籠城の条件
ガンショップの扉を閉めた瞬間、外の喧騒が一枚の板の向こうへ押しやられた。
だが静寂は安心ではなく、次の破裂を待つ直前の沈黙にすぎない。
店内は荒らされておらず、銃器や弾薬の棚はそのまま残っている。
誰も手をつけていないのは、恐怖で逃げ出したか、入る前に死んだかのどちらかだろう。
「助かった……」
眼鏡の女性が床に座り込み、両手で顔を覆った。
茶髪の青年は入口のシャッターを背にして崩れ落ちる。
黒人男性は入口を睨みつけたまま、震える拳を握っている。
エリオットが天井を見上げる。
「二階に人の気配がある」
シャムスが階段へ向かい、声を張った。
「誰かいるなら出てこい。助け合おう」
返答はすぐに返ってきた。
階段上の扉越しに、荒れた中年の声が響く。
「近づくな!開けてほしけりゃ外の化け物どもをどうにかしろ!ここは俺の店だ。勝手に入るな!」
扉の向こうで何かを引きずる音がする。銃を構えた気配もあった。
エリオットが小さく舌打ちする。
「典型的な籠城店主タイプだな。疑心暗鬼の塊」
シャムスは扉越しに言った。
「外には影が群れてる。ここに籠るなら協力しろ」
「知るか!信用できるかよ。今まで何人騙されたと思ってる!」
言葉の端々に、すでに何かを失った人間の響きがあった。
その時、外のシャッターが鈍く叩かれた。
影が集まり始めている。
ガラス越しに黒い輪郭がいくつも揺れ、叩き、擦りつけてくる。
茶髪の青年が声を震わせる。
「やばい……また来る……」
シャムスは銃棚を開け、手早く弾薬を確認する。
エリオットもショットガンを手に取った。
「守るぞ」
シャムスが三人に向かって言う。
「ここを抜かれたら終わりだ」
黒人男性が立ち上がり、歯を食いしばった。
「俺も戦う。逃げてばっかはもう嫌だ」
眼鏡の女性も震えながら立ち上がる。
「撃ち方……教えて。死にたくない」
エリオットが乾いた笑いを浮かべる。
「いい心意気だ。生き延びたいなら、引き金に躊躇うな」
シャムスは外の影を見据えながら、短く息を吐いた。
籠城戦が始まる。
小さなガンショップが、崩壊した都市の中で孤島になる瞬間だった。
二階の扉の向こうで、店主が再び怒鳴る。
「いいか!外を片付けたら開けてやる!それまでここは俺の砦だ!」
影がシャッターを叩く音が激しくなる。
ガラスがひび割れ、黒い手のようなものが隙間から侵入しようとする。
シャムスは構えた銃を影へ向けた。
「始めるぞ。全員、俺の指示に従え」
エリオットが低く笑った。
「即席要塞戦だ。生き残りたきゃ、英雄ごっこはやめて実務に集中しろ」
引き金に指をかける。
外は地獄、内は最後の砦。
ここで生き残れるかどうかが、次の未来を決める。




