別視点:ドレディア
当初、ドレディアが彼女、ヒストリカの訓練を見た時ははっきり言って期待をしてはいなかった。
話を聞いている限りでは何も知らないお嬢様で、かつ年齢も幼いともなれば寧ろ期待する方が酷というものだろう。
無論、それを馬鹿にしていたわけではない。
まずは基本からという所を抑えれたのはドレディアなりの優しさであり、英断だっただろう。
とは言え、幼い時分からこの学院に来るということはそれなりの力はあると思っていた部分はあった。
だが、ドレディアがヒストリカの『火球』の魔術を見た限りでは三大資質である、魔力量、魔力操作、魔力出力のどれも特に秀でているという感触はなく、平均ほど、と言う印象だったのは間違いない。
勿論、それで指導が投げやりになったり、修練に付き合うのを止めるなんて事はありえない。
ヒストリカ事を大事な友達だと思っているドレディアにはそんな意識は全く無かった。
才能と友は、別問題なのだから。
と、そんな事をドレディアは心のなかでは思っていた。
これはヒストリカを見下しているわけでもなく、ただ事実を考えていただけだ。
でも、彼女、ヒストリカの凄い所はそんな、魔力の才能程度のものじゃ無いことをドレディアは知る事となる。
「……あら、つい読みふけってしまいましたわ」
空は夕暮れになってきており、昼過ぎから考えればかなりの時間が経っていた。
思わず本に夢中になってしまったが、特にヒストリカから声を掛けられることもなかったのでついつい本に熱中してしまっていた。
「ヒストリカさん……?」
少し探せば、そこには変わらずに魔光石を光らせるヒストリカさんの姿があった。
「あら、光るようになって……」
そこで、彼女の異常性に、あるいは才能に気づいたのはドレディアの観察眼があってこそだろう。
(……動いていない?)
手も足も、何かもがドレディアが離れる前の姿から変わっていなかった。
土は砂一粒すら動いておらず、手は同じ位置から動かない。
視線は真っ直ぐに。
不動、と言っていいほどに。
(わたくしの声にも気づいていないんですの?)
ヒストリカの性格からすれば、ドレディアの声がすれば無視するのは悪いと思い多少なりとも反応を返すだろう。
実際、その考えに行き着いたドレディアの思考は間違っていなかった。
ただ、唯一違うのは。
(───恐ろしい程の、集中力)
人間の集中力は、一時間も持たないと言われている。
まして、初めての作業、それも立ったままともなれば疲労はたまり、より集中力は途切れやすくなる。
だが、ヒストリカはそれを数時間以上維持をしていた事を、ドレディアは見抜いていた。
(わたくしでも、いえ、他の誰よりも……)
そして、何よりも恐ろしいのはそこではない。
それに気づいた時、ドレディアは初めて恐怖すらも覚えた。
「嘘ですわ……どんどん、精度が増して……」
集中力には、質がある。
そして、本当の集中と言うのは経験値が違うのだ。
素振り一つでも、ただ振るうのと、どう振るったら今の素振りになったか。
いわば、ミスをしても、何故ミスをしたかの原因がわかる、無理に言語化するのであれば行動の可視化、だろうか。
わかりやすく言えば、時間毎に精度が上がっている。
時間毎に、あるいは分毎に、あるいは……秒ごとに。
(か、完全に自分が行った事を理解していなければと出来ませんわ……ヒストリカさん、あなたは一体……)
この時、彼女、ドレディアが多少なりともヒストリカに嫉妬と畏怖を覚え、そしてヒストリカが芽を出すのはそう遠い未来ではない事を無意識に悟った。
今日はあと2話投稿します。
次は10時ぐらいです。




