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ライス☆ハント  作者: 藤原ひろ
7/30

その7☆地面屋

 真冬の冷えた外気が頬を掠めて、身体が少し震えた。


リズミカルに白い息が前方で生まれては消えて行き、ふと俺は立ち止まって息越しに夜空を見上げる。


真冬の空は深夜の静けさを余す事なく吸収して、その黒をより一層際立たせている。他の色を寄せ付けない排他的な黒に散りばめられた星達が何かのシグナルみたいにチカチカと瞬いて唯一の音源のようだ。


五分ほど歩くと暗闇の中、煌々とした明りが見えてきた。俺は嬉しくなり、駆け足でその明りへと近寄る。そこは幼い頃から通っている古本屋だ。


嬉々とした顔で中を覗くと店の奥、古びた机とレジスターのところに、いつものように本を読みながらタクジさん(近藤拓司(こんどう・たくじ))が座っていた。刈り込まれた短髪に目立つ白髪がこの店と同じだけの年月がタクジさんにも経過した事を感じさせる。


『もう六十六になっちまったよ』


いつか、そう寂しそうに言っていた。俺の気配に気づいたタクジさんが、オウと笑顔で右手を上げた。

俺も笑い、頷いて店に足を踏み入れる。


「どうしたギン、こんな遅くに。珍しいな」


普段は週末の夕方にしか来ない俺にタクジさんは少し不思議そうな顔をして、読みかけの本を閉じると机の上に置いた。ヘヘッと笑い、ちょっと眠れなくて……と呟いてタイミングを見計らって、


『藤原伊織』とタクジさんの顔を見つめて言った。すると、すかさず『テロリストのパラソル』と返ってきて、今度はタクジさんが『東野圭吾』と言ってきたので『放課後』と俺は答え、『栗本薫』と呟くと『ぼくらの時代』とタクジさんが迷わず答えた。少しの間を置いて『中島河太郎』と言い、破顔する。


「ちょっと古くねえすか、それ」


俺も言うなり笑った。


「馬鹿野郎、記念すべき第一回乱歩賞受賞作じゃねーか」


キツイ言葉とは裏腹にタクジさんの笑みは濃くなって、嬉しそうに席を立つと店の一番奥にある本棚へと歩き、手を伸ばした。その笑みのまま振り返り、俺に一冊の本を差し出した。


「良かったら読んでみるか?」


視線を落とすと探偵小説辞典とタイトルが見て取れた。中島河太郎の本、現物を見るのは初めてだ。顔を上げた俺に、タクジさんはさらに優しく微笑んだ。安心感を形にしたような笑顔。こんな微笑が出来る男になりたいと思った。


俺は頷き、受け取るとタクジさんはまたお決まりの席に戻って読みかけの本を開いた。俺も店奥にある階段の一番下の段に腰掛けて読書に耽った。




時間は水が流れるように経過して、気が付くと外から薄い朝の光が店の入り口まで差し込んでいた。タクジさんがヨシッと言い、立ちあがると入口に掛かっていた営業中の木札をひっくり返した。


俺も立ち上がり、本を棚に戻して凝り固まった身体を解す感じで何回か伸びを繰り返していたら特大の欠伸が出た。

礼を言って店を出る時、


「なあ、ギン」


と、タクジさんが俺を呼び止めた。振り返るとタクジさんは一瞬、戸惑いの表情を見せて、でもまたすぐにいつもの顔に戻ると、


「またな」


と、優しく肩を叩いてきた。俺はなぜか分からないがとても寂しい気分になり、


「店、辞めないでくださいよ」


そう、思わず呟いた。何日か前、近所のおばさん連中がこの店はもう長くないと噂しているのを聞いたからだ。俺はタクジさんの目を見つめて強く懇願(こんがん)したが、曖昧に頷かれてタクジさんは店の奥に消えてしまった。


