第4話 私の自慢のお姉ちゃんですが?
下十条スズラン、下十条家長女で次女な私こと下十条ユリの一歳年上のお姉ちゃん。
テストでは常に全教科で学年一位を維持し・文芸や美術のコンクールでも入賞多数、スポーツにおいても特定の部活に所属してはいないものの運動部の強力助っ人として頼られることも多い、まさに文武両道。
中学校の頃から生徒会役員・生徒会長を経験してのこの茜森高校でも生徒会長を完璧にこなす人。
容姿に関しても間違いなく美少女で、高身長スレンダーとしなやかな黒髪ストレートなロングヘア―で、お顔も美形な両親の遺伝子が強く出ていて……クールビューティ美人!
人望も厚く多くの生徒・教師などから慕われる私の自慢の姉だ──憧れの人だ。
……いや、憧れの人というのは私ごときが姉に好意を抱いているとかではなくですね!
そう、人間的に尊敬しているというか理想の女性というか強火ファンみたいなもの、いわゆる推し。
私だけのお姉ちゃん……とかでもなく、同担歓迎というか、むしろお姉ちゃん推しとわかりみを共有したいとかそんな感じで。
そんなお姉ちゃんと他の女子の絡みとか見れれば最高にごちそうすぎてご飯三杯は余裕、お水もおいしい。
でも、どういうわけか慕われているし憧れられてもいるお姉ちゃんだけど、他の生徒どころかクラスメイトと特別親しくしている様子を私は見たことがない。
必要以上には寄せ付けていないというか、隙を与えていないようで、一線を引いているような……。
友達がいないわけじゃないと思うんだけどなぁ……隠れて付き合ってる女子がいる! とかだったらなかなか私的には燃え萌えだけど、そういう気配はないしなぁ。
仮というか仮定として、もしも・まさか・万が一に異性との付き合いなら? ……………………お姉ちゃんが幸せならいいと思う、お姉ちゃんの幸福を祝うよ──もし見た目だけ好きとかデリカシー無し・浮気してる・下心しかないようなやつだったらつぶす。
悪い女と付き合った場合なら? …………程度によるけど、それで不幸になるのならお姉ちゃんと話し合ってみるかもしれない、けどお姉ちゃんの意思は尊重したいんだよねぇ──私にとっての義理の姉と妹が増えることはやぶさかでないですよ。
……まぁ色々言っている私はそんな憧れのお姉ちゃんにとっての自慢の妹にはなれてないと思いますけどね。
次女の私は成績中の下・運動微妙・クリエイト方面とかもびみょう。
容姿は一言で言えば芋、スタイルは単純に貧相で背もちっこいし髪もくせっ毛が強い栗色だし……本当に私たち姉妹か? って陰で誰かに言われてるに違いない、確かに私の髪の色やクセっ毛具合は《《私の母》》寄りだけど。
学校寮暮らしで実家に住んでない妹のアヤメもカワイイ系とはいえお姉ちゃん似なんだよなぁ──私とは?
でもお姉ちゃんとアヤメが一緒にいるとめっちゃ華があるというか、神々しささえあるというか、美しさと可愛らしさの大洪水というか、二人がいるそこはもう天使たちの触れ合い空間というか……それが見える私は天国にいるのか? それでもいいか。
ようは姉妹百合っていいよね!
* *
それはとある朝のこと。
「おはよう、ユリ」
「おはよう、お姉ちゃん」
寝起きの私がまだ半覚醒状態・ルームウェア姿のまま居間にぴたぴた歩いていくとお姉ちゃんもとい姉の下十条スズランが食卓テーブルの前に座ってこちらを見ている。
生徒会や部活の助っ人やらで早く家を出て学校に行くこともそこそこあるお姉ちゃん、今日この時間に居間にいるということは一緒に登校出来るのかもしれない。
妹としてお姉ちゃん好き好きな私としては一緒に学校に行けるのは正直めちゃくちゃ嬉しいし、朝食を待ってくれていたようで……悪いなぁと思いつつやっぱり嬉しくなってしまう。
「髪梳かすからこっちきて」
「ふぁい」
私の就寝時にナイトキャップを付けてもハネまくるクセっ毛はいつものことで、基本的に私は鏡の前で悪戦苦闘していることが大半なものの、たまにこうしてお姉ちゃんが髪を梳かしてくれる日がある。
……あまりにひどいから見かねて言ってくれてるだけかもしれないけどね! でも嬉しいんだよ!
