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別視点:オルド

「いかんな」

 

 彼、オルドは自分らしくない言動に少しだけ恥じていた。

 

「やれやれ、これではエオスの事は笑えんな」

 

 頭をかく動作も、彼にしては珍しい。

 生徒からは堅物、あるいは剛健と言われる彼であり、事実彼自身も、そうであるように努めている。

 

「しかし学園長には困ったものだ。何か対策を講じねばならんが……」

 

 こういった自体に、すぐ教師陣が駆けつけ対応したのは偶然ではない。

 過去に何度もある事例であり、一部の対応には対処方法も記載されている取扱書も存在する。

 が、その度に色々な所から苦情が来ており、その都度対応している教師は正直学園長に良い感情は持っていない。

 事実、オルド自身も学園長の性格は矯正するべきと考えている。

 

「が、やはり無駄だろうな」

 

 これもまた珍しくため息を吐く。

 理由は、抑えきれないからだ。

 学園長という肩書だと安く見えるが、こう言いかえれるのだ。

 世界最大国の一つ、『リズベルド国王』と。

 

 故に、権力的に落とすのは難しい。

 暴力的に落とす、という事はつまりは国家反逆罪と同罪だ。

 到底出来ることではない。

 

 何より、学園長であるストラディーヴァは世界最高位の魔術師(・・・・・・・・・)だ。

 並大抵の魔術師が束になっても勝てないのだ。

 

「とはいえ、陳情(ちんじょう)はあげんといかんな」

 

 だからといって黙って見ている訳にはいかないのだ。

 

 そこで、視線を別の方向へ向ける。

 それはヒストリカが向かった先。

 

「しかし、若いというのは眩しいものだな」

 

 微笑を浮かべるオルド。

 その瞳は教育者というよりも親に近いものであった。

 

「まだ蕾も蕾。入学したての新入生。にもかかわらず、学園長の攻撃を防ぐか。末恐ろしいと言うべきか。なにより、どこで鍛えたのやら集中力と判断力は目を見張る物がある」

 

 オルドが評価したのは才能面ではなく、ヒストリカの努力であった。

 そして、その努力に隠された誰にでも出来る(・・・・・・・)誰でも出来ない事(・・・・・・・・)を見抜いたのは、やはりオルドが優秀な教師という裏付けでもある。

 もっとも、滅多に褒めない彼であるが故に鉄面皮だの鬼だの散々な渾名が裏で付けられているのだが。

 

「…………やれやれ、ん?」

 

 そこで一人の姿を見つける。

 地面に倒れ伏していた中に、だが。

 

「エレットくんか、一緒に受けていたのか」

 

 見覚えのある顔に対して、少しだけ足を止める。

 

「……ふう、グレイグ教諭!」

 

 彼は大声を上げて一人の名前を叫ぶ。

 すると、教師団の中から一人が飛び出して走ってくる。

 

「はいはい! なんでしょうかオルド先生!」

 

「先生はやめたまえ。同僚ならば対等だろう。……午後の試験の時間を後ろにずらせるか?」

 

「なんとかします! どれぐらい、ずらせばいいですか!」

 

 ちらりと、彼は視線を地面に向けた後


「一時間程でいいだろう」

 

「わかりました! おい、ジン! 行くぞ!!」

 

 そう声を上げた後土煙を上げながら走っていく。

 その後ろを訓練実習生のジンと呼ばれるまだ若い教師が後を追いながら声を掛け合う。

 

「ええ!? ここの術式がまだ」

 

「んなもん後だ、オルド先生からの依頼最優先!」

 

「ああ、もう。すみません、後お願いします……グ、グレイグさん。どこにいくんですかあ」

 

「学園長室に殴り込みに決まってんだろ!」

 

「いやあああああああああああああああぁぁぁ……」

 

 引きづられるように、嵐のように去っていく二人を不安げな目で見送る彼、オルドだった。

 そうしてため息を一つ付いた後、オルドはぽつりと誰にも聞こえない小さな声で呟く。

 

「全く、歳を取ると甘くなる物だ」

 

 そして彼は再び教師陣の指揮を取り始める。

 倒れている者の搬送、治療、及び試験の準備、後始末等まだまだ仕事は残っている。 

 

「今日は、帰れそうにないな」

 

 また小言を受けてしまう事に彼は少し嘆息しながら、他の教師に向かって大声を張り上げるのだった。


今日夜8時前後に投稿します。

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