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第三章 アルテア様という奇跡

入学して四日目、ついにアルテア様に呼び出された!


「リーナ・ハート」


放課後の空き教室。夕日が窓から斜めに差し込み、石床の上に長い影を落としていた。埃が光の中でゆっくりと舞い、まるで時間が緩やかに流れているような静けさの中で、アルテア様は窓際に立っていた。


逆光の中で銀色の長い髪が光を受けて輝き、白磁のような肌が橙色に染まっている。学園の制服を身に纏っていても、アルテア様の佇まいはまるで肖像画から切り取られたようだった。紺色のジャケットの金ボタンが夕日を反射し、スカートの裾が微かに揺れている。その全てが計算されたように美しく、息を吸うことを忘れそうになった。


「…………」

「なぜ固まっているの」

「綺麗だと思って」


アルテア様が微かに眉を上げた。


「お世辞はいい。今日呼んだのは、あなたの礼儀作法について話があるからよ」

「はい」

「平民出身であることは承知しているわ。でも学園では貴族との交流も多い。最低限の礼儀を身につけておかないと、あなた自身が恥をかく。わかる?」


声は冷たかった。表情も厳しかった。でも私には、その言葉の中にある誠実さが手に取るようにわかった。「あなたが恥をかく」という言い方。アルテア様は今、私の心配をしているのだ。ラノベで何度も読んだ、この人の不器用な優しさの形だ。


「ありがとうございます、アルテア様」

「……礼には及ばないわ。これは私の役割だから」

「でも、わざわざ時間を作ってくださって」

「感謝されるために言ったんじゃないわ」


アルテア様が視線を窓の外に逃がした。耳が、ほんの少し赤い。


「……っ」


ツンデレだ。本物のツンデレだ。活字で読んでいたものが今、目の前で起きている。ぎゃあぁぁ。


「どうしたの、目を見開いて」

「な、なんでもないです!」


私は感動のあまり震え声で言った。


「そう。では始めるわよ。まず立ち方から」


その日から、アルテア様の指導が始まった。

週に二回、放課後に空き教室で礼儀作法を教わる。なんて尊い。

立ち方、座り方、お辞儀の角度、食事の作法、ドレスの裾の扱い方、貴族社会での会話の進め方。アルテア様は厳しかったが、説明は丁寧で、私が間違えても怒鳴ることはなかった。


「違う。肘の角度がまだ開いている」

「こうですか」

「……少しマシね」


少しマシ、がアルテア様の最大級の褒め言葉だということを、私は三回目の指導で理解した。


「アルテア様って、本当は優しいですよね」

「は?」

「説明が丁寧で、間違えても怒鳴らないし」

「当然のことよ。怒鳴って身につくものじゃないでしょう」

「でもそれって、私のことを考えてくださっているから——」

「うるさい! そういう話じゃなくて! 次の項目に行くわよ!」


アルテア様の耳がまた赤くなった。私の心臓が爆発しそうになった。推しが目の前でデレている。

週二回会える。これは夢か。いや夢ではない。転生なのだから現実だ。


「落ち着け私、目的を見失うな」

「何か言った?」

「なんでもないです!」

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