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妖精の尻尾  作者: 黒崎メグ
本編
15/34

三話 配達業者【4】

 


 愛? フェリシアからの手紙でも受け取ってきたのだろうか?

 だが、少女は、フェリシアに断りを入れていないと断言したばかりだ。

「うーん、なるほどね。そういうことか」

 困惑するエドワードを余所に、店長は納得したように声をあげる。

「なるほどって、店長はわかったんですか?」

 ルー達の時のように自分だけ蚊帳の外で、なんだか納得できない。エドワードは声に苛立ちが混じるのを感じた。店長はいつもの調子を取り戻したのか、悪戯を思いついた子供のような表情を浮かべている。

 その表情に更に苛立ちを募らせかけて、だがそこで、エドワードははたと気が付いた。店長がこれだけ飄々とした態度がとれるのは、いつもある条件が揃った時ではなかったか。

「今日はフェシリアって子の温室に行ってきたんだろ? じゃあ、もう予想はついたんじゃないのかい?」

 店長の言葉に少女をじっと見つめ、エドワードは今朝の情景を脳裏に思い浮かべた。

 燃えるような鮮やかな赤毛、そして生き生きとした緑の瞳――。その〝あか〟と〝みどり〟を、エドワードは確かに目にした覚えがあった。フェリシアに案内された温室で、それは艶やかな姿を披露していたではないか。

薔薇(ローズ)……」

 意識せず唇からもれた呟きに、少女は嬉しそうに笑った。庭師に手伝ってもらいながらも、フェリシア自らの手で育てた、と言っていたあの温室の薔薇達――。彼女が彼の薔薇であるなら、姿が似るのも頷ける。

(わたくし)は、ロージー。フェリシア様がお育てになった薔薇の精にございます」

 ちょんっとスカートの裾を摘まんで、薔薇の精が(こうべ)を垂れる。その姿はなんとも愛らしい。それを目にした店長が目を細め、口を開く。

「うーん、愛の配達人に相応しいねぇ」

 その賛辞に、薔薇の精はエドワードに向き直り、どこか誇らしげに姿勢を正した。

「それでは、エドワード様。私から、お伝え致します。この花ことばを――」


 ――あなたを愛しています――


 薔薇の花ことば、それは愛の言葉だ。

 エドワードは顔が熱くなるのを感じた。鏡をみれば、きっと顔を真っ赤にした姿がうつるに違いない。薔薇の精は、その様子に満足そうに目を細め、優しい声で言った。

「フェリシア様はあのように奥手な方。それでも、エドワード様に気持ちをお伝えするためにお育てになったのです」

「エドワードは本当に愛されているんだね」

 店長が横槍を入れたが、エドワードは怒る気にはならなかった。綺麗な手を傷付けてなお、薔薇を愛おしそうに見つめるフェリシアの姿を思い出したからだ。

 無性にフェリシアに会いたい気持ちが込み上げてきて、エドワードは声を張り上げた。

「店長!」

「あー、はいはい。今日はもうあがりでいいよ」

 察しのよい店長のお許しが出て、エドワードは黒いエプロンを脱ぎ捨てた。薔薇の精が再度、店長に頭を下げて踵を返す。その後を追うようにカウンターを出たところで、

「あ、待って、エドワード」

 と店長に呼び止められた。エドワードが振り返ると、店長がことりと音をたててカウンターに小瓶を置いたところだった。

「お土産だよ。持っていきな。蜜蜂達の集めた愛の味さ」

 中に詰まっているのは、甘い甘い薔薇蜂蜜(ローズハニー)であった。






三話 配達業者(完)

今回は、ようやくエドワードが活躍できたかな。これにて、三話は完結です。

感想など、お気軽に残して頂けると嬉しいです。

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