第四章 お茶の時間
こうして、私はアルテア様との時間を持てることになった。今のところ、少しでも断罪に関する出来事はない…はず。
指導が一ヶ月を過ぎた頃、アルテア様が珍しいことを言った。
「今日は早く終わったから、お茶でも飲んでいきなさい」
「……え」
「何をぽかんとしているの。嫌なら帰ればいい」
「嫌じゃないです! 行きます!」
アルテア様の部屋は、学園の寮の中でも特別な造りをしていた。
寮の最上階の角部屋で、二面に大きな窓があり、そこから中庭と遠くの王都の街並みが一望できた。
白い漆喰の壁には細い青の唐草模様が施されており、暖炉の上の白い棚に小さな銀の花瓶が置かれ、そこに季節の白い小花が活けてあった。本棚には革表紙の本がきっちりと並び、机の上には羽根ペンとインク壺が整然と置かれている。アルテア様の性格がそのまま部屋ににじみ出ていた。
今日のアルテア様は指導とは別の私服姿だった。
深い青緑のワンピースに、白いレースの襟。銀の細いブレスレットが手首に光り、銀色の長い髪は緩く後ろで束ねていた。普段の制服より柔らかい印象で、私はまた見惚れてしまった。
「座って」
「はい」
丸いテーブルに白いクロスがかかっていた。侍女が運んできたティーセットは繊細な花模様の磁器で、湯気の立つカップから蜂蜜と花の混ざったような甘い香りが漂ってきた。
「……美しい部屋ですね」
「そう? 普通よ」
「普通じゃないです。全部が計算されてる」
「趣味よ」
アルテア様がカップを手に取った。その所作が、また美しかった。指の先まで無駄のない動き。これが本物の貴族の所作だと、私は指導を受けながら何度も実感してきた。
「……何をじろじろ見ているの」
「アルテア様の所作を見ていました。毎回思うんですが、本当に綺麗です」
「……お世辞は」
「お世辞じゃないです」
アルテア様が少し眉を寄せた。この顔は、否定したいけれど言葉が出てこないときの顔だと、最近わかってきた。
「お菓子は食べられる?」
「なんでも食べます」
「行儀よく食べなさい」
「指導中ですか」
「常に」
私は小さく笑った。アルテア様は視線を窓の外に向けていたが、口元が少しだけ緩んでいた。
「……アルテア様は、甘いものがお好きなんですか」
テーブルの上の焼き菓子に、アルテア様の視線が一瞬だけ向いたのを私は見逃さなかった。
「別に。侍女が用意したの」
「そうですか」
私はフォークで焼き菓子を一口食べた。ほろっとした食感の中に蜂蜜の甘さが広がる。美味しい。
「美味しいですね、これ」
「……そう」
「アルテア様も食べればいいのに」
「私はいいわ」
「甘いもの苦手ですか?」
「……好きじゃないわけじゃない」
「じゃあ食べてください」
「別に食べたいわけじゃ——」
「アルテア様」
「な、なに」
「一個食べてみてください。美味しいですよ」
アルテア様がしばらく私を見た。それから、どこか観念したような顔で焼き菓子を手に取り、一口食べた。
「……」
「どうですか」
「……普通よ」
でもその後、もう一口食べていた。
私は内心で雄叫びを上げた。
推しが甘いものを食べている。可愛い。推しが可愛い。
窓の外では夕日が沈みかけており、空が橙色から薄紫へとグラデーションを描いていた。その光の中でアルテア様の横顔が静かに輝いていて、私は少しの間、それをただ眺めていた。
「……何を見ているの」
「夕日が綺麗だと思って」
「そう」
「アルテア様越しに見ると、特に」
「……お世辞はやめなさい」
アルテア様がまたそっぽを向いた。耳が赤かった。