居心地の良いこの空間がいつまでも俺を受け入れていて欲しいと強く願った。


願えば願うほど、その思いとは正反対の現実になってしまう気がして息苦しくなり、力無い溜息が洩れる。


店を出ると外は白々とした空が広がり、一日がまた動き出そうとしているのが分かる。いつか見たような光景だ。遠くでカラスがうるさいくらい鳴いている。




 門扉を開けてポストから半分ほど出かかった新聞を抜き取って家の中に入り、テーブルに新聞を置くとリビングのソファーに(もた)れた。


室内は二つの意味で冷え切っていて、明りを灯していないこの部屋は薄暗く、まるで母体の中にいるような安堵感がある。徹夜した今の俺にはその静けさが丁度良かった。


「何だ、早いなもう起きたのか?」


その時を待つ胎児みたいにじっとしていた俺の耳に親父の不快な声が響いて気分が悪くなった。


親父の声は俺の心、身体の真ん中をザワザワとざわつかせる。不快、とにかく不快だ。


これはただの反抗期とか、そんなレベルを超えている。ゆっくりと大きく息を吐き出して黒い熱を持つ心のざわつきを排除した。


ざわつきの原因、親父は傍らに書類らしき物を携え、中年特有の肥えた身体に薄いグレーの寝巻を着用している。頭は寝ぐせで酷く歪んでいた。


おっさん丸出しだ。本当に社長なのだろうか?

(にわ)かには信じられない。お約束のように無視を続ける俺に親父はそれ以上何も言わず、自分の部屋に歩き出した。


自信が無い。親父と生きて行く自信は俺には無い。


もう一度息を吐いて気だるい身体で起き上がると洗面所へ行き、冷水で勢いよく顔を洗った。何度も何度も洗った。


親父との関わり、退屈な日常、刺激を見つける事が出来ない未熟な自分、

それらを全て洗い流したかった。刺激的な小説の世界に、俺は逃げ出したくなっていた。




自室へ行き、登校前にもう一度携帯を充電しておこうと取り出すとリコからメールが来ていた。


夜遅くまで俺の部屋に明かりが点いていた事が気になったらしい。

そう言われて初めて気が付いた。自室の照明が点けっぱなしだったのだ。


暫く考えた末、『ずっと、お前の事を考えていたんだ(笑)』と冗談交じりに書いて返信した。

驚く様子のリコの顔が浮かんで俺は微笑する。


時刻はまだ五時半過ぎで身体は重い感じがするが眠くはない。

カーテンを開け、窓も開けた。冷たい外気と透明な冬の光が部屋に溢れて一気に室内を朝に変える。舞い上がった細かな埃が光に反射して目の前で煌めいている。

その光景をぼんやり見ていた俺にカラスがまたカァーと鳴いた。



ほどなくして親父の車がガレージから出るのが視界に入り、俺は窓を閉め、だいぶ早いが制服に着替えた。登校に必要な物を一通り持ってリビングに降り、テーブルに目をやると先ほど置いた新聞が目に入ったので暇な俺はソファーに座ると久しぶりに新聞を読み始めた。


普通は一面から読むのだろうが、俺は昔からテレビ欄が掲載されている方から順に読む。この方が興味ある事柄をいち早く入手する事が出来るからで案外若者はこういう読み方をしているのかも知れない。


とんねるずの番組に出るゲストをチェックして、四コマ漫画を見て、ナンバーズはフクちゃんの誕生日が来て、サッカー日本代表がブラジルに惜敗した事を知り、突然辞任した首相がこれ以上ないくらいの批判的な言葉で攻撃されていて、イタリアでは今刺青が大ブームで、世界の経済は怖いほどマイナス用語が氾濫していた。


最後に一面記事に目を通すと四つに畳み、テーブルの上に投げると頭上に一回伸びをして俺は立ち上がった。時間はまだ十分しか経っていなかったがやる事もないので家を出る事にした。





