第27話 私に都合のいいユリ・夢 <スズラン視点>
部屋着に着替えて枕を抱いただけの私は、最低限に髪を乾かしただけなのでいくらか肌には水滴が残っているし、入浴してからずっと身体はぽかぽかを通り越して熱を帯びているし、いつもよりも呼吸が粗く・早くなっている気さえする。
そんな明らかに正常でない私は今すぐにでもユリに会いたいと思って、顔を見たいと思って、一緒にいたいと思ってしまったの。
そしてユリの了解を得て部屋の扉を開けると私と色違いで柄がお揃いのルームウェアを着たユリがいる。
姉妹でお揃いなものは昔から嬉しかった、今は同じものに身を包まれているという幸福感が強いわ。
それでどうして今日私が唐突にもユリの部屋を訪れて一緒に寝ようと提案したのか、考えなければならない。
その理由付けを・違和感のないアンサーを。
ただ目の前のユリが、明日の病院に緊張気味なのか少し目が冴えたようなユリが可愛らしい。
昔からイベントのある前日はなかなか眠れない子だったわね、それが愛しい、好き。
そう意識を奪われて私は言葉が出なかった、だからユリに疑問を抱かせた──
『……お姉ちゃん?』
どうしたの? 大丈夫? 的なニュアンスを含めて首を傾げただけなのだと思う。
それでも私はその何気ない仕草にハートを撃ち抜かれたような衝撃を受けて、かわいいかわいいかわいいかわいいかわいい。
そして官能的だった。
今のこの部屋にいるのはユリと私だけ、今だけはユリと二人きり、この瞬間だけはユリを独り占めに出来る。
私は気づけばユリをベッドに押し倒していた、彼女の栗色の髪の横のベッド上に手を付くようにして至近距離で見つめ合う。
間近で見てもユリは可愛らしい。
最近は前髪で隠れがちなのがもったいないけれど、ちゃんと見れば愛らしい丸っこくて大きな目にして黒い眼が分かる。
あんまり長くないまつ毛、アーチ状に左右対称の眉毛、小柄で可愛い鼻、小さめだけど厚めの唇、最近良くなった肌つや。
「…………」「…………」「愛しているわ、ユリ。私の妹になったその日からずっと」
それからの私は何を口走ったかほとんどが明瞭じゃないけれど…………私の本音が駄々洩れだった気がするわ。
たぶん実の姉として絶対に言ってはいけなかったことばかり、人によってはそれだけで絶縁されかねないようなことを言ってしまった気がするの。
姉としてではない一人の女性として愛の告白をして、そしてユリを困惑させたであろうことも覚えていて、それでも────
「困らせてるわ……ね」「お姉ちゃんの……ユリは私のことは嫌い?」
『好きだよ』
ユリが私のことを好きだと言ってくれたことだけははっきりと覚えているわ。
その時の私の多幸感は言葉で説明できないほどに、嫌われてなかった・むしろ好かれていたなんて! という喜びに全身が満たされていく。
嬉しい・楽しい・幸せで仕方ないわ!
「……ならよかった」
『でも、私はお姉ちゃんとは──』
…………ユリがそういう人間なのはわかっていて、ユリはおそらく特別な相手を作りたがらないのはなんとなく察しがついていたわ。
そしてこれまでもユリが何かを欲したことはない、与える立場で・助ける役割で・見守るだけで。
だから明確に線引きをして、私が姉で・蒲田さんたちが幼馴染などというカテゴライズをして、はじめて受け入れられているのだろうと……。
「ごめんなさい──」「抑えきれなかった──」
家族でユリの姉という唯一無二の役職だった、代え難いものだった、でも私はそれを一時の感情で手放そうとしている。
とても愚か、この選択は大間違いで、そして取返しがつかない。
一度言ってしまったから、それはもう取り消せない。
だからもう、私はここで振り返ったところで・躊躇してしまったら今度こそ全てを失ってしまうからこそ、今はこの熱情に任せるしかなかった。
『……お姉ちゃんは私とどうなりたい?』
そう聞かれた。
そこで私は少し冷静になった、私はどうして姉であることにこだわっていたのか。
それはユリの傍にいる為の方法で、姉という記号として機能する為に必要だと思っていて。
本当のところユリと一緒に居れさえすれば、私という人間はユリにとってのなんでもいいしどんなものでもよかった。
つまり私はユリとどうなりたいのかしら……?
