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妖精の尻尾  作者: 黒崎メグ
本編
25/34

六話 店長【1】

 エドワードの不安を掻き立てたやりとりの後、ルーはこの知らせを妖精達(なかま)に知らせるために、早々に店を出ていってしまった。

 ルーの旦那に掛かれば一日で、世界中の妖精達(なかま)に知らせが届くだろうな、と言って彼を見送ったディランは、今は椅子に座り、今朝エドワードがそうしていたようにテーブルに頬杖をついている。

 エドワードは、結局ディランと二人で店長を待つはめになってしまったのである。しかし、子供を送って行った当の店長は、一向に帰ってくる気配がない。

 病院はここからさほど遠くない所に位置しており、大通りを西へ、大聖堂の丸い屋根を目印にして歩いて行けば、子供の足でも三十分は掛からない。子供を送り届けるだけであれば、一時間もあれば事足りる。それでも、店長が帰ってくる気配がないのは、おそらく子供の両親にでも引き止められているからなのだろう。

 店長が帰って来れば少しは不安を拭えただろうが、不安を抱いたまま、エドワードはディランが腰かけている商談用のテーブルの向かいに腰を下した。

 すると、ディランが思い出したように口を開く。

「なあ……」

 極力目を合わさないようにしていたエドワードは、掛けられた声に渋々意識を向けた。その動きに合わせて、椅子が嫌な軋みを上げる。

「何でしょうか」

 エドワード自身、その声音が決して相手に良い印象を与えないだろうことは予測ができた。しかし、それでも、その気持ちを隠すことはできない。ディランもそれを感じて、眉を寄せたが、そのことに触れようとはしなかった。代わりに、右腕一本で頭を支えた状態でエドワードを見詰め、言葉を続ける。

「お前は、どうして兄貴のもとで働くことになったんだ?」

 言われて、エドワードは店長との遣り取りを思い出した。

「ディランさんがお休みしている間の手伝いが欲しかったからではないでしょうか」

 最初、エドワードは、店長に頼んだものに見合った額を支払うつもりだった。しかし、金の代わりに店長は労働力の提供を求めたのである。その理由として、エドワードが考え付くのは、ディランのことしかあり得ない。だが、当のディランはエドワードの考えを否定した。

「違うな。俺は今まで毎年この時期に休みを取ってきたけど、一度として兄貴が俺の留守中に他の奴を雇ったことはなかったぜ」

「だったら、どうして店長が僕なんかを雇ったと言うんですか」

 こういっては何だが、エドワードはお坊ちゃん育ちである。このような店で働いたことなどないし、雇ったところで戦力になるとは思えない。だからこそ、エドワードは、ディランが抜けた穴を埋めるために、気休め程度でも労働力が欲しかったのだという考えに至ったのだ。

 訝しそうに目を細めたエドワードに対して、ディランもまた困ったように苦笑した。

「そう突っかかるなよ。きっとお前は兄貴に気に入られるようなことをしたんだ、と俺は思うぜ。思い当たる節はないのか?」

 思っても見なかった返答に、エドワードは目を瞬かせる。思い当たる節というほどではないが、もしディランの言葉が真実なら思いつく出来事は一つしかない。

 エドワードが店長と知り合う切欠となった出来事、まさにそれだ。しかし、あの日あったことを、エドワードはあまり思い出したくはなかった。店長との出会いは確かにエドワードにとって宝といえるものであったし、その事だけをとってみればよい思い出である。だが、あの日のような思いはもう懲り懲りだという気持ちも心の内に強くあった。

 それでも、心のどこかに引っかかりを覚える部分は確かにある。そう感じてエドワードは、自らの胸にそっと効き手を添えた。掌を通じて、不安に脈打つ鼓動が伝わってくる。

 そういえば、今店長を待ちながら感じている不安は、あの日抱いていた不安に似ている。これは、何かを失いそうな時に抱く、限りない恐怖だ。その考えに至った時、エドワードの思考はもう既に、あの日の出来事へと向いていた。





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