 自動ドアが開くのと同時に、チープな電子音が俺を包んだ。


酷く眠そうなやる気の感じない兄ちゃんの『いらっしゃいませ』の挨拶を受けて、俺は入店した。


家から歩いて三分の場所にあるこのコンビニは近くて便利なのだが学校とは反対の場所に位置している為、平日の朝から利用するのは極めて稀だ。


おでんの香り漂う店内は朝一なのに大混雑で、お目当ての雑誌コーナーは大学生のアンチャンや若いサラリーマンがずらりと立ち並んでいて、どこかサッカーのFKを彷彿とさせる光景で俺は少しイラッとしてしまい、顔を(しか)めて黄色いカゴを手にすると雑誌コーナーとは逆側のドリンクコーナーへと歩き、最近ハマっている豆乳を二パック取ってカゴの中に入れた。


次にベーカリーコーナーで朝飯のハムサンドとチョコクロワッサンをそれぞれ一つずつカゴに入れ、最後に気合いを入れてFK戦の中に飛び込んで行き、マガジンとモーニングを見事救出した。


合計九百五十二円を支払い、店を後にすると近くの児童公園まで歩いた。


公園は水を打ったように静かで俺は入口奥にある赤いベンチに深く腰を下ろす。早速モーニングを開き、バガボンドの武蔵を見つめながら買ったばかりの豆乳とハムサンド(二個入り)を取り出して齧りついた。東の空は薄雲の切れ間に太陽光が当たり、絶妙なグラデーションを起こしていて、それはとても美しく、俺は早起きもたまには悪くないなと思った。


遠くから始発電車の動き出す音が聴こえてきて街や人が活動する熱を感じる。


豆乳を飲みながらそう考えていると、ふと何かの視線を感じた。短い時間、視線の出所を探すとこのベンチから約二十メートルほど離れたところにある四基並んだブランコの一つに、いつの間にかおっちゃんが座ってこちらを見つめている。遠くて良くは見えないが酷く細い目だ……と思った。


遠目でも分かるくらい、そのおっちゃんは服がボロボロで髪は肩まで伸び、一目でホームレスと認識する風体をしている。俺が軽く会釈するとおっちゃんはゆっくり立ち上がり、のそのそとした足取りで近づいてくる。


「兄ちゃん、旨そうなの食ってんなぁ」


無精髭を完全に通り過ぎた髭だらけの顔、垢で黒ずんだ皮膚が異様だった。黒い仙人みたいだと感じた。

前歯が一本抜け落ちた口がその顔に幾らかユーモラスを加えている。


「あぁ、良かったら……飲みます? 豆乳」


袋から豆乳のパックを取り出しておっちゃんに放った。豆乳は緩やかな放物線を描いておっちゃんの汚れた両手に吸い込まれる。ナイスチャッチ。


「悪いけどよ、それもくれねーか?」


おっちゃんは袋から半分出ていたチョコクロワッサンを目敏(めざと)く見つけ、指差した。そのずうずうしさとチョコクロワッサンが上戸彩の次に大好きな俺はちょっとだけ戸惑ったが、困った時はお互い様だな……と思い直し、素直にそれを差し出した。おっちゃんは、


「ヘヘッ、悪いな兄ちゃん」


と、力無く笑い、パンを受け取るとヨッコラセと声を出して俺の横に座り、すぐに豆乳とチョコクロワッサンを食べ始めた。モーニングを読んでいる俺の傍らでおっちゃんは何度も、


