中立国家②
この温泉まんじゅうウマ!
俺たちは出店で温泉まんじゅうを買ったりして、食べ歩きをしていた。
「どうだ? メニア。美味しいか?」
「うん……! とっても美味しいよ……!」
なんて……なんて素敵な笑顔なんだ!メニアは一生守り続けると決めた俺だった。
「魔王様ー。後ろの奴ら、気付いてるか?」
「あぁ、気付いてるよ」
レオが言う後の奴ら、さっきからずっと尾行してきている奴らの事だろう。温泉を出て、ちょっとしてからずっと俺たちの後ろに居る。ここでは戦闘はダメなハズだ。国の外に出たときに襲撃でもするつもりか?それとも、俺が1人になるのを待っているのか?
「皆ー。ちょっと用事が出来たから先に行ってて」
尾行してるやつらに聞こえるようにちょっとだけ大きな声で言う。そして、リオサ、レオ、サリアに目配せする。俺が1人になったと見せかけて、ちょっと離れるそこを敵が襲撃、そして後から皆が駆けつけて捕まえる。という作戦だ。戦闘は禁止でも抵抗はしていいだろう。無抵抗しかダメというなら、最初に攻撃された方はやられ損だ。痛めつけたりはしない、捕まえるだけだから話せば分かってくれるだろう。
「来たな……」
俺は呟く。奴らの目的は俺だけのようだ。路地裏に入った時だった。
「おい! 待てよ」
後ろから声がする。人通りから離れたらすぐに来てくれた。単純だな。
「えーと……なんですか?」
まるで今気づいたかのような演技をする。
「魔王ユリウス。悪いがお前にはここで死んでもらう」
こいつらまじか……国内で暴れた奴がどうなったのかもしかして知らないのか?ってか、こいつらもしかして……
「勇者か?」
聖剣のようなものを持っている。それに俺が魔王ユリウスだって知ってるし、勇者だろう。
「あぁ、そうだ。俺は勇者コドウ。こいつらは仲間だ。序列入りするために、お前を倒す。悪いな」
こいつらまじで戦う気なのか?勇者パーティーなんだからもう少し考えて行動しろよ!とは思うけど、こいつらも必死なんだろう。勇者にとって目標の序列入り、そして目の前にいるのは討伐命令の下った魔王。餌を目の前に置かれたライオンが我慢なんかできるわけない。
「お前ら知ってるか? ここは中立国家で戦闘禁止なんだぞ? 剣を抜いたりなんかしたらどうなるのか知らないぞ?」
皆……!早く来てくれ!会話を出来るだけ伸ばして時間は稼ぐけど、今にも襲ってきそうだ。相手は4人、流石に一斉に攻撃されたら手加減は出来ないし、優しく捕まえるなんて無理だ。
「知ったことか! 勇者パーティーが魔王を倒して何が悪い?!」
こいつ……気持ちが高ぶりすぎている。テンションが上がり過ぎた人間は怖い。他の奴らに訴えかけるか。
「仲間のお前らはいいのか!? この国で暴れたやつが過去にどうなったか知らないのか!?」
魔王使いっぽい見た目をした女の子が頷く。
「ええ、知っています。ですが関係ありません。すぐに終わりますので」
勇者パーティーの皆が武器を構える。
やるか……やるしかないのか……?
「覚悟しろ!!!」
そう叫んで、勇者が俺に襲い掛かってきた。その瞬間だった。
ズドンッッ!!!
とんでもない光と轟音と共に、俺と勇者パーティーの間に人のような何かが落ちた。舞った砂ぼこりの中から人の声が聞こえた。
「我の国で剣を抜くとは……いい度胸だな……?」
空気感で分かる。こいつは滅茶苦茶強い……!ルードとメディスの戦闘でルードから感じた空気感と似ている。動いたら死ぬかもしれない、と錯覚するほどの殺気。
「うぅ……! はっ……はっ……」
砂ぼこりが晴れ、勇者の姿と声の主があらわになる。勇者が恐怖からか呼吸を乱し震えている。勇者もこの異様さを感じ取っているのだろう。そして声の主、我の国と言ってたし、国王トールだろう。金色のメッシュが入った白髪。綺麗な長髪が風に靡いている。
「かっけぇ……」
俺がイメージする異世界のカッコいい男が目の前に立っていた。オタク心がくすぐられる髪色。思わず言葉が漏れた。
「ま、魔王ユリウス! 外に出たら倒してやる! か、覚悟しておけ!」
勇者はそう言いながら足を震えさせ、路地裏から出ようとしていた。だが――
「うわぁ!?」
勇者パーティーが驚いて後ろに倒れこむ。勇者の前に雷の檻のような物が出来ていた。
「どこに行くんだ? 我は剣を抜いたお前たちを逃がすわけがないだろう?」
床に座り込んでいる勇者パーティーにトールが1歩、1歩とジワジワと近づく。恐怖から歯をガチガチさせながら震える勇者。
「消しとべ」
トールが何かを唱える。すると、とんでもなく大きな魔力量の雷が勇者パーティーに向かって飛んでいく。やばい……!こんな事は予想してなかった!俺に剣を向けたとは言え、まだ若い子たちだ。まだ死ぬのは早い。だけど……!
「ダメだ!」
勇者たちを守るために俺は全力で走った。が……
間に合わない……!!くそ!
