、童顔だから同じ年齢って事もあるけど、先生だしもうちょっと上なんだろうか。

 年齢を聞きたいけど、女性に歳を聞くのは失礼って言葉もあるし。

 あ、でも今僕女性だからセーフなのかな。

 

「……歳。気になる?」

 

 そんな心を読み解いた様にそう答えられて心臓がドクンと跳ねる。

 

「皆気になってる。特に、ヒスちゃんおんなじぐらいだから。より気になる。気がする。きっとそう。気が多い。ふふ……」

 

 予想より面白い人だった。

 でも話しやすくていいなあ。

 

「そうですね、確かにナナナ先生の年齢は気になってます」

 

「でもだめ。もうちょっと仲良くなってから」

 

 あ、そうなんだ。ちょっと残念。

 

「なかよしすてっぷいち。ナナナって。呼んで。先生いらない。ナナナ。はい」

 

「えっと、良いんですか。先生を呼び捨てで」

 

「いい。許す。同年齢だし」

 

 答え言っちゃったけど良いのかな……

 でもここで言わないのも悪いし、仲良くなる事に悪いことはないもんね。

 

「では、ナナナ」

 

「うん、ヒスちゃん」

 

 ナナナのぎゅっと手を握る力が増した。

 何この子、可愛い。

 

「わたしたち。友達。貧乳仲間」

 

 ……す、すみません。

 貧乳どころかトリプルAカップか、マイナスです。無乳です。

 男だからね……。

 

「もっと仲良くなったら。耳も触っていい」

 

 あ、それはちょっと、いや大分興味がある。

 黒い毛の猫耳、猫よりも大きな猫耳は実際触ってみたい。

 

「それは、嬉しいですね。触った人は何人ぐらい居るんですか?」

 

「少し。近寄ってくるの。男ばっかだから。男はダメ。近づいたら引き裂く」

 

 これはいけません、引き裂かれてしまう。

 

「ん、着いた」

 

 と、背中に冷や汗を流して話していたら目的に着いていたらしい。

 足をお互い止め、先を見るとそこには1つの建物があった。

 

「ここが試験場所ですか?」

 

「違う。この後動くから。ここで着替える」

 

 ……え?

 今なんて言いました?

 

「今、着替えるって言いました?」

 

「そう。服脱いで。中の服着る。汚れるから」

 

 これはいけません、引き裂かれてしまう。

 

「私はこのままで大丈夫ですよ」

 

「規則だから」

 

 ま、まずい。

 着替えなんてしたら正体がバレる可能性が非常に大きいし、ナナナにも凄く悪い。

 

「着替えは、別々ですよね」

 

 僅かな望みをかけて聞いてみる。

 そう、個室で着替えるという一手が

 

「一緒」

 

 潰えた。

 いや、本当にマズイ。

 バレたら生命的な危機と社会的な危機と罪悪感的な危機でトリプル危機だ。

 

 ちょ、ひ、引っ張らないで。

 うわあ、力が強い!

 

「一緒」

 

「ま、待って下さい。その、私はちょっと事情があって肌は見せたくなくて」

 

 ああああ!

 また嘘を重ねてしまう。

 いや、嘘じゃないけど。でも嘘じゃないからって言い訳の時点で嘘だよねぇ。

 

「なんで」

 

 グイグイ来るね!

 

「その……」

 

 っく、考えろ。

 傷があって……ダメだ。日本とかならともかくこの戦闘がある世界で傷があるからって見逃してもらえるかは微妙な気がする。

 肌を見られるのが恥ずかしいとか? いやダメそうな気がする。そう……でそのまま押し込まれそう。

 家の事情で……どんな事情だ。いや

 

「婚約者以外に肌を見せてはいけないって、家訓がありまして」

 

 嘘をついて本当にごめんなさい!

 後お父さん、お母さん、すみません、架空の家訓を作ってしまいました。

 そして何か男としての心に傷が付いた気がする。

 

「なかよしすてっぷに。はだかのつきあい。出来ない……」

 

 そのステップを踏むともれなくステップマイナスになるので。 

 

「仕方ない。なら先に入って着替えて。それはまた。今度にする」

 

「申し訳ありませんね。 あれ、今また今度って言いました?」

 

「他の学生。誘導してくる。その間に」

 

 顔を背けてそう言うと直ぐにもと来た道を走り出した。

 うわ、早い。力も強かったし、身体能力は獣人種は高いのかな。

 しかし、あれは確信犯だと思う。誤用の方の。

 

 ……戻ってくる前に早く着替えよう。

 そう言って広い木の建物の扉を開ける。

 ぎぃっと蝶番の軋む音と共に扉が開くと

 

「あん? 誰だ」

 

 そこには下着姿のエルさんの姿があった。

 下着、姿。

 

「きゃああああああああ!」

 

「うわああああああああ!」

 

 悲鳴を上げて慌てて扉を締める僕とその声に驚いたのかつられたように悲鳴を上げるエルさん。

 こ、この世界にちゃんとブラジャーもあってよかった!