「こりゃ、洋風だな」


と呟いていた。

バガボンドを読み終わり、マガジンを手にとってページを捲る。数分が経過してはじめの一歩に差し掛かった時だった。


「親とあんまり上手くいってねえようだな、兄ちゃん」


そう、おっちゃんが言葉を吐いた。

えっ? と少し驚いておっちゃんを凝視する。おっちゃんは俺の目を見つめてその先を続ける。


「……父親の方だなこりゃ。昔からだ」

「何で分かるんすか」


そう尋ねるとおっちゃんはニヤリと笑んで得意気に答えた。


「俺はよ、北九州出身だからな」


何の事か全然意味が分からなかったが会話を中断させたくなかったので、取りあえず俺は、


「ああ、なるほど」


と、相槌を打った。おっちゃんは嬉しそうに笑んだ。


「なあ、兄ちゃん、地面屋って知ってるか?」


いきなりそう訊かれて、俺は首を横に振った。初めて聞く熟語だ。


「ジメンヤ? なんすかソレ」


訊き返すとおっちゃんは黙ったまま右手を伸ばし、滑り台の向こうにある煉瓦(れんが)造りの公衆便所を指差した。便所の壁には近所の悪ガキが書いたのだろうと思われる落書きが所狭しと(ひし)めき合っている。


「アレがよ、俺の飯のタネなんだよ」

「壁を掃除するって事っすか?」


おっちゃんは静かに顔を左右に振る。汗の()えたような匂いがした。


「アレ書いたの、誰だか分かるかい? 兄ちゃん」


俺は再び、壁に目を向けた。誰だと言われてもアルファベットを崩しただけの文字とも呼べない物がただ羅列しているだけにしか見えない。唯一分かりそうなのは右端の一番下のところにある、♂と♀のマークに似た模様くらいだ。


「近くに住んでるチーマーとかじゃないんすか?」


おっちゃんはフフッと笑った。柔和な笑顔、春の日溜まりのようだ。


「普通そうだ、近所の馬鹿が書いたんだろうってな。本気で犯人捜そうって奴はいない。

 関係ねえもんな、そんでいつもの日常に戻って行く」


おっちゃんは『普通はな』とまた言い、無精髭を指先で弄んだ。その表情は朝に呼応して穏やかだったが俺には何にも媚びずに生き抜いてきた男の人生が反映しているように感じた。


「もしかして分かるんすか? アレ誰が書いたか」

「……まあな、ここら一帯の公園は俺の庭だからな一目瞭然よ。アレはな、最近出てきた『跋折羅(バサラ)』っつー奴らのマークだ。文字の終わりに♂と♀の印が重なってんだろ? 跋折羅っつーのは梵語でエロティックな怒りの神々っていう意味合いがあるからそれにひっかけてんだろうな、まあ間違いねえ」

「へー、そうなんすか。さっき言ってたジメンヤでしたっけ? ソレと何か関係してるんすか」

「地面屋っつーのは正義の味方さ、少なくとも俺はそう思ってる。まあ分かりやすく言えば書いた奴見つけてオオゴトにしてやるのさ。不良の家ってのは意外と親は真面目で中流以上の金持ちが多いんだよ、そんな連中は世間体を気にするんだ過剰なくらいにな。ちょっと揺らせばすぐだよ、街は綺麗になるし、俺の懐は温まる。一石二鳥だ」


俺はまた、ヘーッと感心した声を上げた。おっちゃんが発する言葉、一つ一つが新鮮で面白い。

このおっちゃんをもっと深く知りたいと思った。知る事で昨日までとは違う自分になれそうな気がした。


「でも、何か危険そうっすね」

「まあ、危険が全くないと言ったら嘘になるけどな……ちょっと見てろよ兄ちゃん」


おっちゃんはそう言うと(おもむろ)に立ち上がり、一番近くの落葉樹まで歩くとつま先で木の幹をコンと蹴る。落葉樹は軽く揺れ、一呼吸おいて枝に下がっていた枯れ葉がユラユラと落ちてくる。


葉がおっちゃんの頭付近から肩に差し掛かった時、それまで細かったおっちゃんの双眸が力強く見開かれ、柔らかく握り込んだ両拳が胸の高さまでスイと引き上げられる。


その瞬間、拳がブシッ! と言う凄まじい音を放って的確に枯れ葉を捉えた。衝撃で枯れ葉は粉々になり、視界から消えた。素人の俺が見ても分かる、素晴らしいワンツーだった。


