第1話 最高な夢と、最悪な一日のはじまり。
中心にいる一人の女の子が大勢の女の子に囲まれてちょっと……なまめかしいというか……いかがわしいというか……なにか大変なことになっている夢を”私”は見ている。
その中心の女の子だけ顔にモヤのようなものがかかっていて私にはわからない。
けれど、どういうわけか周りにいる女の子は見たことのある顔がちらほらいた。
それは私にとってのお姉ちゃんだったり、友達だったり、クラスメイトだったり……。
ただ私の見知った人物が誰かを囲っている光景は少し複雑な気持ちがないわけでもなくて。
可愛がってくれたこととか、親しくしてくれたこととか、あの時話が弾んだこととか……それがなかったことになるのではないかと──
それよりこれも正直アリだと思うけど! 傍から見てるとドキドキしちゃいますけど! えっちでいいと思うけど!
見てるだけで私は十分かもしれない……この夢ずっと見れる感じですかね? しばらくシリーズで定期的に見たいんですけど、知らない子同士でもいいですよ。
中心にいる女の子が羨ましいとかではなくて、むしろ中心の女の子もどういう造形をしているかの方をむしろ知りたい!
これだけ好かれてるんだから相当カワイイに違いない、または美人系か? イケメン系の可能性もある、それとも内面から溢れる魅力的な……そうじゃなければめっちゃエロかったり……?
妄想が膨らむなぁ!
ついに一人の女の子……私のお姉ちゃんが中心の女の子に迫る、一線超えちゃう!? それ見れちゃう!? どきどきどきどき──
「は」
いいところで目が覚めた、本当にいいところだった……なんてところで止めてくれるんだちくしょう──続きはいつですか?
誰に向かったかもわからない悪態もとい恨み節もそこまでにしていると、あっという間にさっきまで見ていたはずの夢のディテールを忘れ始めていて「いい夢見てたな」とか「なんかえっちだったな」ぐらいの印象しか残らなくなる。
それよりも気になった私自身のリアルタイムの違和感、それは──
「なにこれ……」
私が今着ている化繊入りのファッションセンターで買ったような花柄の上下ルームウェア全体がびちゃびちゃになって下着も含めて肌にじっとりとくっついていた。
それはもうこの衣のまま水に飛び込んだんじゃないかというほどの湿り気っぷり。
そして私がさっきまで寝ていたベッドのシーツもびしゃびしゃになっていて、ふと私はある最悪の想像をする──
「っ! まさか……!?」
すんすん……この歳で粗相したわけではなかったようで一安心、恐る恐る嗅ぎましたよそれは。
そういう臭いではなかったから大丈夫なはず、無味無臭かと思ったんだけど……よく嗅げばほんのり汗っぽいような?
「うわ、やだな」
天然気味な髪を抑える為に付けているナイトキャップも水に浸したようになっている、外してみれば髪も雨に降られたあとのようにじめじめに蒸れている。
「う……きもちわるい」
いい夢を見ていたはずなのに目覚めは最悪で、とりあえずシーツは洗濯に出しておくとして……謎に体中ビチョビチョになっていた私はシャワーに駆けこんだ。
「んー?」
念入りにシャンプーとボディソープで体を洗浄してから普段使いの下着を付けた時、ある異変に気付く。
「……縮んだ?」
着用した感じが苦しい、明らかに無理して下着に自分の肉を押し込もうとしていた。
この時私が”縮んだ?”と呟いたのは一種の現実逃避であって、洗濯やら洗剤の相性やらで下着が縮んだがゆえの窮屈感を覚えたのであって、決して私が太くなったゆえの下着サイズがフィットしなくなったのではないと思い込みたかったわけであって──
「いや……変わらないな」
ホックを外して目の前にしてもその下着の大きさが変化した様子はない、見慣れた凹凸の薄い下着がそこにはある。
悲しいかな一応見れば分かる程度に凹凸しかない私の胸部にジャストフィットな下着、くたびれてきたら新しいものにこそすれどサイズはしばらく不変だった。
「持ち上がる……だと?」
自分のそれが”持ち上がる”という感覚を初めて知った、こういう感触か、こういう重さなのか。
なるほどなるほどなるほど…………なんで??
端的に言えば私の胸部だけが一夜のうちに急成長していた…………うそです、おしりも大きくなってるっぽいです。
なんなら太ももも一回り大きくなっているような……腰回りは何故かそうでもないな、それでもそれでもだよ?
