第五章 令嬢への道
アルテア様の指導というのは、本物だった。
最初は礼儀作法だけのつもりだったが、気づけば魔法の制御方法、貴族社会の歴史と構造、外交における言葉の選び方、聖女としての立ち居振る舞いまで、指導の範囲が自然と広がっていた。
推しが教えてくれる…恥ずかしい思いはしたくない、と必死についていったが、そもそも、私にはどうやらこの世界が向いていたらしい。
前世で培った知識の蓄積と整理能力が噛み合った。
アルテア様の説明は要点が明確で無駄がない。それを聞いて、前世の知識と結びつけて、体系的にまとめていく。気づけば授業の理解速度が上がり、実技の習熟度も伸びていた。
「リーナ、先週の魔法制御の試験結果が出たわよ」
「はい」
「……首席だったわ」
「え」
「あなたが首席。私を抜いて」
アルテア様が複雑な顔をしていた。誇らしいような、悔しいような、不思議な表情だ。
「す、すみません……」
「謝らなくていい。実力よ」
「でもアルテア様を抜くつもりは——」
「うるさい。次は私が首席を取り返すから覚悟しなさい」
「はい……」
競争相手として認識された。
それはそれで推し活として新しい展開だと思いながら、私は密かに嬉しかった。だって、アルテア様が私の努力を認めてくれたってことだから!
学業だけではなかった。聖女としての活動でも、成果が積み上がっていった。
王都近郊の村で流行り病が発生したとき、私は単独で出向いて治癒魔法を施した。
村への道は未舗装で、馬車が揺れるたびに両側の木々がざわめいた。村に着いたとき、石造りの家々の窓から子どもたちが不安そうに覗いていた。
私は白いエプロンをつけ、治癒用の魔法陣を展開した。
薄紫の光が患者の体を包み、病が退いていく。
患者三十名を完治させ、予防のための魔法陣を村全体に展開した。
帰り際、村長が「神さま…」と言って泣いていた。大袈裟だけど、聖女の力ってほんとすごいよね。アルテア様のおかげで、本来の物語の聖女より、力が広がっている気がする。
これが新聞に取り上げられ、「聖女の奮闘」として王都中に知れ渡った。
次は国境近くの難民キャンプでの支援活動。
夜の野営地に着いたとき、焚き火の光の中で子どもたちの顔が浮かび上がった。その目に怯えと希望が混じっているのを見て、私は一晩かけて全員の傷と病を治した。
その次は孤児院の子どもたちへの定期訪問。
白い壁の孤児院の廊下に、子どもたちの描いた絵が貼られていた。私を描いたと思われる絵には「せいじょさま」とピンクの髪の人物が描いてあった。
聖女としての仕事を積み重ねるうちに、私の名前は学園の外にまで広まっていった。
「リーナ様、今日も陳情が届いています」
「何件?」
「十七件です」
「……多いな」
「聖女としての功績、学業の成績、礼儀作法。王太子妃に最も相応しいとの声が高まっています」
「最悪だ」
「リーナ様、独り言」
「わかってる」
評判が上がるほど、シナリオのレールに近づいていく。嫌われ作戦が完全に裏目に出ていた。