「ス、スゲー……」


自然と、そう言葉が洩れた。

訊くところによるとおっちゃんはライト級の元プロボクサーで日本ランキング三位まで昇りつめた実力者だった。当時、国内屈指のハードパンチャーでパンチ力があり過ぎた為に利き腕の拳を痛め、引退したんだと俺に教えてくれた。


「シニアの部があれば、今だったら世界も夢じゃねーのになぁ」


そう言っておっちゃんは笑った。細い目が一段と細くなる。

目尻に刻まれた深い皺が波乱の人生の歩みを感じさせる。少しの時間、俺はそれをカッコイイと思った。


「おーい、ギン」


目尻の皺を見つめていた俺はそう呼ばれて声のする方を振り返った。

拍子に膝の上に置いていたマガジンがバランスを崩して地面に落ちる。道路側の入り口のところに、フクちゃんとニイの姿が見え、こっちに向かって手を振っている。


「おう」


と、俺も手を振り返した。


「福田聡と新山正樹か……」


地面に落ちたマガジンを拾うとしていた動きをその言葉が制止した。驚いて顔を上げる。


「何で知ってんの? おっちゃん」


おっちゃんは俺の問いには答えず、フクちゃん達を見ながら豆乳をチュウと一口吸った。


その顔は今までとは全く違う表情だった。うまく言い表す事が出来ない、何と言うか『裏の顔』と言ったら良いのだろうか? その迫力に俺は唾を飲み込んだ。


「ギン~何してんだ、遅刻するぜ~」


登校を促すニイに、


「ワリー、先に行っててくれ」

と、俺は告げた。


眼はおっちゃんから離せない。胸の鼓動が(いささ)か速く波打っている気がした。フクちゃん達の姿が見えなくなるとおっちゃんはまた柔和な笑顔に戻り、


「地面屋の癖みたいなもんだよ兄ちゃん、まあ気にすんな」


と、呟いてまた豆乳を美味そうに吸った。


「ジメンヤの癖? それって何――」

「情報が命って事さ。ホームレスって奴はな兄ちゃん、文字通り家はねえし金もねえ。あるのは膨大で自由な時間くらいなもんだ。その時間を情報収集に費やすんだよ、ここら辺で書き物しそうな悪ガキの情報は特に高く売れるんだ」


おっちゃんは俺の言葉を遮ると一気にそう喋り、意味深にニヤリと笑んだ。右手の親指と人差し指で(えん)マークを作り、俺の顔を無遠慮に見つめ、また口を開いた。


「実は兄ちゃんの事も知ってんだ、米倉銀亜って言うんだろ?」


驚いて、おっちゃんの濁っている黒眼を見返した。先の見えない洞窟の前に立っているような、不安な感じが生まれて身体が少しざわつく。


口を開こうとした時、おっちゃんは左手首に巻いていた安物の(恐らく)腕時計を右手の指先でトントンと二回、叩いた。


「ところでイイのか兄ちゃん、時間じゃねーのかい?」


ブレザーのポケットから携帯を引っ張り出して液晶画面を開き、時刻を確認する。

いつもならこの公園の前を通っている時間だ。軽く舌打ちをして雑誌と食べかけのパンを鞄に突っ込み、ゴミを近くの屑カゴへと投げ入れた。


「俺もう行きますんで」

「おう、俺はよ土日以外ならここにいるからよ。また来てくれよな」


おっちゃんは最後に熱いロシア式の抱擁を求めてきたが、さすがにそれは出来なくて断ると俺は軽い会釈をした。

足早に公園を出て行く背中に向かって、


「兄ちゃん良い男だな! 地井武男の若い頃にそっくりだー!」


と、おっちゃんは大声で微妙な賛辞を贈ってくれた。


その声が聴こえた頃にはもう走り出していた。


腕を鋭角に振り、膝を限界まで高く上げて、アスファルトを目一杯蹴り飛ばして引力に逆らった。

ぐんぐん加速する身体が気持ちいい。

昨日よりも速く走れそうな気がしていた。















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