第2話 百合は眺めるに限りますが?
最悪な一日のはじまりと、衝撃的な下級生からの愛の告白を受けた日から数日遡って──
* *
生活音ぐらいしかないまだ人気のない朝の校舎裏、少し肌寒いひんやりとした空気の中で二人の生徒が向かい合っていた。
背が高くスラっとして鼻高く少し目がちな顔立ち・黒髪をショートにスリーピンで前髪の左を止めたボーイッシュさ溢れる相手に、小柄で童顔な丸い瞳をした栗色の髪の愛らしさに満ちた子は意を決したように言葉を紡ぎ出す。
「あの……」
「なにかな?」
小柄な少女はボーイッシュな少女と目が合おうとすると、そのキレイな顔立ちにどきりとさせられて、思わず少し俯きがちになってしまう。
ボーイッシュな少女は小柄な少女に対して聞き返す。
「その……」
「うん」
もじもじと指をいじいじとしてしまう、小柄な少女の口に出したい言葉は決まっている。
ずっと前から言おうと決めていた、先延ばし先延ばしにしていたけれど今日言葉にすることを決めていた。
そんな決意さえ感じる小柄な彼女の挙動をボーイッシュ少女はやさしい表情で見守っている。
「私……小学校の頃からなんかいいなって、気になっちゃうな。っと……いいますか」
意識したのは”あの時”のこと、高校生になった今ではその思いは大きくなっていくばかりで消えることはなくむしろ育っていった。
小柄な少女はそれをどうにか言語化しようとするけれど、上手くは言えていない気がする。
それでもボーイッシュ少女は少しずつ話す小柄少女の言葉に対して頷いていく。
「いつも一緒に下校出来たりすると嬉しいなって思えて。休日に会えたりするとラッキーとか思っちゃって、なんか嬉しくて」
「いつもまっすぐ目を見てくれること、たまに照れくさいそれが良くて」
「髪弄ったのに気づいてくれるのとか、体調とかも気にしてくれるのも……」
聞いている内にボーイッシュ少女の表情にも少しの照れ、ただそれ以上に心にやさしさが満ちてくる。
小柄少女の言葉を受け止めて、それに「うん」と相槌を打ちながら次の言葉を楽しみにしているような。
「何が言いたいかと言うと……ええと、ええと!」
「うん」
最後の踏ん切り、今までより声量が意図せず大きくなる。
顔をあげてボーイッシュ少女と小柄な少女は視線が重なる、小柄な少女は思わず手を合わせて祈るようにその言葉を発した──
「好きです! いや! ──さん、ずっと前から好きでした!」
それは決定的な言葉、これまでの関係ではいられなくなる選択。
勇気がいることだった、それでも思いを誤魔化すことは出来なかった、だから小柄な少女は一歩踏み出す決断をした。
小柄な少女のその告白を聞いて目を見開くボーイッシュ少女、驚きがないわけはなかった。
ただそれよりも彼女の表情は──そう、彼女の返答は決まっていて
「うん、ボクも好きだよ──ちゃん」
異性のみならず同性でもドキっとするような満面の笑みで、ボーイッシュ少女は言葉を返した。
驚きよりも嬉しさが勝った、好きな人に告白されるという幸福感が顔には出ていた。
「えっ……そ、それは……?」
「よろしくね」
「それは私と付き合ってくれるってことでしょうか!?」
「そうなるね」
「あ、あああああぁ! その! よろしくお願いします!」
少しずつ距離を詰めて手を取りあう二人の少女、二人にとっての長年の恋が叶った瞬間だった。
そうして二人の女子は結ばれたのである、めでたしめでたし。
* *
「(いいもの見れたなぁ)」
早く学校に着いちゃったからと日課の百合ウォッチ……高校校内の散歩をしているとまさかの告白の場面に出くわしてしまった。
もちろん私は気配を消し一部始終を見守ることにしたのだ。
情報からすると彼女ら二人は少なくとも小学生から付き合いのある二歳違いの友人の間柄らしかった。
告白した方が私より後輩の一年生の学年を示す制服のリボンの色、告白された方が三年生を指すリボンの色ということで察しがつく。
それが高校生になってから数日経たずにプロポーズをしたらしい。
きっと親しい間柄だけに友情以上を望んで関係性に変化が生じてしまうのを、告白した小柄後輩は恐れていたのかもしれない。
それでも入学したて・卒業を控える二人の高校生活はこの一年も満たない時間しかないと思った小柄後輩は覚悟を決めて告白をして、ボーイッシュ先輩はOKしたのだ──
……ほぼほぼ妄想だけど、たぶんあってるんじゃないかな! 合ってなくても別にいいんだけどね、答え合わせをするつもりもないし私個人で楽しむだけだから。
二人の名前に関しても知らない・今後も能動的に調べるつもりもないので属性で呼ぶこととする、プライバシーにも配慮だ!
それにしても女子同士が結ばれる場面を見るのは何度目かだけど何度見てもいい、もちろん結ばれない場面を見ることもあった……あれは半日ぐらい凹む、自分のことでもないのにね、それが分かってても沈む。
やっぱり漫画もリアルもハッピーエンドに限る! 女子同士の純愛至上主義ですよ!
そんなここは私立茜森高等学校、今の私の通う学校だ。
陰から百合を見守っていた私は下十条ユリ、今年高校二年生を迎えた女子高生。
私は百合が好きだ。
……自分の名前もユリだけど、自分大好きってことじゃないよ? 嫌い……ってほどでもないけど自己愛が強すぎることもないよ?
百合、ユリ目ユリ科ユリ属の多年草の総称、百合のイメージで良く出てくるのはテッポウユリやササユリかもしれない。
ただ私が言おうとしているのは花のことではなく女性の同性愛を指すジャンルのこと。
由来は男性同性愛者の薔薇に対して「たてば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」から同じ花であり美人イメージである百合を当てはめた説があるみたい、私にとってはどっちも古典だけに言われてもあんまりしっくりは来ないかも。
女性の同性愛といってもプラトニックからロマンチック、友情から恋愛まで幅広く自由と私は思っていて、極論を言えば──そこに女の子が二人以上いれば百合ッ!
そしてどちらかというと女の子がいちゃいちゃしているのを眺めているのが好きだった。
眺めているだけでよくて、聞いているだけでよくて、妄想しているだけでよくて、ぶっちゃけ私がその当事者には……なりたくないかな?
自分が自分の考える理想から外れた時にがっかりしたくない、そして私のせいで相手を不幸にしてしまいたくない──私には愛する人を幸せに出来る自信がない。
そもそも当事者にはなれないと思うし、たぶん縁もないだろうし、それでも私は幸せだしこれでいいんだと思う。
そんな傍観者でいたい私が×××の力に目覚めて、眺めるだけじゃすまなくなるなんて……この時は考えもしなかったんだ。
<カクヨムでも連載中>
百合を眺めるのっていいですよね。




