勇者が来た
え?俺を倒しに来たって?
「魔王様。奴は勇者です」
勇者?これが?少年だぞ?
そこには、見た感じ13~15歳くらいで、身長は160cmほどの赤毛の少年が立っていた。
「ここのアホな魔王は部下に配下に殺されたはずだ……何故お前はここにいる? 魔王が死んだあとの城を乗っ取ったのか?」
なんでこいつは魔王が配下に殺されたことを知ってるんだ?もしかして勇者側のスパイが紛れ込んでいたのか?だとしたら本当にアホな魔王だな。
「悪いけど帰ってくれないかな? 俺は人殺しとか世界征服とか興味ないし、君と戦う気もないんだ」
今、勇者と戦うメリットはない。ちょっとだけ戦ってみたい気もするけど、死んだら終わりなんだ。ここは土下座してでも帰ってもらって、出来るだけ穏便に済ませよう。
「二人とも落ち着いて、ここは話し合いで……」
その瞬間、火の玉のようなものが凄まじい速度で俺の頬を掠めた。
「あっつ……!!」
頬を生暖かい液体が流れているのを感じる。冷や汗がどっと噴出した。人生で初めて死を感じた瞬間だった。
「話し合う? 魔王と勇者が? ありえないだろ」
剣を構える勇者。
「魔王はこの世の悪だ。絶対に殺す……!!」
勇者が凄い剣幕で襲い掛かってくる。戦闘経験のない俺じゃ、勝てる気がしない。
やばい……!どうする!?
「おっと!魔王様は傷つけさせねぇぞ?」
武器を持っていないレオが俺の前に出る。
レオは勇者の剣を軽々と躱し、勇者の横腹に蹴りを入れた。
「うぐっ……!」
勇者が城の壁に向かって吹っ飛ぶ。
「まじか……」
俺はレオの強さに、思わず言葉を失う。
「ファイアボール」
壁に吹き飛んだ勇者に向かって、リオサは容赦なく魔法で追撃する。
目の前で起こっていることを、俺はただぼーっと見ているだけだった。
って止めなきゃ……!
「ストップ!ストップ!!」
「はい。魔王様」
城の壁に穴が開き、がれきの山が出来ている。その穴を見て不安になる。
大丈夫だよね!?勇者死んで無いよね!?もし死んでたら絶対めんどくさい事になる。だから生きててくれ……!勇者……!
「ちょっと……! やりすぎだよリオサ!」
「も、申し訳ございません。魔王様。勇者がここまで弱いとは思わず……」
「ああ、勇者がこんなに弱いわけがねぇ」
がれきの山が少しだけ動く。どうやら勇者は生きてるらしい。
よかった……!まじでよかった……!
「二人とも、勇者を助けてあげよう」
二人は渋々勇者を助けた。
「どうすんだ? これ」
「城の奥に配下たちが寝泊まりしてたベッドがあるから、そこまで運ぼうか」
「わかりました。魔王様」
三人で気絶している勇者をベッドまで運んだ。
「ん……?」
勇者が目を覚ましたみたいだ。
「おはよう」
顔を覗き込む。
「魔王!? 痛……!」
勇者はベッドから出ようとしたものの、身体の痛みで思うように動けていない。
「まあまあ、落ち着けって」
「暴れない方が身のためですよ。魔王様の優しさであなたは生かされているのですから」
それを聞いた勇者は驚きの表情を見せた。そしてすぐに険しい表情へと変わる。
「何で俺を生かした? 何かの実験の試験体にでもするつもりか? それとも生贄か? そうだ、お前のペットの餌にでもするつもりだ?そうなんだろ?」
よく喋るなぁ、魔王にどんなイメージ持ってるんだ。まぁ、魔王のイメージが良くないのはわかるけどさ。
「いや、そのどれでもないよ。俺は人殺しになりたくなかったってだけだよ」
俺は人殺しになりたくない。それに相手は少年だ。まだ未来ある若者を殺すなんて、後味が悪すぎる。
「まあ、そういう事だから。もう歩けそうなら帰っていいよ」
一件落着かな。
「殺せ……」
「え?」
「僕を殺せよ……」
何言ってんだこいつ。
「殺さないよ」
「いいから殺せって言ってんだ! 僕は勇者なんだ! 魔王に負けて生かされて……どんな顔して帰れって言うんだよ!?」
こいつ若いのに、すごい覚悟だな。
だけど……
「俺は絶対に君を殺さない。君に何があったかは知らない。けど、魔王とか勇者の称号に振り回されるな。君はまだ若いんだ。これから色んな経験をすると思う。だから生きろ。」
俺がそういうと勇者は黙り込んだ。
しばらくして、口を開く。
「わかった。今日は帰る。」
よかった。わかってくれたみたいだ。
俺はホッと胸をなで下ろす。
勇者はベッドから降り、帰る準備を始めた。
俺は城の入口まで送った。
「強くなれよ、勇者」
こんな偉そうな事言ってるけど、倒したの俺じゃなくてリオサとレオなんだけどね。そう思うと急に恥ずかしくなってきた。
「僕の名前は、レイドだ。魔王」
突然名乗る勇者。これはデレたのか?俺も一応名乗っておこう。
「そうか。俺の名前は、ユリウスだ」
「魔王ユリウス。俺は強くなったら絶対にお前を倒しに来る。だからそれまでに死ぬんじゃないぞ」
死ぬんじゃないぞ…か、可愛い奴じゃないか。
「ああ、それまでのんびり待ってるよ」
「またな。魔王ユリウス」
レイドはそう言うと外に向かって歩いていった。
「よかったのですか? 魔王様」
リオサが俺に尋ねる。
「なにが?」
「勇者を逃がしてしまって」
「ああ、いいんだよ。俺たちは『人を殺さない』そういう方針で大きくなっていこう」
「かしこまりました。魔王様の望みとあらば」
「いいねぇ! おもしれーじゃねぇか」
俺は人を殺したり、仲間を見捨てたりする最低の魔王にはならない。
最高の魔王を目指す。




