赤い三日月、星は見えず
今日は月が赤い。でも、星は見えない。風も生暖かい。こんな日は無性にムラムラくる。こんな日は見ず知らずの女を困らせたくなる。女が困った顔をしながら屈辱に顔歪めるのを見て、興奮を覚える。
バイクで走りながら、それとなく女を探した。20メートル先の方に自転車で走っている女を見つけた。俺は徐々に女に近付き、スカートの中に瞬時に手を入れ、下着から尻を触った。俺はそのまま走り去った。きっと屈辱と怒りと恐怖と悔しさとショックで震えているに違いない。そう思い、ミラーを見るとさっきの女が猛スピードで追いかけてくる。慌ててスピードを上げたが、自転車で追いかけているようには思えないほどの速さ。あっという間に追い付かれてしまった。顔を見ると、怒りが込み上げて、目まで赤くなっていた。
次の瞬間には、蹴りを入れられバイクごと横倒しになった。女の蹴りとは思えないくらいの強さで俺は3メートルほど吹っ飛んだ。行動の割に丁寧に自転車を止めて俺の上に覆い被さった。
「今日は赤い三日月。男は発情し、女は血と肉を求める…」
俺は一瞬期待した。肉を求めるならやっぱりセックス?ラッキー。と思っていた俺に女は、まず首筋に口づけをした。俺は更に期待した。次にそこから鎖骨に舌を這わせた。俺はぞくぞくして快感に身を委ねた。しかし、次の瞬間に女は思い切り歯を立てた。というか噛み付いた。そこから温い液体の感覚と、鉄の匂いがしてきた。それと共に痛みも増してくる。女はそこから血を吸っていった。
「な、何すんだよ!」
「痛いでしょう…?でも、そのうちそんなことどうでも良くなってくるわ…」
女はどんどん俺の体を食い千切っていった。俺は段々痛みが増していき、食い千切られる度に悲鳴を上げた。しかし、ここは滅多に人が通らない場所。それは俺が1番よく知っている。助けも呼べない。その間にもどんどん俺の体は女に食い千切られていく。その度に女はどんどん血を吸っていく。
「もう、痛くて痛くてしょうがないでしょう…?でも、貴方があんなことしなければ餌食にしなかったのに…。自分の行いを反省するのね」
そう女が言った時には、全身が鈍い痛みに変わっていた。出血量はかなりのものだったのだろう。貧血で頭がクラクラしてきた。更に女に血を吸われているため大分血は減っているはずだ。意識も薄らいできた。体中が生温かく、色んな所が風にさらされて、傷口に当たる。俺の体はもう既に至る所に歯形が付いていた。
「じゃあ最期に…甘〜い口づけを…」
と女が言うと、また首筋に口づけをした。しかし、今度は力強く思い切り肉を噛み千切った。その瞬間血が噴き出した。俺が血を噴き出している間に今度は本当に口づけをした。薄らいだ意識の中で唇の柔らかさを感じた。しかし、今度は唇を強引にこじ開け、舌を引き出し、舌を噛み切った。口の中に血が更に溢れた。俺はもはや血を噴き出す以外何も出来なくなっていた。女は歓喜の表情で俺に覆い被さり血と肉を貪っていった。俺は痙攣を起こし、女に押さえつけられながら、血を吸われた。満足したらしい女は
「…自業自得ね」
と言って俺を残して去って行った。俺はそれ聞いてから絶命した…。
目が覚めると、俺はバイクに乗りながら居眠りをしていた。車も誰も通らない道だったのと、幸い真っ直ぐ走っていたため無事だったらしい。それにしても、今の夢、妙にリアルで体中に冷や汗をかいている。
「ふぅ…。夢で良かった…。さて、帰るか。今日は赤い月が出てるけど夢見が悪いしな」
そう思い、家路に着くことにした。しばらく走っていると、さっき夢に出てきた道にさしかかった。嫌な気分が込み上げてきた。走っていると、20メートル先にさっきの夢に出てきた女に似た女が自転車で走っていた。
「まさかな…」
そう思って、さっきのことを思い出し、走り去ろうと決めた。10メートル、5メートルと近付いたが、女は一度俺を確認しただけで、後は何もなくただ走り続けていた。俺も何事もなく走り去った。
「ふう…。これで安心だな。そもそも夢だしな。気にすることないよな」
その直後、首に軽い痛みが走った。片手を離して触ってみると、そこだけ噛み切られたように皮膚がえぐれている。しかし、血などは出ていない。ただ痛いだけだった。ミラーで確認してみると、まるで三日月の様な形にえぐれている。
「さっきの夢と同じ場所…?でも、夢だよな…。そうだよ、単なる偶然だ」
そう思い、また気にせず走り始めた。
「それにしても、今日はやけに喉が渇くな。何か飲みたいな…。何て言うかこう、赤くて濃くて鉄の味がするもの…。そう、まるで血みたいな…」
赤い満月を見ると、妙な胸騒ぎを勝手に覚えるのですが、この胸騒ぎを何か作品に生かせないかと思い書いた物です。三日月にしたのは、偶然赤い三日月を見て、その時星が見えなかったので、赤い三日月と共に珍しいと思い、タイトルに使いました。