その時だった――
「ちょっとスト~~ップ!」
また上から人が降ってきて、勇者たちの前に立った。そして雷を止めた。
「ごめんよ、トール。だけどさ、この子たちは若いから許してほしいんだ」
雷を止めたのは、さっき温泉で会った黒髪の青年だった。どうやって止めたんだ?凄い魔力量だった気がするけど……
「テンゲン。悪いが、そやつらはこの国で剣を抜いたのだ。許されぬ」
テンゲン……?まさか……勇者テンゲンか!?
「トールさ、俺に大きな貸しが……1つあったでしょ? それで許してくれないかな?」
テンゲンがそう言うと、トールは少し考えた後、頷いた。
「いいだろう。だが、これで貸しは無くなった。こんな事で消費してよかったのか?」
国王トールに大きな貸しって……
「若い勇者をそれで救えるなら、全然いいさ」
「あ、ありがとうございます! テンゲン様!」
さっきの勇者パーティーはテンゲンに頭を下げてどっかへ行ってしまった。本物の勇者テンゲンかよ。てか、俺はそんなのと談笑してたのか……。
「ユリウスさんも、すみませんでした。若い勇者が迷惑をおかけしました」
テンゲンが俺の方に向かって深々と頭を下げる。勇者テンゲンは強いうえに人間性も素晴らしいらしい。って
「俺が魔王ユリウスだって気付いていたのか!?」
「もちろんです。温泉で会った時から気付いていましたよ」
ニコニコと話す勇者テンゲン。
「ここは中立国家メデルセルタですからね、剣を抜いたらトールが怒ってしまうので、ここでは抜きませんよ」
「当たり前だ」
どうやら、勇者テンゲンと国王トールは仲がいいらしい。さっきの貸しの話を聞く感じ、昔から付き合いがあるのだろう。
「魔王様ー! 凄い音が聞こえましたが、ご無事ですか!?」
皆が合流する。
「うん。大丈夫だよ。国王トール様が助けてくださったんだ」
皆がホッとした表情を見せる。
「それじゃ、俺は帰ろうかな。はぁ……ここからセレベティスまで遠すぎるよ。トールさ、街道整理でもしてくれない?」
勇者テンゲンの国はここからかなり遠いのか。なら、ガルトーヴァとも結構遠いのかな?
「面倒だ。自分で作るんだな」
えぇー、と声に出す勇者テンゲン。
「ユリウスさんもそう思いません? ガルトーヴァも遠いじゃないですか」
テンゲンが俺に話を振ってきた。
「まぁ、そうだけど……そんなに高頻度で来る予定はないから……」
俺そろそろ帰っていいかな?この2人と会話するの結構心臓に悪いんだけど……
「一瞬で移動できる魔法とかあればいいのになぁ」
あぁ、確かに。この世界にル○ラみたいな魔法ってないのかな?
「ル○ラみたいな……」
ってル○ラなんてこの世界で通じるわけないじゃん。
「ル○ラ? ル○ラって何ですか魔王様?」
リオサが俺に聞いてくる。ゲームの説明したって分からないだろうし……
「何か昔見た本でそんな魔法を、聞いたことあるようなないような……」
話をはぐらかす俺。そして俺はこの時、気付いていなかった。俺がル○ラという単語を口に出した時、テンゲンとトールの眉毛がピクリと動いていた事を。
「テンゲン。久しぶりに来たんだ。城で茶でも飲んでいけ」
「あぁ、ありがたく貰おうかな。それじゃ、ユリウスさんまた会ったらお話しましょう」
テンゲンはそう言って、ニコニコと手を振りながらトールに連れられて、城に向かっていった。あれ?勇者テンゲンは帰るって言ってなかったか……?まあ、いいか
2人が見えなくなった所でレオとリオサが口を開いた。
「あれって、さっき温泉で会った奴だよな?」
「テンゲン……そしてセレベティスって……もしかしてあの方は……」
リオサは気付いたらしい。
「どうしたんだよ? リオサの姐さん?」
俺は頷く。
「そうだよ。彼は勇者テンゲン。序列1位の勇者テンゲンだ」
勇者テンゲンはトールに連れられて、メデルセルタの城の中でトールと話していた。
「トール、もう誰もいないよ。生き物の気配も魔法も視線も何も感じないよ」
勇者テンゲンが感知魔法で索敵した。
「はぁ、流石に今日は疲れたよ。久しぶりに国王としての仕事をした気がするよ」
トールは気が抜けたのか、椅子に座ってぐったりしている。その様子を見て笑う勇者テンゲン。
「そんなに疲れるなら、その『演技』やめたらいいのに」
それを聞いたトールが首を横に振る。
「今更変えられないよ。もうこれでずーーーっと、僕はやってきたんだからさ……」
「それにしてもさっきは驚いたね。まさか、魔王ユリウスが『日本人』だったなんてね」
勇者テンゲンは面白い物でも見つけたかのように嬉しそうに話す。
「そうだね。ル○ラの単語が出てきた時は僕も、顔には出さなかったけど物凄く驚いたよ」
外の様子で時間が経ったのを感じる勇者テンゲン。
「暗くなってきたし、俺はそろそろ帰るよ」
「うん、それじゃあね」
「あぁ、また来るよ。透」
そこで勇者テンゲンと国王トールの会話は終わった。




