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黒き糸の人形劇

影は「数」ではなく「人間の残骸」をまとっていた。

床を這う黒い染みから、人の輪郭がせり上がる。

それはさっきまで泣き叫んでいた誰かの体で、目だけが影に塗り潰されている。


「来るぞ」


シャムスが低く告げた。

影に操られた男が、消防斧を引きずりながら歩いてくる。

刃先が床を擦り、金属音が不快に響く。

次の瞬間、影が男の腕を跳ね上げた。

斧が振り下ろされ、カウンターが粉砕される。


「うわああ!」


眼鏡の女性が悲鳴を上げる。

エリオットがショットガンを撃ち抜く。

操られた男の胸が吹き飛ぶが、影は崩れず、黒い糸のようなものが体を縫い止めて再び立たせる。


「死体を人形にしてやがる……」


エリオットが吐き捨てる。

その背後。

床に落ちていた黒い染みが、人の影だけを切り取ったような形で壁から剥がれた。

足音はない。影だけが滑るように接近する。

茶髪の青年の背後に、ぴたりと貼り付く。

次の瞬間、影の腕が現実の腕となり、首に絡みついた。


「後ろ!」


シャムスが叫ぶ。

だが遅い。

青年は羽交い締めにされ、影に操られた女がナイフを持って歩いてくる。

刃が光を反射し、ゆっくりと喉元へ向かう。


「やめろ……やめてくれ!」


黒人の男性が走った。

影を撃ち抜きながら、体当たりで青年を突き飛ばす。

ナイフが空を切る。

代わりに黒人の男性の腹部に突き刺さった。


「くっ……」


影が彼の体に入り込む。

皮膚の下で黒い血管のようなものが蠢き、目が黒く染まっていく。


それでも彼は青年を掴み、背後へ投げた。


「伏せろ!」


次の瞬間、彼自身が影に覆われる。

操られた体が不自然な角度で立ち上がり、斧を拾った。

それはもう彼ではない。

彼の顔をした影だった。


「撃てない……」


茶髪の青年が震える。

シャムスが即座に発砲した。

頭部を撃ち抜く。

影が霧となって消え、倒れたのはただの肉体。

黒人の男性の体は動かなくなった。


「生きろ……」


最後にそう言った唇の形だけが、影に食われる前の意思だった。

影はまだいる。

人の形をした黒い影が、壁から、天井から、床から立ち上がる。

顔も肉体もない、ただ人型の闇。

足音だけが人間のそれと同じ。


「右から三体。いや……四体」


エリオットが叫ぶ。


シャムスとエリオットは背中合わせに立つ。


「リロード」


「三秒稼ぐ」


エリオットが前に出て散弾を叩き込む。

純粋な影が吹き飛ぶが、再び床の闇から手が伸びる。

シャムスはリロードを終え、影の核のような部分を撃ち抜く。

影が悲鳴を上げる。

それは人間の声ではない。

地下水がうめくような、不快な低音。

茶髪の青年は膝をつき、床に手をついた。


「俺のせいだ……俺が遅れたから……」


シャムスは影を撃ちながら言う。


「違う。あいつは選んだ。生き残らせるための選択だ」


二階から銃声が降ってきた。

店主が窓越しに影を撃ち抜いている。


「条件クリアに近づいたな」


エリオットが笑う。


ガンショップは、操られた死体、純粋な影、そして生者が混在する地獄の舞台になっていた。

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