「あぁあああ……でぶったのかああああ……?」
なら目覚めのつゆだく状態のそれも急激なデブゆえの発汗ゆえなのか、マジかぁ……朝からショッキングだなぁ。
少し憂鬱な気持ちでフリーサイズのスポーツな上下をタンスから発掘したので押し込んでどうにかする。
学校指定の制服もダボダボな余裕のあるのを買って着ていたのに、今ではへそ周りがちらちらと見える・スカートも限界まで下げたところで丈が心もとないほどになっていて……ダブルショック!
そうして私は気が重くなりながらいつもは家族の一人は誰かはいるはずの居間に向かう……ただ今日はタイミングが重なったのか両親もお姉ちゃんも既に外出していていないようで、居間のテーブルにはラップのかけられた朝食とメモ書きが残されている。
「朝食抜くかなぁ……でも作ってくれたのにもったいないしなぁ……」
デブってしまったのならば食事量を減らすべきではないのか?
それでも食べずに残すというのは朝も忙しいのに献立を考えて用意してくれたお母さんに申し訳ない。
……こういうところの積み重ねじゃないのか私、でもこれまではそんなことなかったのになぁ。
「……明日から」
明日の朝食は大丈夫だとあらかじめ伝えておこう、何か適当な理由をでっちあげてでも、そう明日から……。
こういうところだぞ私、でも今日はいただきます。
いつもの通学路を歩いているはずだった。
歩いている場所が間違っているわけでもないし、道順もいつもと変わらない。
確かにいつもよりスカートは短く見えるし、丈の足りないセーラー制服だから押し上げられた制服から覗くお腹周りがすーすーはしてる。
でもいつもと違うのはそれではなくて、私が今そう感じていることではあって。
「(なんか見られてるな……?)」
視線を感じる。
この没個性な私が注目を集めているような、凝視されているような、かと思えば睨みも混じっているようないろいろ……私はここまで自意識過剰になったのか!
いやでもね、あきらかーにいつもと違うんですもの。
「(……?)」
その視線は多く、そして種類は大きく分けて二つだった。
一つは熱っぽいというかジトっとしているような、もう一つは冷え冷えとして乾ききっているような……そんな二極!
それが一人ずつならまだ良かったと思うし勘違いで済ませられたと思う。
けれど、今日に関してはどうみても様子がおかしい!
「っ……!?」
「……?」
ふと歩いていたゴミ出し途中の主婦っぽい女性と目が合うと、何故か顔を真っ赤にして立ち止まり私をじっと見つめ始める。
…………面識のない人だよね? それでも一応と私が軽く会釈をすると。
「きゃっ……」
彼女は口を抑えながら小さい悲鳴……言うなれば超推しの人物に存在が認知された時のような幸福と驚きが入り混じったかのような表情・溢れる熱情を抑え込むようなリアクション。
なんでやねん。
「あ」
「っ……」
かと思えば通勤途中のサラリーマンの男性と目が合った、内心お疲れ様ですと思っていると──
苦虫を嚙み潰したような顔とはこのようなことを言うのだろう。
アンチ対象を間近で見てしまう……どころじゃないな、とびきり嫌悪の対象と同じ空気を吸ってしまった、それをひどく後悔しているかのような拒絶に満ちた顔。
その表情があまりに印象的だったけど、その男性は私を遠ざけるように足早に去って……むしろ走ってる皮靴の音!? そこまでか!?
私へのそのリアクションは見た目のに対してか!? それとも臭いゆえなのか!?
念のためにと出かける前にこれでもかと制汗剤を噴射しまくったし・新品満タンの制汗剤を持ってきたしで発汗対策も出来るだけしておいた……のに!
「なんなんだよもう」
通学路を歩く間、女性にはさっきの主婦と同様のリアクション・男性にはさっきのサラリーマンと類似のリアクションをされ続けることになる。
私がいったい何をしたの!?
私はいったいどう見えてるの!?
私をどうしたいの!?
わからない……いったい何が起こっているのか、それともこれは夢の続きなのか、夢であったほうがまだ納得できるかもしれない。
そして私は私で歩くだけでまた汗ばんでいるのが分かって不快感を後押しする。
なんなの!?
その日、その放課後。
私は面識のない後輩女子からの告白を受けることになる。
その告白がカミングアウトだったり、人選ミスでしかない告白の取次だとか、人違いによるものだったりしたらどれだけ良かったか。
「好きですっ! 結婚を前提に付き合ってください! 私の全部あげますから、私に先輩の全部をください! 先輩なしじゃ私生きていけないんです!!」
初対面の相手・初めて受ける告白にしては重すぎない??
<カクヨムでも連載中>
わりとなんでもあり寄りな百合小説です、よろしくお願いします。




