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第十四章 一年の間に

一年というのは、あっという間だった。


アルテア様とクロード殿下の婚約解消の話は、両家の話し合いの末、正式に進められることになった。アルテア様は淡々としていたが、どこか肩の荷が下りたような表情をしていた。


その頃から、アルテア様の周囲にある人物の姿が増えた。

レイナート・ヴェルナー辺境伯。引き締まった体躯に黒髪の短く整えた、寡黙な印象の人物だ。深い緑のマントを肩に掛け、腰に剣を帯びている。学園の卒業生で、現在は辺境での任務の合間に王都に来ているらしい。


アルテア様は彼の前だと、少し——ほんの少しだけ、表情が柔らかくなる。


「レイナート様が、先日またいらしてましたね」

「……見てたの」

「偶然」

「…………」


アルテア様の耳が赤くなった。


「レイナートは幼馴染よ。それだけ」

「はい」

「本当にそれだけ」

「はい」

「……もう。何も言ってないのに」

「何も言ってません」


アルテア様がふいと顔を逸らした。でも口元が緩んでいた。

レイナート辺境伯は、物語には出てこなかった。私は、アルテア様のこんな可愛らしい姿は知らなかったのだ。


聖女の仕事も続いていた。

王都の東にある貧民街で流行り病の治癒活動を行い、王立病院での定期診療を始めた。白い廊下の先に、病を抱えた人々が並んでいる。その一人一人に薄紫の光を当てるたびに、私はこの世界で生きているという実感を得た。ラノベの中の聖女ではなく、この国の聖女として。


公爵家の養女となって初めての社交シーズン、私はアルテア様に選んでもらった服で各地の夜会に参加した。

パールホワイトに近い淡いピンクのドレス——「あなたの髪に合う色を選んだ」とアルテア様は素っ気なく言ったが、耳が赤かった——を纏って立つと、鏡の前の自分が別人に見えた。アルテア様が教えてくれた、全てを身につけた立派な令嬢がそこにいた。


「……似合っているわ」

「アルテア様が選んでくれたから」

「……もう」

「本当のことです」

「もういいから行くわよ」


アルテア様は濃い紫のドレスを着ていた。銀色の髪が高く結い上げられ、細い白金のティアラが額で輝いている。完璧だった。ラノベで読んでいたときも美しいと思っていたが、実際に目の前で見ると活字では到底追いつかない美しさに輝いている。アルテア様には、誰もが虜になってしまう。そう、このところ見せるふんわり微笑む姿は柔らかで、それにもハッとさせられるのだ。


夜会の帰り道、馬車の中でアルテア様が言った。


「今夜、何人かにあなたのことを褒められたわ」

「そうですか」

「リーナ嬢は殿下の婚約者に相応しいと」

「困ります」

「……本当にそれだけなの?」

「はい」

「……変な子ね」


アルテア様が窓の外を見た。夜の王都が流れていく。街灯の光が、アルテア様の横顔を柔らかく照らしていた。


「……悪くないと思うわよ、クロードのことも」

「目が痛いです」

「……あなたって本当に」


呆れたように、でもどこか楽しそうに、アルテア様が笑った。

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