『──姉として? それとも恋愛対象として?』
「…………どちらも?」
ユリの姉であることを誇りに思っていて幸せにも思っているわ。
でも今の私を突き動かす感情はユリの言うところの恋愛対象に向けるもの、ユリに対しての恋愛感情を以て一人の女性として見ているのでもあって。
私の中でユリの姉であることと、ユリを恋愛対象であることは両立する。
姉であり恋人関係であり結婚相手であってもいい、それで私にとって何の違和感もなかったし、喜ばしいことだと思った。
一緒に学校に行きたい、一緒にご飯を食べたい、一緒にお風呂に入りたい、一緒に寝たい。
それは姉妹としても・恋人関係でも・結婚相手でも成立すること。
ただ私は両親を見ていて、そしてユリと向き合って気づいたことがあった──私たちが結婚をして子供を作って暮らすというのも喜ばしいかもしれないと。
「子供は二人は欲しいわ」
『お姉ちゃんそういうのは、特殊な例を除けばごにょごにょ──』
私も保健体育もとい性教育に関して無知というわけではない、これまで相手がまったく想像出来なかったからこそ、その知識は無用とは思っていたけれど。
ただユリが相手となるなら────それも興味があるわ。
ユリとキスもしたい。
頬だけじゃない唇同士ならどうなるのかも気になるわ。
『私のことをその……性的にも見ていると?』
…………否定できなかった。
今のユリは色っぽい、私が間近にいるせいか照れ気味なのが愛らしい。
思わず目をそらそうとする挙動から、最近のユリが私を避けていたのも”もしかしたら”私を意識しての行動だった…………のなら嬉しい。
そして私はもう深く考えることはやめた、この今の熱に浮かされたような私は正常ではないし、もしかしたら現在進行形で夢を見ていて、これは現実ではないのかもしれない。
実際にこの一連のユリの言葉は彼女らしくない? まるで私に都合のいいことを言ってくれるようで、これでまだ突き放さないのもおかしいし、嫌がっていないのもおかしいわ。
だから……現実じゃないのなら、正直になってもいいのよね。
「ねえ、ユリ」
『な、なんでしょう』
「キスをしましょう」
『な、なんですと!?』
「大好きなユリとの行為全てに興味あるのよ」
『え、わぁ……はい』
畳みかけるようにごり押しする、やけくそってやつね、倫理も論理も今は関係ないの。
どうせこれは夢の類なのだから好き勝手させてもらうわ。
「キス、ダメかしら」「ユリは私とのキスは無理かしら……?」
『無理じゃないよ』
いいみたい、やったわ!
頬のキスなら幼少期に何度もした、けれど唇同士というと初めて……のはず、だから私の初めてをユリに捧げるわ。
ふふ、ちょっと緊張した面持ちで少し焦ったようにも受け入れようとするユリ、お互いの同意はあっても少し無理やりみたいで、なんだか嗜虐心が刺激されるわね……。
この機会だから思い切ってしましょう。
「ん……」
『ん!?』
そこから先は無我夢中。
ユリの唇の感触と熱と湿、息遣いと少し触れる顔の肌と肌、そして全身を駆け巡るようなむずむずとした感覚。
火照り続けて身体は熱いのにそれ以上に熱いユリと繋がる唇と唇、下腹部に響き・きゅっとなるような初めての経験。
『お姉ちゃん……?』
これが”気持ちいい”ということなのね。
『むぐっ…………』
私と同じシャンプーの香りと、口の中に広げる甘い味、これがユリの唾液なの……?
呼吸すら忘れて没頭する、この快感を手放さないでいる、この繋がりを解けないでいる、この甘い味をもっと。
夢なら覚めないでほしい────でもきっとこれは夢のひと時でしかないのだから、夢から目覚めた時にはちゃんと姉に戻れるようにしておかないと。
その時私は目の前のユリが瞳を閉じて一瞬体の力が抜けていたことに気づかなかった。
そして次の瞬間──
カーテンは閉めていても部屋の中の照明は燦燦としているはずだったのに、急に視界が・正確には私たちの周囲が暗くなっていく。
その”違和感”に思わず唇を離し身体を起こしてベッドの端に座って距離を取る、その時にはユリも身体を起こしていた。
全体像を見て分かる見た目に明らかな変化、ユリの栗色の髪が赤みがかったピンク色に変わっていき、側頭部から黒くて太いヤギの曲がった角のようなものが生えてくる。
そして場所的には尾てい骨あたりから伸びる黒いコード? 尻尾? その先はハートのような形状になっている。
その黒い瞳が赤く染まる。
『おねえちゃん、ふふ……』
彼女はユリであっていつものユリではなくて、そこに居たのはサキュバスに覚醒したユリだったの──
<カクヨムでも連載中>
お姉ちゃんから見るユリの変化です。




