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期末前夜

 そんな大慌てだった事は露とも見せずに、授業は無事に終わった。

 

「ヒストリカさん。俺らはこの後、北方魔術学に行くけど、一緒にどう?」

 

「すみません、今日は魔術修練場で約束がありまして」

 

「ん、了解」

 

「ごめんなさい。しばらくはそちらに集中したくて……社交辞令ではなく、本当に残念に思ってますよ」

 

「はん、そんなのどうでもいいさ。ま、なんでもいいけど授業も出ないようじゃ落第してもおかしくねえな。もう試験まで後二週間なんだからな」

 

「お、ツンデレ式連絡事項……め、眼鏡の命だけは! 眼鏡だけは勘弁してください!!」

 

 いつものやり取りをしながら二人にと手を振って見送る。

 行きたいのは本当だが、授業を聞くよりもまずはドレディアさんと実技を交えた方がきっと覚えは早い。

 二人には申し訳ないけど、今の僕には時間がない。

 僅か二週間で、皆の頑張りを抜かさないといけないのだから。

 そんな事、天才にしか出来ないだろう。

 そして、僕は天才とは到底言えないのは、事実だ。

 

 けれど、だから諦めるというのは間違っている。

 出来ることを最大限にするしか、僕には出来ないのだから。

 

 ……よし、じゃあ向かおう。魔術修練場に。

 ちなみに、場所はわかっているので図書館ではなく現地集合である。

 

 

 

「お待ちしておりましたわ!」

 

 相変わらずのオーラを纏いながら腕組みをして、大樹のごとくどっしりと構えたドレディアさんがお出迎えだ。

 

「すみません、ドレディアさんも試験もあるのに付き合って頂いて」

 

 ドレディアさんは別クラスだが学年は一緒の一年生。

 ちなみに歳は18らしい。

 この学校は大体15から18前後が最も多く、自分みたいな歳は少ない。

 でも特に年齢制限があるわけではないので、別に20を超えた人でも10歳の子供でも入学する事はできる。

 ただ、入学するには結構なお金が必要な事と、入れたとしても試験で落ちた場合の未来を考えると、そうそう入学する事には勇気がいるらしい。

 

 そして、その年代が一番多い理由は魔力だ。

 魔力は、精神力と密接な関係にあるらしく、強い意志や信念を持った人間の魔力は通常よりも高くなったり、単純に怒りで普段以上の力を出すことも出来ると本に書いてあった。

 あるいは、漫画みたいに死の淵に瀕するとか、そういった逆境の状態でも魔力が高くなったり、簡単に言えば強くなったりする。

 ……もっとも、それが必ずしも良いとは限らないけれど。

 

 おっと、それで子供の頃、つまり思春期頃に魔術の訓練が一番効率が良いらしい。

 だから中学、高校くらいの人間が学園に多く所属する事となる。

 

 さて、ここでひとつ気づくだろうか。

 ならもっと幼い頃、幼稚園や赤ん坊の頃から魔術教育をしたらいいのでは? と。

 まず、魔術に関する能力は必ずしも遺伝するとは限らない。

 そして、ゲームみたいに素質がランクSとかAとかで出てくるわけでもない。

 ぶっちゃけた話、調べるのにもお金がかかる。

 だから普通の人間には才能があっても、子供の頃から教育を受けるのは難しい。

 

 ……そう、だからこそ、貴族と呼ばれる人間は強い。

 幼い頃から英才教育が出来る権力と財力があるからだ。

 だから名を残すような強力な魔術師は貴族の家系が非常に多い。

 

 当然、この学校にも数多く貴族の血を引く人が一杯いて。

 ……その人達を、僕は超えなければならない。

 

 天才たちを、秀才たちを、僕みたいな平凡な人間が。

 

 

 

「何度も仰って居るように全くもって構いませんわ! それに、私も訓練になりますし、何より……」

 

「何より?」

 

「いえ、なんでもないですわ。では、まずはこれを」

 

 そう言って渡してきたのはビー玉ではなく、剣だった。

 

「抜いて振ってみて下さいまし」

 

 言われたまま、抜いて、あ、これ刃が潰してあったんだ……おっと、言われた通り振る。

 お?

