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霊界電話

作者: 露(つゆ)
掲載日:2026/04/14

「ねえ、『霊界電話』って知ってる?」

「ああ、死んだ人間と電話できるっていう公衆電話」

「その公衆電話がね! 大学の近くにあるかもしれないっていう噂があるの!」

「そんな事よりカラオケ行かね?」

 そんな他愛もない大学生の噂話を聞いていた者がいた。


 遠藤 凛音(えんどう りんね)は普通の大学生だった。普通に友達と遊び、普通にお洒落をし、そこそこ勉強もし、普通に恋をした。

 その「普通」が壊れたのは半年前。恋人の川辺(かわべ) (わたる)が交通事故で死んでから。

 それから凛音は生きる意味を見失った。ただただ惰性で日々をこなしていた。渡の事を思い出して枕を濡らした。

 そんな時に聞いたのが「霊界電話」の噂。凛音に試さないという選択肢はなかった。

 夜、噂の場所に行けばぽつんと公衆電話があった。凛音は公衆電話の扉を開ける。噂の時間、噂の手順。震える手でそれを試し、受話器を耳に当てた。そして数回のコール音の後……。

『凛音……?』

 受話器から声がした。機械音だが、それは紛れもない渡の声で。

「わた……る?」

『えっと……久しぶり』

 照れくさそうな渡の声に凛音は涙を流した。

「わたるぅ……!」

 渡は凛音が落ち着く様になだめる。渡は変わらない。凛音はそう思った。


「うん、うん。それでね、今日の授業でね……」

『えー、それは災難だったねー』

 あれから凛音は毎日霊界電話で渡と話している。なんでもない話。渡が生きていた頃と同じ様に下らない事を言い合った。

 しかし……。


「遠藤……なんかやつれてねぇ? 大丈夫か?」

「ん……え?」

 講義の合間に友人の世見(よみ) 国雄(くにお)が話しかけてきた。国雄は渡とも友人であり二人の事はよく知っている。

「最近夜に頻繁に見かけるとか聞くし……。変な事やってねぇよな?」

 そんな国雄に凛音は笑顔で言う。

「私ね、今すっごく満たされてるの」

「え」

 凛音はそれだけ言った。国雄はそれ以上何も聞かなかった。


「でさー、霊界電話はね……」

「お前またその話? 好きだねー」

「いいじゃん! で! 霊界電話は使い続けると自分もあの世に連れて行かれちゃうの!」


 凛音はいつもの様に霊界電話を使った。渡の声がして嬉しそうに話をする。

「渡! あのね……」

 すると渡は真面目なトーンで言った。

『凛音……もうこんな事止めよう』

「え……」

 凛音は渡が何を言っているかわからなかった。

『霊界電話の噂は知ってるでしょ? このままだと僕は凛音の事連れて行かなきゃいけなくなる』

 しかし凛音にとってはそんな事は些事で。

「いいよ。私、渡とずっと一緒にいたいもん」

 それでも渡は続ける。

『凛音の事を大切にしてくれている人がいっぱいいるから』

 その時、凛音は気配を感じて受話器を当てたまま振り返る。


「この世の者じゃない奴が電話ボックスの周りに来たら絶対開けちゃダメ。連れていかれるから」


「わた……る……」

 半透明の渡は困った様な顔をして口を動かす。

『たまに思い出してさ、笑ってくれればそれでいいから。それで、僕は幸せなんだ』

 凛音は電話ボックスの扉に手を触れる。その時。

「遠藤から離れろ!」

 バシィ! という音がしたと思ったら渡はすうっと消えた。

「世見……くん……?」

「遠藤! 大丈夫か!?」

 国雄は扉を開ける。

「なんで……ここに……?」

 凛音がそう言うと国雄はバツが悪そうに人差し指で頬を掻く。

「お前の様子が心配だったから悪ぃと思ったけどあとつけた」

「さっきのは……?」

「ばぁちゃんから貰ったお守り。いっつも持ってるからとっさに」

「なんで……そんな事するの……?」

 凛音の言葉に国雄は少し言いにくげに、だがはっきりと述べた。

「お前が……大切だから」

 そう、顔を真っ直ぐ見つめられて、凛音は渡の言葉を思い出した。

『凛音の事を大切にしてくれている人がいっぱいいるから』

 そうか、そういう事か。自分の事しか見えていなかった。まだ……生きなくては。

「世見くん……」

「ん?」

 凛音は涙を流して微笑んだ。

「ありがとう」


 後日、凛音と国雄は渡の墓に手を合わせていた。目を開けると国雄は気まずい風に伝える。

「お守り投げつけてごめんって謝っといた」

「たぶん渡は気にしてないよ」

「そうか?」

「うん」

 二人は片付けをして墓場を歩く。

「この後、デートどこに行こっか?」

 国雄は決まり悪い様子で口を開く。

「本当にいいのか? 俺で」

「世見くんだから」

 凛音にそう言われ、国雄ははにかんだ。

 凛音は空を見上げる。

「(ねぇ、私、生きるよ。いつかそっちに行くその時まで見守っててよ)」

 晴れ渡った空にそう告げ、凛音は国雄の手を取った。

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