第十章 アルテア様と王子の話
いつもの礼儀指導の後、片付けをしながらアルテア様が言った。
「あなた、クロードのことが苦手なの?」
「……ご存知でしたか」
「学園中の噂になっているわよ」
アルテア様は呆れた顔をしていたが、口元がわずかに緩んでいた。
「クロードがあなたに執着し始めているのは知っているわ」
「……申し訳ありません。あなたという婚約者がいらっしゃるのに」
「別にいいわよ」
「よくないです」
「は?」
「アルテア様の婚約者に、私みたいな平民が好かれるなんて絶対によくないです。だから私は嫌われようとしているんです」
アルテア様がしばらく私を見た。
「……変な子ね、あなた」
「よく言われます」
「……何がそんなに嫌なの、クロードの妃になることが」
「アルテア様の婚約者だから、としか言えません」
「だから、それは——」
アルテア様が小さく息をついた。
「私はクロードのことをそれほど好きじゃないの。昔から決まっていた婚約だから続けているだけ」
私は少し考えた。
「でも王太子妃は嫌です」
「なぜ」
「殿下が眩しすぎて、一緒にいると目が痛いからです」
アルテア様が力が抜けたような顔をした。
「……あなたって、本当に」
「本当のことです」
「馬鹿」
でも口元が笑っていた。
扉を開けたとき、後ろから小さな声が聞こえた。
「……また来なさい」
「はい、喜んで」
廊下に出て、扉が閉まった瞬間、私は胸を押さえた。
推しが可愛すぎる。嫌われ作戦どころじゃない。