 

「軽い?」

 

 以前は重みを感じて数回振るだけで疲れを感じるほど貧弱な身体だったのが、今は軽く感じる。

 

「これが魔力操作の恩恵、魔力強化ですわ」

 

 魔力ってそんなことも出来るんだ。

 魔術のことしか調べてなかったからなあ、今度から魔力自体も調べるようにしないと。

 

「この前、ヒストリカさんは全身に魔力を行き渡るようにした時、身体の中に魔力の通り道が出来るようになったんですの。そして、自身の普段漏れている魔力を無意識に身体自身に行き渡らせる事によって、身体が強化されたんですのよ」

 

「魔力操作には、そんな効果もあるんですね」

 

「ええ、ただこれは漏れて無駄になる魔力を身体強化に使っているので、限界はありますけどね」

 

「……これを意識的に強化することも出来るんですか?」

 

 無意識な強化、これはすごく便利だ。

 なら、意識した強化なら、どうなるだろうか。

 

「察しが良いですわね! 出来ますわ、ただ問題もありますの」

 

「問題?」

 

「この無意識での身体強化は、自分の身体と魔力に負荷がかからない強化。意識的に強化すれば一時的には強力な身体能力を発揮しますが、その分後がキツイですわよ。多少なら問題無いですけど、使いすぎれば良くて全身筋肉痛。悪ければ……」

 

 言葉を濁すドレディアさんだが、言いたいことはわかる。

 無理な強化の先、それは最悪身体を壊す事になる。

 

「まあ適度に使う分には問題はありませんわ! ただ、わりと魔力を使うのでそれだったら魔術を使った方が効率がいいと言う点も確かですが……」

 

 ふむふむ、その後の話も聞いて、まとめるとこうか。

 身体強化は恒常的な物。魔力の消費もほぼない。

 意識的な強化は一時的じゃないと後がやばい。魔力の消費も割高。

 それを考えると魔術を使ったり、魔術で強化したほうが効率がいいと。

 ただ、魔力を込めるだけで出来るので緊急の場合とか、とっさの場合にすぐれるのは良点……っと。

 

 なるほどなるほど。

 しかし剣が軽くなったのは嬉しい誤算だ。

 筋トレから始めたら何年かかるやら……。

 

「では始めますわよ。今日は魔術の訓練にしますわ。まずは得意の属性の検証から……」

 

 その後、夜がどっぷりと更けるまで訓練を続けた。

 ……あれ、何か忘れているような気がする。

 うーん、集中してないと色々忘れちゃうのは僕の欠点だ。

 少し頭を捻りながら家路に帰る。

 

 

 その後、毎日同じ事を繰り返すこととなる。

 必修だけ授業を受け、試験範囲に出そうな所はメモをする。

 それが終わったらドレディアさんと訓練だ。

 本当色々つきっきりで教えてもらっていて、すごく感謝しているのと同時に非常に申し訳ない気持ちだ。

 でも、いまはその好意に甘えさせてもらう……試験終わったらお礼しないとなあ。

 大体は魔術修練場で訓練するが、図書館で座学も色々教わった。

 ……教えてもらえば教えてもらうたびに、ドレディアさんを超えるなんて無理じゃないかなと言う諦めが首をかしげる。

 教わっている人間が、教えている人間に勝てるかと言われれば……未来はともかくとして今の時間のない中では……。

 いや、ダメだ。

 諦めちゃダメだ。

 絶対に、絶対に……!

 

 ネガティブ思考を打ち切る。

 ドレディアさんとの訓練が終わると家に戻り、訓練で教えてもらったことと授業の復習、そして図書館で借りた本を読み、寝て起きて、後はそのループだ。

 

 そんな事を繰り返して、繰り返して。

 

 あっというまに、試験の日がやって来た。

 まず今日一日、午前と午後で座学の試験を行う。

 そして明日に実技試験を行う日程だ。

 

 まずは、今日の座学。

 実技は別としても、座学はそれほど難しくはない(ドレディアさん談)なら、ここで高得点を取っておかないとマズイ。

 

 今まで勉強してきた全てを、ぶつけるんだ!

 やるぞ! おー!

明日は朝9時頃の投稿予定です。

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