幕張の様なもの
あ、危なああああい!
本当にいきなり来るとは思ってなかったけど、いや勘が当たってよかった。
さて、と……念のためっと。
うん、脈拍もあるし、息もしてる。
悪夢にうなされているようなうめき声はするけど、命に別状はないみたいでよかった。
い、いや流石に学園の公認試験で学園長が大量殺人、なんてサスペンスが起きるとは思ってなかったけどね!
「事前に気づいたのが一人、直前に気づいたのが三人。発動後が二人か……ま、こんなもんだよね」
物理的に上から目線でそう答えるストラディーヴァさんだった。
「んじゃ、この今立ってる六人は合格。午後には東の森、通称『黒の森』にて試験しまーすので、よろしくね。……ああ、ちゃんと今寝てる人も来ないと、午後の試験失格になるから。じゃあねえ」
そう言って、消えた。
……瞬間移動なんだろうか。便利そうだなあ。
って、寝てる人もって……う、ううん、しばらく起きそうにないんだけど、ど、どうしよう。
「教員全員、術式準備!」
そんな大声が響く。
振り返ってみてみれば、先生方が集まって、何かをしていた。
何か、うん、何か……。
「災難だったな」
「え? あ、オルド先生」
いつの間にやら近くに来ていたオルド先生がそこに立っていた。
若干不愉快そうに髭を手でなぞって、ストラディーヴァさんが居た場所を睨んでいる。
「学園長には困ったものだ。教師陣に何も言わずに……おっと、すまない。生徒に愚痴をするのは宜しく無かったな。彼らの処置を我々に任せなさい」
笑ってそう答えるその姿は、熟練の教師の風格があった。
手伝いたいけど、僕みたいな素人よりも先生の方が確実だよね。
申し訳ないけど、言葉に甘える事にしよう。
「わかりました。宜しくお願いします」
「うむ。……ヒストリカ君」
「はい? なんでしょうか」
とりあえず場所を探す所からなので、図書館に行こうとした僕の背を呼び止める。
「本来教師としては、一人の生徒に肩入れするのは好ましくない。それはえこひいきをとなり、歪みを生むからだ」
「そうですね。仰る通りだと思います」
一人を優遇すれば、結果的に他の全てが冷遇されている、と言う見方をされてしまうからだ。
しかし何故今教育理論の話を?
「だが、私個人としては、途中入学にも関わらず、勤勉で、真摯で、そして今、学園長の魔術にも耐えうる強さを持った君を好ましく思っている。勿論、優秀という意味でな」
…………あれ、ひょっとして褒められている?
エルさん達と会話した時は厳格でめったに褒める事も無い先生って聞いてたんだけど。
「だから頑張り給え。君が何を望んでいるかは分からないが、目標があるならば、進み給え。応援している」
言い終わって、僕の顔を見ると苦笑いを浮かべた後、先生たちが集まる場所に戻っていった。
これは、オルド先生なりの激励だったのだろうか。
しかし、何故急に今?
頭にはてなを浮かべながら僕は図書館へと足を向かわせたのだった。
……あれ、そういえばオルド先生。
僕の事、家名であるローリエ君じゃなくて、名前であるヒストリカ君って呼んだ?
そんな疑問が頭に浮かんだがその後、直ぐに移動しないと間に合わない時間に設定された嫌がらせのような時間設定が判明し、頭を抱えるひまもなく、図書館を出た僕はその時にはすっかりと頭から抜けていた。
短いので昼に投稿します。