車の見る夢
僕はテロテ、車です。
もうすぐ10年です。
毎日毎日、雨の日も風の日も、暑くても寒くても、ご主人さまと一緒に過ごしています。
仕事にも、遊びにも必ず僕と一緒のご主人さま。
飛行機で遠出するときも空港までは僕が送ります。
「行ってくるね、待っててね。」
僕みたいな返事もできない車に向かって必ず声をかけて出かけていくご主人さま。
僕をとっても大切に思ってくれています。
だからこそ僕にテロテという名前までつけてくれました。
そんなある夏の日、赤信号で停まっていた僕。
そこにブレーキもかけないトラック。
僕は後ろから追突されてしまいました。
ガラスは粉々です。
後方は走るのも困難なほど潰れました。
でも運転席のご主人さまは軽い打ち身ですみました。
僕、がんばりました・・・・
だってそのまま押し出されたら横からの車が運転席に突っ込んでしまいます。
だから必死にブレーキにちからを入れました。
前輪のタイヤで踏ん張りました。
ご主人さまは救急車で病院に運ばれました。
大丈夫かな・・・・・心配です。
でも 僕 どうなるのかな・・・・
しばらくすると大きなキャリアカーがやってきました。
ぼくはそのまま乗せられて、家の近くの修理工場に連れて行かれました。
次の日、体調まいまいちのご主人さまがやってきました。
ぼくの姿を見て涙を浮かべてくれました。
「テロテ、がんばったんだね。おかげで軽いけがで済んだんだよ。テロテががんばってくれなかったら、
もっと大事故になって 多分死んでたって警察が言ってた。ありがとうね。」
僕はうれしかったです。
僕も早く治ってまたご主人さまを乗せるんだ~
ご主人さまは代車を貸してもらってそれで移動していました。
でも僕はいっこうに修理してもらえる様子ではありません。
まわりのくるまたちがいいました。
「おまえさ、まだ修理されないんだね。多分もうこれで終わりだよ。」
「そんなことない!きっとなにか理由があるんだよ!」
僕はちからいっぱい叫びました。
でも ほんとは不安でいっぱいです。
いつになったら治るんだろう?
いつになったらおうちに帰れるんだろう?
3週間がたちました。
懐かしいご主人さまがやってきました。
そして運転席に座りました。
エンジンをかけて、お!僕 走れるようです!!
ご主人さまは修理工場の人にあいさつをすると、運転を始めました。
そうです この道 懐かしいです。
ここを曲がるとおうちです。
あれ?曲がらない・・・
そうそうこの道をまっすぐいくと ご主人さまの会社です。
あれ?まっすぐじゃなくてちがうとこ曲がるんだね?
あ、そうです この交差点で僕はぶつけられてしまったんだ・・・・
ここを曲がるとご主人さまとよく買い物に行った道です。
あれ?ご主人さま?なんで泣いてるの?
鏡に映ったご主人さまは大粒の涙を流していました。
しばらくすると、新しい車のいっぱい止まっているところに着きました。
ご主人さまは僕から降りると、自動車屋さんのお店に入りました。
みんなピカピカの新しい車です。
ガラスが割れて 後ろがつぶれた僕・・・恥ずかしいです
だけど 僕だって10年前はピカピカの新車だったんだよ!!
しばらくしてご主人さまがでてきました。
そして僕の向かいの車に乗りました。
僕はここだよ!!!
どんなに叫んでも 新車の音でかき消されてしまいます。
ご主人さまはその車にのって帰っていきました・・・
ぼく 捨てられたんだ・・・・
でも 僕はちゃんと見てました。
最後に僕の方に向かって
「ありがとうテロテ
さよならテロテ」
そう言って涙を流してくれたご主人さまのこと
今度の車くん
ご主人さまを守ってね
ちゃんということ聞いて走ってね
僕は泣きながら見送りました。
もしも 自力で動けるものなら着いていきたいです。
でも車は一人では動けません。
そして僕は明日スクラップになるのです。
でも また新しい車に一部でもいい、再生されてもう一度ご主人さまを乗せたいな。
そう思うのです。
廃車たちは そんな夢をみているのです。