冒険者ギルド①
「こちらで少々お待ちください」
受付をしてくれた綺麗な女性が、お辞儀をしてどこかに行ってしまった。俺は冒険者になってみたかった夢を叶えるため、朝からメルドルの冒険者ギルドに来ていた。さっきの綺麗な女性は受付嬢。今から、鑑定の水晶を持ってくるとのことだ。鑑定の水晶、昨日の朝までの俺には恐怖の対象だったアイテム、だが今は違う。何故なら、俺は――
【偽装】のスキルを手に入れたのだ……!!
このスキルを使えば、【魔王】の称号を隠して冒険者ギルドに加入できる。俺の計画は完璧だ。
「お待たせしました」
受付の女性がバスケットボールくらいの大きな水晶を手にもって戻ってきた。鑑定の水晶ってこんなに大きいんだ。
「それでは、こちらの水晶に手をかざしてください」
言われた通りに水晶に手をかざした。どんな感じなのだろう?とワクワクしていたが、特に不思議な事は起こらず、離していいですよ、と言われたので水晶から手を離した。
「はい。これで鑑定は終了しました。ステータスを確認したところ、問題は見つかりませんでした。なので、今からギルドカードの作成をさせていただきます」
計画通りだ。ありがとう【偽装】スキル……!!
「何か質問等ありますか?」
うーん。質問か。ステータスがどういう風に表示されてるか見ておきたいな。問題は見つからなかったって言ってたし、【魔王】の称号は、ちゃんと偽装出来てるみたいだけど、一応確認してみるか。
「一応、自分のステータスって確認してみてもいいですか?」
受付の女性が不思議そうに頭を傾げている。まあ、言いたい事はわかる。自分で確認すればいいじゃんって思ってるんだろうな。
「ええ、どうぞ」
受付の女性が鑑定の水晶を見せてくれる。
レベル15 攻撃力93(+365)魔力89(+269)MP7(+473)
称号【魔王】【勇者】
スキル【友達の輪】【怪力】【魔力消去】 【自動回復】
種族【人間】
だったステータスが、
レベル15 攻撃力8 魔力5 MP5
称号【】 スキル【】 種族【人間】
あれ?何か……俺、弱すぎじゃね?【友達の輪】の効果と聖剣のステータスを消しただけなんだけど、俺めちゃくちゃ弱くなったじゃん……。これが本当の俺のステータス……?ま、まあ、いいんだけどさ。別に、気にしてないけどさ。本当に。
「もう、よろしいですか?」
話しかけられて、現実に戻る。
「あ、はい」
受付の女性が鑑定の水晶を戻しに行った。カウンターの奥から「あんた、これからあいつの担当になるの? やばくない?」という誰かの笑い声と「これから強くなるかもしれないじゃないですか?」と反論する受付の女性の声が少し聞こえてきた。
どうやら俺を馬鹿にしているらしい……。泣いてもいいかな?
ただ、受付の女性は庇ってくれているみたいで、とても嬉しかった。やっぱり、俺のステータスは低すぎるみたいだ。一応【偽装】のスキルで多少盛ることも可能だけど、盛って少し期待されても困るので、多少馬鹿にされてもこのままで行こうと思う。
受付の女性がカードのような物を手に持って戻ってきた。あれがギルドカードなのかな?
「こちらがお客様のギルドカードになります。紛失されると再発行するのに銅貨5枚が必要になるので、お気をつけてください」
ギルドカードを受け取って、確認してみる。結構頑丈なカードのようだ。カードゲームのような紙で出来ている物かと思っていたが、クレジットカードやキャッシュカードのような感じで分厚く作られている。無くさないように気を付けよう。
「ありが――」
俺が感謝を伝えようとすると、後ろから声がした。
「おい! 新入り、俺の仲間に入れてやろうか?」
声の方を向くと、大男が立っていた。何だこの人?急に仲間になれって、知らない人の仲間になるわけないじゃん。何かめんどくさい事になりそうだけど、断っておこう。
「いえ、結構ですぅ……」
最大限ペコペコしながら断った。すると大笑いしながら大男は言った。
「本当にいいのか? お前のような雑魚はソロで活動することになるぞ?」
大男は俺のステータスを事細かに喋り始めた。このおっさん、何で俺のステータスを知ってるんだ?不思議に思った俺は、受付の女性の方を見た。が、受付の女性も驚いた顔をしている。美人さんは驚いても可愛いなぁ。ってそんな事を考えてる場合じゃない。もしかしてこいつ、【鑑定】のスキルでも持ってるのか?
そんな事を考えながら、周りをキョロキョロ見渡していると、俺の担当をしてくれた人じゃない、別の受付の女性がこちらを見ながらクスクス笑っている。しかも大男とアイコンタクトを取っている。あぁ、多分あいつがさっき俺を裏で馬鹿にしていた声の主だ。そして、そこで見た俺のステータスをこのおっさんに伝えたんだ。何が目的かは分からない。が、メチャクチャムカつくなぁ。
「なんだ、その目は? 俺様に喧嘩を売ってるのか? 雑魚のクセに生意気なんだよ!」
大男は俺の態度が気に入らなかったのか、俺を殴ろうと拳を振り上げた。
こうなったら仕方がない。悪いけど、ムカつくからやり返させてもらう。そう思いながら俺も殴る構えを取ろうとした瞬間だった――
目の前に俺の担当をしてくれた受付の女性が、俺を守るように前に立った。
!?この人、俺を守ろうとしてるのか!?まずい、軽くやり返せればそれでいいと思ってたけど、そんなゆっくりやってたらこの人が殴られる。もう、いいか。本気でやり返そう。
俺は、大男の拳が受付の女性に触れるよりも早く、大男の前に移動して大男を殴った。大男が後方に吹っ飛ぶ。
「ふぅー……」
見ていた人たちが、俺に驚きの目を向けている。それもそのハズ、さっき大男は俺のステータスを言いふらしていた。そしてそれを聞いていた人たちは思うだろう『あのステータスで、こんなに強いなんてありえるのか?』と。
はぁ、こんな問題を起こしたんだ、俺の冒険者人生はここまでか……
そう思っていると周りが拍手をし始めた。
「よくやった……!」
なんだ!?なんだ!?拍手されるような事はしていないと思うけど……
そう思っていると、男の人が話しかけてきた。
「すげぇなお前。そのステータスの低さで、あの『タング』を1発で倒しちまうなんてな」
その男によると、大男『タング』はこの冒険者ギルドの嫌われ者らしい。
だから、拍手が起こったのか。なるほどね。
「だ、大丈夫ですか!?」
受付の女性が俺の心配をしてくれている。天使だ……。
「あ、はい! 大丈夫ですよ!」
俺がそう言うと、ホッとしたような表情を見せた。
これが『ユーリウス』の冒険者人生の始まりの1歩だった。