ともかく、お言葉に甘えるようにお姉ちゃんの隣の席に座って背を向けると、お姉ちゃんはどこからともなく取り出したヘアブラシで私のクセの強い髪を梳かしはじめてくれる。
「…………」
優しく・丁寧に引っかかることもなく髪を梳いてくれる、基本的にお姉ちゃんはお喋りというわけではなく無言の時間も割とある。
それでもこの無言の時間が私にとっては嫌いじゃなかった、むしろ安心するというか心地良くもあり。
お姉ちゃんにとって無言の今はどうなんだろう? 私も別に話上手なわけじゃないからね……。
「おわり」
「ありがとう」
「手洗ってご飯にしましょう」
「はーい」
二人手を洗いに行ってから、家をもう出ているらしい親が準備してくれた朝食を二人で食べ始める。
「「いただきます」」
食事時をもくもくと食す、会話はないけどそれでいい。
私もお姉ちゃんをじっくりと眺められるから良い……箸使って朝食を口に運んでいるだけなのに所作が美しすぎて宗教画ばりの神々しさを感じる、お姉ちゃん教があるなら入りたい……年会費いくらになりますか?
「ケチャップ付いてる」
「ほんと? どこかな……」
「ここ……取れた」
私の口元についていたであろうケチャップをティッシュで拭ってくれる……最高か~? もうわざと付けておこうかな。
「わざとはやめなさいね」
「……はい」
「次は舐めるわ」
「……え?」
「冗談よ」
こうしてたまに冗談 (?) を言うお姉ちゃん好き~。
ま、まぁたまにドキっとしちゃいますけどね! 不相応にも!
そうして身支度を終えて家を出ようとする。
「リボン曲ってる……これで大丈夫ね」
「ありがとー」
意識してなかったけどタイが曲がっていらっしゃってよ的激熱シチュ! ……私が相手だと思うとシュンとなるけど、他の女子とのそういう絡みなら是非見たい。
「ユリとアヤメ以外は自分で直してもらうわ」
「……え?」
「行きましょうか」
聞き間違いじゃなければ姉妹限定らしい、お得だぜ! なら私はアヤメ相手のお姉ちゃんを期待しよう。
「…………」
登校していても会話はない、でもそれでいい。
時々合法的にお姉ちゃんの凛とした横顔を堪能出来てHPが回復する、美人の顔はずっと見ていても飽きないものだなぁ。
そんな私の視線に気づいてか、お姉ちゃんはこちらに顔を向けて聞いてきた。
「何かついてる?」
おそろしく整った目鼻口がついてる、それはもうキレイなパーツで構成されていますよ……という率直な・それでいて大間違いな返答は出来ないので、同時に考えていた別の気持ちを言葉にしてみようと思う。
「お姉ちゃんは今日もキレイだなって」
いつも思っていることだけど、間近で・比較的長い時間見るこういう機会だと改めて意識してしまうもので。
するとお姉ちゃんは珍しく表情筋をピクリと動かしたあと、前に向き直ってから──
「…………他の女子にはそういうことを軽々しく言わないように」
「はーい」
私なんかに褒められても嬉しくないですもの……ということはお姉ちゃんにとっても余計なお世話的な? 不快にさせちゃったかなぁ。
「……そういう意味じゃないのだけど」
「え」
「なんでもないわ。上機嫌よ」
「上機嫌なんだ」
ならよかった……。
というかさっきから私の思考読まれてる気がする……お姉ちゃん力があればそれぐらいお見通しか! さすがお姉ちゃんだぜ!
上機嫌ついでに昔話をしてみよう。
「昔はお姉ちゃんとよく手繋いだね」
「昔のユリは目を離すとどこかに行きそうになるから、繋いでおかないといけなかったわ」
「そうかもー」
昔の私は今ほど陰キャ寄りではなかった気がする、良くも悪くもガキで走り回って・多くの人と触れ合い・時には迷惑をかけてきただけなのだ。
別に何か大きな出来事があって今の私がいるわけじゃない、ただ冷静に自分を客観視できるようになっただけで。
今は見ていることが・見ているだけが幸せなんだと気づいてしまっただけで。
でもちょっと懐古、何も知らずにお姉ちゃんを振り回してでも手を繋いでいたあの頃も間違いなく幸せで。
だから思わず──
「……たまには繋いでみる?」
なんて冗談めかして言ってみたりして、そういう歳じゃない・登校中だからやめておくわ……などと否定される流れも想像をしていた。
「……ユリが構わないならいつでもいいわ」
思わぬ返しで私の方が驚いてしまう……え、いいんだ?
お姉ちゃんのその返答じゃなければ「やっぱり冗談だよ」とも言えたかもしれない。
でもお姉ちゃんが良いなら、たまには甘えても許してくれるだろう──
「わーい」
「っ!」
私よりちょっと大きいかな? 手まで細く締まった感じが伝わってくる。
握り返してくる手は久しぶりながらも”お姉ちゃんの手”で、昔を思い出して安心する。
「今日は手を洗えないわね」
「え?」
「冗談よ」
お姉ちゃんが洗えないんだったら私も洗えないんですけど~!
関係は今も悪くないと思ってるけど、昔の私がもっと感情を出してお姉ちゃんと過ごしていた頃を思いだして、懐かしく・ちょっと嬉しくなった。
「お姉ちゃんと手つなぐなんて羨ましい……っ!」
その時ある場所で、姉妹を見つめる目と思わず漏れた声があった──
<カクヨムでも連載中>
姉妹百合もあります。