 無かったらすごく大変な事になっていた。あ、ちゃんと下の方も着けてたよ!

 でもい、一瞬だったからあんまり覚えてないよ!

 

「お、驚かせるんじゃねえよ! てめーヒストリカだよなあ、っち、さっさと入れよ」

 

「い、いえ、それよりなんで入り口付近で着替えてるんですか」

 

「隠れてコソコソ隅っこで着替えんの嫌なんだよ。文句あんのか」

 

「そ、そうですか。なら着替え終わったら教えてください」

 

「何でてめーに教えなきゃなんねえんだよ。早く入って着替えろや」

 

「すみません私は婚約者以外に肌を見せてはいけないって家訓がありまして!」

 

 若干早口に先程のセリフを繰り返す。

 何でおんなじ危機に遭遇する事になるのか……。

 

「はあ? くだら……いや、なんでもねえ。っち、少し待ってろや」

 

 少しして、僕は衣擦れの音が聞こえたので慌てて扉から離れる。

 僕は直立不動の姿勢のまま、その場でただ待ち続けた。

 それから数分も経たない内に扉が開き、中からエルさんが現れる。

 

 革で出来たレザーコートにベルトにズボン、全て茶色で染められた服装だ。

 まるで冒険者の服みたいと思った。

 

「終わった、てめーもさっさと着替えな」

 

 そう言って顎で部屋の中を指し示す。

 

「ありがとうございます」

 

「っち!」

 

 何故か大きな舌打ちを受けながら僕は中に入る。

 外から見たら広そうだったが、中にはいれば、大きい一部屋、と言うかワンルームだった。

 壁端には先程エルさんが着替えていた服が並べられており、一応籠もおいてあった。

 あ、籠は木じゃないんだ。なんだろこの素材……軽くて硬い、アルミ? いや違うなあ。

 

「いえ、それより急いで着替えないと」

 

 危ない危ない。ただでさえ時間が危ない所なんだから気をつけないと。

 玄関側の端っこの方に位置して、誰も居ないのは見てわかるが一応全体を見回した後、意を決して服を脱ぐ。

 上着を取って、スカートを外す。中のシャツを脱いで、レザーコートを手に取る。

 ブラジャーは着けていないので、上半身は裸だ。

 無論、胸は無い。

 

 ちなみに下着はゴムみたいな素材の、こう、スパッツみたいな物になっている。

 この世界の女性の下着は、前の日本と同じように見えたが、実際は不明だ。

 流石に、女性物の下着は履けない。色々な意味で。

 

 ……早く着替えよう。

 あれ、これどうやって着るんだろう?

 あ、前に止めるところがあるからこれを外して……ボタンじゃない? あれ、これボタンだけど留め具じゃないのか。

 あれ?

 

「おい、中にはいるんじゃねえよ」

 

「あら、どうしてですの?」

 

「中に着替えているやつがいんだよ、家訓だかで肌を見せてはいけないんだとよ。っち、なんでアタシがそんな事を言わなきゃなんねんだ!」

 

「そ、それは知りませんけど……そう、でも先程案内されたナナナ教師には直ぐ着替えないと間に合わないと言われましたの。同じ女性同士ですし、大丈夫ですわ」

 

 何か、聞き覚えのある声だなと思ったらドレディアさんじゃないか。

 と言うか、このままでは入ってこられてしまう!

 

「あー……でもよぉ、あんまそういうのはよくねーってか……とにかくヒストリカが嫌がるからやめとけ」

 

 ありがとう、ありがとうエルさん。

 そのまま抑えておいて下さい。

 くそ、早く服を……

 

「あら、ヒストリカさんですの? なら友達同士ですもの、問題ありませんわ。それに、何かあったらロシェット家の名にかけてなんとかしてみせますわ!」

 

 問題しかないんですよ!

 ズ、ズボンはなんとか着れた!

 後は上着を……あああああずり下がった! ベ、ベルトを、いや先に上着を着ないと。

 

「ヒストリカさん! お邪魔しますわ!」

 

 バンっと音を立てて入ってきたのは赤い髪の女性、そうドレディアさんだった。

 そして、僕を探す様に見渡して、視線が合ってしまった。

明日は多分昼と夜更新になると思います。

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